■2010年01月12日

▼SilentMoon 再開予告

冬コミの打ち上げで師匠から、

続きはどうした?

と、言われてしまいました…汗汗汗


実は、入れたいエピソードが膨らんで、
どうしても上手くまとまらずに悩んでたんですが、
もう思い切って1話増やす事にしました。爆

そんな訳で、第1部後半は7〜10話の4話構成になります!

現在、再構成中。
気長に待っててくださいませ〜。

投稿者 : 20:30 | コメント (0)

■2008年04月07日

▼Silent Moon-六つの月- 1~6話 事件年表

第6話、いかがだったでしょうか?

とりあえず、メイン6人それぞれにスポットを当てた話を一通り公開したわけですが、
現在と過去を行ったり来たりの展開が多かったので、全体の流れがわかりにくかったかな…と。
そんなわけで、6話までに描かれた出来事を時系列に並べた年表を作ってみました。
現時点での設定なので、もしかしたら後で変更があるかもしれませんが…苦笑。
(実際、5話時点で作っていた年表から変更になった部分もあるし…。)

携帯からの閲覧を考慮してタグをほとんど使用していないので、
若干見にくいかもしれませんが、その辺りはご容赦くださいませ。

*

xx/xx 5:雫が彼氏と共に文のバイト先"cafe Marionette"を訪れる。
03/xx  文が高校を卒業。
04/xx 5:THE EARTHがシングル「Marionette」をリリース。
06/xx 3:依子(五月の妹)が"眠りのレリーフ"を入手。
07/xx 3:依子が学校の屋上から身を投げる。依子死亡。
07/下 3:五月が依子の遺品から"眠りのレリーフ"を発見。
08/下 4:優妃の自宅が火事に見舞われる。両親・姉が死亡。
09/xx 3:五月が"月と闇の物語"を知る。
12/24 5:五月・茉莉・錦子が"水の闇結晶"と初交戦。
12/24 5:雫の彼氏が交戦時の事故に巻き込まれ死亡。
01/xx  SilentMoon開店準備開始。
03/xx  相紅が音楽専門学校を卒業。
04/上 4:優妃が一人暮らしを始める。
05/下 5:雫採用。
06/中 5:文・他3名採用。
06/下 5:凛華・粉雪採用。
06/下 5:五月・凛華・粉雪・文・雫が"水の闇結晶"と交戦。
06/下 5:文が"水の闇結晶"(雫)と交戦。雫死亡。
07/02  SilentMoon店舗オープン。
07/02  文Birthday
08/上  相紅採用。(雫死亡による欠員補充のため。)
09/上 4:優妃の部屋に空き巣が入る。
09/上 4:優妃が客として初来店。
09/14  凪姫Birthday
11/上 3:凛華・粉雪・五月が"炎の闇結晶"と交戦。
11/上 3:6人が"炎の闇結晶"(準覚醒体)と交戦。
11/28  粉雪Birthday
02/上 4:五月が"炎の闇結晶"(準覚醒体)と交戦。負傷して暫く休暇。
02/05  錦子・凛華Birthday
02/14  依子(五月の妹)Birthday
02/14 4:五月が職場復帰。
02/14 4:凪姫・弥桜が客として初来店。
02/14 4:五月・凛華・粉雪が"炎の闇結晶"(優妃)と交戦。
02/14 4:五月が"炎の闇結晶"に身体を奪われる。
02/14 4:凛華・粉雪が"炎の闇結晶"(五月)を封印。五月死亡。
03/02  弥桜Birthday
03/中  優妃が高校を卒業。
03/下  メイド3名が卒業。
03/下  凪姫・ノン・弥桜採用。
03/下  凪姫が"HarvestMoon"、ノンが"GibbousMoon"の"使い手"となる。
04/上  優妃採用。
04/24  ノンBirthday
05/下 1:6人が"水の闇結晶"(ゆめか)と交戦。
06/上 2:錦子・凪姫・ノンが"風の闇結晶"(moemiのマネージャ)と交戦。
06/上 6:凛華・粉雪が"水の闇結晶"(優衣の母親)と交戦。
06/中 3:凛華・粉雪・文・凪姫が"風の闇結晶"と交戦。
06/中 3:茉莉が凪姫へ五月の話を語る。
06/下 5:凪姫・文が"水の闇結晶"(女性教師)と交戦。
06/26  相紅Birthday
06/末 6:沙緒採用。
06/末 6:6人+沙緒が"水の闇結晶"の残留思念(優衣のアリス人形)と交戦。
06/末 6:朱月採用。
07/02  SilentMoonオープン一周年で記念イベント開催(1~7日)。
09/上 2:moemiのシングル「その声は届かない…」リリース。

*

以上、よく見るといろんなものが見えてくる年表でした。笑
過去がやたらと多いですが、土台をきっちり作っておかないと
後で辻褄が合わなくなってきたりするので、細かく設定してあります。

あと、念のため注釈を付け加えておくと、ここに挙げた事件は各話で描かれたものだけなので、
実際にはこれ以上の事件が起こっていると思ってくださいませ。
あえて書いていない出来事もあるし…。意味深

近々、画稿の方もアップできればと思ってます。
では、7話書いてきますっ!

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
Copyright (c) 2006-2008 Yull Togami. Magical-Kids. All rights reserved.

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■2008年04月04日

▼Silent Moon-六つの月- 第6話

お待たせしました!第6話、いよいよ公開です。
しかも、今回は前後編に分けずに一気に公開!

それではどうぞ~。

*

1.プロローグ

 人は誰しも、自分が一番幸せでいられる場所を求めている。そして、そんな自分と同じ時間(とき)を過ごしてくれる人も…。だが、必ずしもそこに辿り着ける人ばかりではない。いや、むしろ辿り着けるのはほんの一握りの人たちだけなのだ。だからそんな場所を、人は"楽園"と呼ぶのかもしれない---。

「よせっ!それ以上、力を使うんじゃないっ!!」

 凛華(りんか)が、"闇に憑かれし者"に向かって叫ぶ。
 moemiのライブが行われていた頃、凛華と粉雪(こゆき)は別の場所で"水の闇結晶"に憑かれた女性と対峙していた。

「粉雪!錦子(ぎんこ)たちはどうしたんだ!?」
「どうも、向こうも"闇結晶"だったらしいの!」
「よりによって同時出現かよ…!」

 狭い住宅街での交戦---。迂闊に技を放てば、周囲に被害が及んでしまう。ただでさえ日が落ちて薄暗い上に、動きを制限された路地で二人は苦戦していた。"闇に憑かれし者"が周囲の水を生き物のように操り、それらが波状攻撃のごとく襲い掛かる。限られた空間を駆使して粉雪が俊敏な動きを見せるが、一方の凛華は技を放つタイミングを掴めないでいた。

「私タチヲ不幸ニシタ世界スベテニ、復讐シテヤルノヨ!」

 それは、その女性の心の叫びでもあった。やっと掴んだ幸せを一瞬のうちに失ってしまった彼女の絶望は、"闇"の蝕む速度に拍車を掛け、瞬く間にその心の奥深くまで達していた。凛華と粉雪がその端緒に気づき調査に乗り出したが、時すでに遅く、彼女は幾人かの命を手にかけた後だった。そして、そのことが彼女を更に追い詰めてゆく。

「このままじゃ、彼女の心が壊れるのも時間の問題だ。粉雪、一気に畳み込むぞ!」
「わかったわ!」

 しかしそれが逆に仇となり、彼女はさらに強大な力で二人を排除しようとする。だがその瞬間に、力の放出が彼女の肉体の限界を超える。力を支えきれなくなった身体はまるで飴の様に捻じ曲がり、膨れ上がった四肢は既にその形を成していなかった。

「ばっかやろうっ!!」

 それでもなお二人に襲い掛かろうとする彼女を、凛華が"天使の光輪-Angel Halo-"で捉える。それに合わせて、"螺旋の遠矢-Spiral Arrow-"を放とうとする粉雪。しかし、強引に"天使の光輪-Angel Halo-"を引き裂こうと力を放出した彼女の身体はその臨界を突破し、断末魔の叫びと共に無残に崩れ去る。
 何かにすがる様に天に向かって手を伸ばした彼女から、"水の闇結晶"が離れてゆく。二人の健闘空しく、小さな幸せすら掴むことが許されなかった哀れなひとつの命の火が消えた。

「俺たちじゃ…、俺たちじゃ救えないのかよっ!」

 凛華のその嘆きは、星が瞬き始めた夜空に空しく吸い込まれていくのだった。

第六夜 楽園の果て

2.新しい仲間

 一ヵ月後、一周年を間近に控えたSilentMoonでは新人メイドを迎えていた。一年を経てそれなりに知名度も上がり、連日満席が続く盛況ぶり。嬉しい悲鳴を上げる一方で、"闇"の活動も活発化し、その対応にも追われていた。店舗の営業はギリギリの状態が続き、その反省から新人メイドの採用を決めたのだった。生前、"多くの人を巻き込みたくはない"と言い続けた五月(メイ)…。その遺志との葛藤の中での茉莉(まり)、錦子の英断だった。

「沙緒(すなお)です。よろしくお願いします!」
「一周年イベントも目の前だし、全力でかかるぞ!ビシバシいくから覚悟しとけ!」
「凛華…、せっかく見つけた新人をビビらせてどうするのよ!」

 錦子が呆れ顔で、凛華につっこみを入れる。

「ふふ。凛華さんは、ああ見えて根は優しいのよ。心配しなくても大丈夫♪」

 今日、新人メイドの指導を担当することになっているノンが、少し萎縮している沙緒に優しく声を掛ける。

「じゃ、早速開店準備始めようか?まず、モップはここに立てかけてあるから…。」

 そう言いながら、ノンは壁に立てかけたモップに手を伸ばす。しかし、柄に手を掛けようとした瞬間、一歩前に出した足がモップの先端を踏みつけ、ノンの思惑に反したそれは手をすり抜けて彼女の顔面を直撃する。不意の出来事とあまりの痛みのため、その場にしゃがみこむノン。バツが悪そうに苦笑いをしながら、"よそ見をしていると危険っていう見本だから…"と取り繕う。それをきっかけに、緊張しっぱなしだった沙緒の顔に笑みがこぼれた。

「計算なのか天然なのか…。彼女には、場を和ませる独特の雰囲気があるのよ…ね。」

 その一部始終を見ていた錦子は、失笑しながらも微笑ましく思うのだった。

3.謎の失踪事件

「ノン、ちょっといい?」

 店内に入ってくる早々、怪訝そうな表情の茉莉がノンをバックルームへ呼び出す。今日はシフトに入っていないはずの茉莉が、わざわざ店に出向いてくるとは余程のことなのか。錦子は、バックルームに向かうノンを不安そうに見送る。

「これ見てほしいの。」

 そう言って、茉莉はおもむろに地図を広げる。その地図には、一区画に集中して赤いマークがいくつもつけられていた。

「報道機関に発表されていないものを含めて、ここ一ヶ月の間に起こった失踪事件の発生場所よ。」
「単なる失踪事件で片付けるには多すぎるますよね。これって"闇"の…?」

 ノンのその問いかけに、茉莉は歯切れの悪い言葉で返す。

「そうはっきり言い切れればいいんだけどね。どうも解せない点があるのよ…。」

 茉莉によると、失踪が発生したと思われる時刻に、月が六つに分かれる現象を見た"使い手"がいないのだという。もちろん、ノンも例外ではなかった。"闇"が出現すれば、それを察知した"月の欠片"が月の分離現象を"使い手"に見せるはず…。赤いマークの脇に書かれた時刻を改めて凝視しながら、ノンが口を開く。

「そう言われれば…。これだけの事件が起こっていて、私たちが誰一人として月の分離現象を見ていないというのも変ですよね。ところで、失踪した人たちに共通点は?」
「今のところ、何も見つかっていないわ。ただ…。」
「…ただ?」
「えぇ。良く見てもらったら分かる通り、失踪したと思われる時間帯に幅があるケースが多いでしょ?それは、ピンポイントの時間帯が特定できないからなのよ。」
「それってどういう事なんですか?」
「気づいたらいなくなっていた…。つまり、周囲の者が当人がいなくなっていることに中々気づかなかったケースがほとんどなの。」
「気づかないなんて、そんなこと---。」

 そう言いかけて、あることが頭をよぎったノンが言葉を止める。そういうケースに、当てはまる事例があった。

「もしかして、引き篭もり…?」
「すべてがそうというわけじゃないけどね。そういう傾向だった人や欝だった人、鍵っ子なんかも含めれば、約8割が当てはまることになるわ。」

 確かに、人と交流することに対して消極的な人なら、いなくなったことに気づかれないかもしれない。たとえ目の前でその人がいなくなったとしても、周囲の人間が気づかないことさえあり得るのだ。ノンには、そういったことに心当たりがあった。

「"闇"が関わっているかまだ断定できないんだけど、こう多発していては見過ごすことは出来ないわ。今から調べてくれない?新人指導は錦子に頼んでおくから。」

 シフトを茉莉と交代し、ノンは早速調査に向かう。

4.視線

 ノンは一人、狭い住宅街の一角に立っていた。見通しの悪い街並みは、何処となく"闇"の存在を暗示しているようにも見える。昨晩降った雨のせいか、所々にその痕跡が残り、それが一層沈んだ雰囲気を作り出していた。

「いかにも…な、感じよね。」

 しばらく街中を歩いていたノンだったが、失踪事件の影響もあるのか人通りは少ない。いや、この街の普段の風景がこうなんだろうか。それを除けば、特に変わったところは見受けられなかった。
 だが、失踪事件のあった地点を一巡した頃、ノンは自分へ投げかけられた確かな視線を感じ取る。

「………?付けられてる……!」

 その正体を確かめるため、気づかないふりをしながら、カーブミラーのある場所へと移動する。そして、ミラーに映る謎の人影を視認した。

「女性…、女の子かしら…?」

 ノンは、ミラーに映るその人影をさらに確認するために、ミラーに神経を集中しながら移動する。しかし、その足が水溜りを踏んだ次の瞬間、まるで底なし沼であるかのように、水溜りに引き込まれてしまう。

「しまった…!ギバス・ムーンっ!!」

 ノンは、咄嗟に月の欠片"GibbousMoon"の力を纏う。だが、不意打ちであったこと、まさかこんな昼間に…という油断が、ノンの判断を一歩遅らせてしまった。抗う間もなく、一瞬のうちに半身が水溜りの中へ沈む。その時ノンは、僅かな"闇"の気配を感じる。

「やはり"闇"…?!凪姫(なぎ)…!!」

 全身が水溜りに飲み込まれる刹那、ノンは凪姫にテレパシーを飛ばし、身に付けていたアクセサリに"無限の装飾-Infinity Dress-"を掛けて放り投げる。そのアクセサリは辛うじて水溜りの外に落下したが、ノンは水溜りに飲み込まれてしまった。そして、周囲は何事もなかったかのように、再び静寂を取り戻す。
 その一部始終を見ていたのか、先ほどの人物がその付近に近づき、周囲をうかがう。そして、ノンが残したアクセサリを手に取り、しばらく見つめていたかと思うと、おもむろにその場を立ち去って行った。

5.捜索

「ノンちゃん…!?」

 遅番シフトのために店に向かっていた凪姫に、ノンのテレパシーが届く。すぐさまそれが途切れた周辺へ向かった凪姫は、ノンがテレパシーと同時に飛ばしたビジョンに一致する場所を探す。
 一方、凛華もノンのテレパシーを感じ取り、急遽仕事を抜け出して粉雪と合流、その場所へ向かっていた。

「そういえば、凛華。シフトに入ってたんじゃないの?」
「安心しろ。ちゃんと手は打っておいた。」

 その言い方に、またか…と少し呆れ顔の粉雪だったが、どうせ言ったって無駄なのだ。今日の犠牲者に同情しつつ、先を急ぐ。そして、連絡を取り合いながらそれぞれ周辺を探索するが、ノンがいた痕跡どころか"闇"の気配すら感じることが出来ない。三人は一旦合流し、対策を練る。

「ノンちゃんはテレパシーで、確かに"闇が…"って言ってたんです!」
「しかし、その気配は全く感じられねーな。」
「もし不意打ちに合ったのだとしても、あのノンちゃんが何の痕跡も残さないなんて考えられないわね。」
「痕跡…か…。」

 その時、凛華が三人の様子をうかがう視線に気づく。かなり離れた場所から向けられているためか、粉雪と凪姫は気づいていない様子だ。

「なんだ…?わずかだが、"GibbousMoon"の気配を感じる…!」

 凛華がその視線に意識を集中しようとしたとき、ノンの身を案じ逸る凪姫が再び探索に出ようと駆け出す。その足が水溜りに触れた瞬間、水が絡みつき、凪姫は引き込まれそうになった。

「スパイラル・ブリザード!」

 粉雪が一瞬の判断で"螺旋の吹雪-Spiral Blizzard-"を放ち、凪姫の足元の水溜りを凍らせる。間一髪、凪姫は水溜りに引き込まれるのを免れた。

「凪姫ちゃん、危なかったわね。」
「すいません、粉雪さん。」
「凪姫!ちょっとは警戒しろ!」
「はいぃ…、すいませんっ!!」
「でも、今の…」
「あぁ、確かに感じたな。一瞬だったが…。」

 ほんの一瞬だったが、確かに"闇"の気配を感じた三人。ふとさっきの視線の方向を見る凛華だったが、すでにそこには何も感じられなかった。凛華は粉雪と凪姫に水溜りを調べるように指示し、その視線の主の行方を追う。

「さっきの視線の主が仕掛けやがったのか…?いや、それにしてはやけにあっさり引き下がったな。それにあの"GibbousMoon"の気配も解せない…か。」

 一方、凪姫と粉雪は水溜りを調べていた。

「何の変哲もない水溜りよね。」
「でも、確かにさっき…!」
「水溜り…、"水の闇結晶"なのかしら…?」

 そう呟きながら、粉雪はふと改めて周囲を見渡す。どこか見覚えのあるような薄暗い町並み---。

「そういえばこの辺りって…。」

 粉雪は、以前この付近で"闇"と対峙したことを思い出す。それは、moemiのコンサートがあった同じ日に、"水の闇結晶"に憑かれた女性を救えなかった場所だった。

「偶然…?だとしたら、嫌な偶然よね…。」

6.アリスの嘲笑

 静かに風が流れる草原、小高い丘に立つ巨木の陰に、ノンは倒れていた。
 頬を撫でる風に目を覚ましたノンは、周囲をうかがう。少し離れた場所に見える人影。警戒しながら近づくと、そこには幼い少年少女たちが集まって遊んでいた。その中の一人、青い服を着た少女がノンに近づき、声を掛ける。

「不思議の国の楽園へようこそ。私はアリス。あなたの名前は?」

 無邪気な表情でアリスと名乗るその少女から、他の少年少女たちとは異なる何かをノンは感じとっていた。

「ここはどこなの?」
「ふふ。不思議の国の楽園…貴方の望みがかなう世界よ。」

 悪戯っぽく笑うアリスに対し、ノンは相手のペースには乗らないという意思表示をするかのように、冷静に質問を続ける。

「望みがかなう…?とりあえず、私の望みは元の世界に戻ることなんだけど?」
「あら、どうして?ここは楽園なのよ?ここにいれば、ずーっと楽しいことが続くんだから。」
「楽しい?こんな、見渡す限り何もないところが?」
「そうよ。ここにいれば、あなたの望みは何だって叶うわ。ほら、みんなも楽しそうに遊んでるじゃない。」
「そうね。でも、私はあの子たちよりずっとお姉さんなんだけどな。」
「大丈夫。あなたも向こうの世界に居場所がないんでしょ?だったら、ここにいて優衣(ゆい)ちゃんの友達になってあげて。すぐに仲良くなれるわ。」

 本音はそこか…。アリスの言葉に核心を見出したノンは、わざと挑発するような調子で言葉を返す。

「居場所がないだなんて…。私にはたくさんの仲間が待ってるのよ。こんな所より、ずっと楽しい場所でね。」

 それを聞いたとたん、アリスの表情が険しく曇る。

「嘘!あなたの心の向こうに、一人ぼっちのあなたが見えるわ。一人ぼっちで泣いてるあなたが…。」

 その言葉が、まるで呪文のように胸に突き刺さり、ノンは以前の自分を思い出す。そしてそれを見透かしたかのように、アリスが不気味に微笑む。その瞬間、ノンの身体に変化が現れ始める。少しずつ自分の視線が低くなっていることに気づいた彼女は、咄嗟に"無限の装飾-Infinity Dress-"を放つ。光の粒子がノンの身体を包み込んで広がり、彼女の身体にまとわり始めた黒い粒子を弾き飛ばす。同時に身を翻し、ノンはアリスと距離を取った。

「今のは何…!?」

 開いた両手を確認したノンは、それが若干小さくなっているような違和感に気づく。いや、まるで年齢が逆行したかのように若返っているのだ。確かに、自分の視線の高さもアリスに近づいている…。

「さっきまとわりついた黒い粒子に、年齢逆行の作用が…?と言うことは、あの子供たちは行方不明の…!」

 子供達の方向を見るノンだったが、当の子供たちは、こちらで起こっていることなど気にも留めず、無邪気に遊び続けている。

「楽しそうでしょ?ほら、あなたも心を開いて。一人はイヤ、寂しいのはイヤ…。だったら、永遠にここに居ればいいのよ。それがあなたの望み…。」

 アリスは不敵な笑みを浮かべ、この手を取れと言わんばかりに差し出す。ここは、一旦引いたほうが得策…。そう判断したノンは、アリスから遠ざかる方向へ走り出す。

「でも…ここは多分、あのアリスが作り出した空間。一体どこへ逃げれば…。」

 その様子を見て、アリスが無邪気に、そして悪戯っぽく呟く。

「あら、鬼ごっこ?逃げても辛い思いをするだけなのに…。」

7.沙緒の力

 その頃、まったりとした空気のSilentMoonの店内では、錦子が沙緒を指導していた。すると突然、息を切らせた弥桜(みお)が飛び込んでくる。

「どうしたのよ、そんなに急いで。あなた、今日はシフトに入ってないじゃない。」
「だって…これっ!」

 息が荒いまま、弥桜は携帯電話に届いたメールを錦子に見せる。そこには、たった三文字「代われ」とだけ打たれたメールが表示されていた。差出人は---

「凛華…!さっきから見かけないと思ったら、また…!」

 強制的に交代指示のメールを打って、いつの間にか消える。それが凛華の得意技だった。そして、主にその犠牲になっているのが弥桜なのだ。

「ホントごめんね、弥桜。凛華には後で厳しく言っとくから、とりあえず着替えてきて。」
「いえ、いいです。もう慣れました。いつもの事だし…。」

 そう言いながら、弥桜は疲れた表情でバックルームに向かう。そんなやりとりを見ていた沙緒が、錦子に質問する。

「凛華さん、どうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたも…いつもの事なんだけどね。凛華はよく、何にも言わずに突然消えるのよ。もちろんサボってる訳じゃないんだけど。せめて一言断って行けって言ってるのに…。」
「そういえば、ノンさんもいらっしゃらないみたいなんですけど…。」
「あぁ。ノンは茉莉さんにお使い頼まれて出かけてるのよ。」
「そうなんですか…。」

 少し残念そうな表情をする沙緒に対し、錦子が少し皮肉っぽく笑いながら問う。

「あら、私じゃ不満?」
「いえっ!そういう意味じゃなくて、すごく親しみやすそうな人だったんで…。あ、錦子さんが親しみやすそうじゃないと言うわけではなくって…。えーと、えーと…、あのツインテールが可愛いなって…。いや、私、何言ってんだろ…。」

 沙緒はバツが悪そうに、食器を片付け始める。動揺してあせるそんな沙緒の姿を、錦子は微笑ましく見つめながら思う。

「名前どおり、素直ないい娘ね。でも、この娘が私と同じ"CrescentMoon"に適応するって、ちょっとピンと来ないけど…。かつての五月さんも凪姫とは全く正反対なキャラクターだったしね。"月の欠片"とそれに適応する者って、どういう基準で選ばれるのかしら…?」

 そんなことを考えながらふと目を放した途端、キッチンの前でガラスの割れる音が鳴り響く。どうやら、動揺が治まっていなかった沙緒が食器をひっくり返したらしい。

「失礼しました!」

 客席に向かってそう挨拶し、錦子は沙緒の元に駆け寄る。

「大丈夫?怪我はない?」
「はい…、すいません…!ちょっと焦ってて…。」
「ま、失敗は誰でもするわよ。大事なのは、その後の処理。ほら、モップ取ってきて。」

 散乱した食器の破片を拾い集めながら、錦子は沙緒に指示を出す。それに従い立ち上がった沙緒だったが、動揺しきっているためか足がもつれてふらついてしまう。それを予測していたかのように、錦子がすかさず沙緒を支える。

「焦りは禁物…。一度深呼吸して落ち着くといいわよ。」

 緊張をほぐそうと錦子が笑顔でアドバイスをすると、少し落ち着いたのか、沙緒は深く息を吸い込む。その瞬間、沙緒の脳裏にビジョンが飛び込んでくる。深く木々が生い茂った薄暗い場所。それらが風に揺られる音に混じって、荒い息遣いが聞こえる。リズム感を失った足音と共に、その人物の顔が沙緒の脳裏に飛び込む。だがそのイメージは、風船がはじけるように一瞬で消え去る。

「ノンさん…!?」
「ん、どうしたの?何かあった?」
「いま一瞬だけど、ノンさんの姿が見えたんです。樹がたくさん生い茂ってる森みたいな場所で、何かに追われるような感じで走っていた気がします…!」
「ノンが…?」

 錦子がふと自分の胸元に目をやると、月の欠片"CrescentMoon"が僅かに輝いていた。自分は力を使っていない。もしかしたら、沙緒と近づいたことで"CrescentMoon"が彼女に反応したのだろうか。もし、沙緒が見たビジョンが"月の欠片"の力によるものであれば、ノンの身に何かが起こっているのかも。そうか、だから凛華も…!
 不安を感じた錦子は、粉雪にテレパシーで呼びかける。そして、ノンが行方を絶っていることを知らされたのだった。

「沙緒も私と同じ"CrescentMoon"に適応する者…。でも、私に見えなかったものが沙緒には見えた。もしかして、同じ"月の欠片"に適応しても、その力の現れ方には少しずつ違いがあるのかも…?」

 そう言えば、かつての雫(しずく)と文(ふみ)、五月と凪姫、そして茉莉とノンも、力の現れ方が少しずつ違っていた。もしかしたら、"CrescentMoon"の力も沙緒には自分と違った形で発現するのかもしれない。そう考えた錦子は、沙緒に"CrescentMoon"を託す。

「沙緒。あなたになら、ノンを見つけられるかもしれないわ。」
「わ…わたしが…?」
「えぇ。"月の欠片"から流れ込む力に、自分の心を同調させるの。そうすれば、あとは力が形となって発現するわ。」
「はい…!やって…みます!」

 ノンの為に何かが出来るなら…。その"想い"が、徐々に"月の欠片"に作用し始める。沙緒の手の中で"CrescentMoon"が少しずつ輝き始め、それに同調するかのように沙緒の脳裏にノンの姿が浮かび上がってゆく。

8.追いつめられるノン

 ノンは、深い森の木々の間に身を潜めていた。薄暗く生い茂った木が、皮肉にもアリスからその姿を隠している。周囲を窺いながら、ノンは冷静に分析を始める。

「この世界、まるで現実味が感じられない…。そう…夢の世界のような…。」

 そうか。おそらくは、誰かの強い"想い"が生み出した幻の世界、仮想空間なんだわ。だとしたら、あのアリスはこの世界の主、この世界を作り出した張本人---。

「でも、それにしては妙だわ。さっきの無機質な感じ、アリスには人間らしさが感じられなかった…。闇に喰われた人間のそれとは違う、感情の見えない冷たさ。いや、むしろひとつの目的を成すために作られた機械のような---。」

 その時、ノンの背後から声が聞こえる。

「ふふふ…、こんな所にいたのね。逃げられると思ったんだ?」

 咄嗟に振り向いたノンの目に飛び込んできたのは、冷たい笑みを浮かべながら宙に浮くアリスの姿。もしこの世界がアリス自身が生み出したものであるなら、宙に浮いているのも不思議ではない。むしろ、ノンの居場所など手に取るように分かるはずなのだ。これは、追われることによる恐怖心を植えつけるための演出。アリスは、その恐怖心を利用している…!
 そして、アリスが静かに右手を上げる。それを合図に、ノンの周りの木々は不思議の国のキャラクターたちに変わり、ノンに襲い掛かる。咄嗟に身を翻し、"無限の装飾-Infinity Dress-"を放つノン。しかし、目の前に迫ったキャラクターが霧散したのもつかの間、間伐を入れずにすぐさま次のキャラクターたちが襲い掛かる。そして、キャラクターたちがノンに接触するたび、ノンの年齢が逆行し始める。逃げ場のないノンは、次第に追い詰められてゆく。

「冷静に考えるのよ、ノン。このままじゃ、あの子供たちと同じに…!」

 その時、ノンは自分に接触したキャラクターたちが、先ほどと同様、黒い粒子となってまとわりついていることに気づく。エネルギーの粒子となったそれが、年齢逆行の源となっているのか…!

「そうか…。この空間が誰かの強い"想い"の力で生み出されたものなら、ここはエネルギーの集まりで構成されているはず。なら、空間自体に"無限の装飾-Infinity Dress-"を放てば、あるいは…!」

 ノンは、自分の足元に向かって"無限の装飾-Infinity Dress-"を放つ。ノンの予想通り、足元の大地を構成していたエネルギーが霧散し、小さな抜け穴が出現する。ノンは即座に、その穴に向かって滑り込むように飛び込んだ。

「往生際の悪いお客様ね。優衣ちゃんの大切な場所でこんなに暴れて…。ちょっとお仕置きしないとね。」

 アリスが冷たく笑うと、周囲に果てのない暗黒の空間が広がり始める。その空間は、穴に飛び込んだノンを追いかけるように、急速に拡大してゆくのだった。

9.対峙する凛華

 その一部始終を垣間見た沙緒は、錦子に詳細を伝える。それを聞いた錦子は、テレパシーで粉雪に呼びかける。

「さっきからノンにテレパシーで呼びかけてるんだけど、応答がないのよ。」
「こちらも同じ。何だか、妙なノイズで邪魔されてるみたいな…。」

 その会話を聞き、凪姫が口を挟む。

「ノイズ…!?そういえば、あの時も…!」

 凪姫は、文と二人で"闇"に憑かれた女性教師と対峙した際、校舎全体がノイズに包まれたようになっていたことを思い出したのだ。あの時の"闇結晶"も、確か"水の闇結晶"だったはず…!

「もし、沙緒が見たアリスが"水の闇結晶"だとしたら、テレパシーが通じないのも頷けるわね。」
「なら、何とかしてその空間に入る方法を考えないと。」
「空間に干渉するなら文の助けが必要だわ。今、そっちへ向かってるはずだから、合流して手を考えて。」
「そんな悠長なことをやってる場合かよ!先手必勝、こっちから仕掛けるぞ!」

 会話の一部始終をテレパシーでキャッチしていた凛華が、錦子の指示を阻むかのように会話に割り込む。

「ちょっと凛華…!何する気なの!?」
「そういえば、凛華は単独行動してたんだっけ…!」

 状況がわからず慌てる錦子と粉雪をよそに、凛華は行動を開始する。彼女は、先ほどの視線の主と思われる人物を見つけ出し、距離をおいて追跡していたのだった。

「凛華!一人で仕掛けるのは危険…!」

 しかし、そんな錦子の声には耳も貸さず、身軽に宙を舞ったかと思うと、一気に距離を詰めてその人物の目の前に立ちふさがった。突然現れた凛華に驚き、その人物は後ずさりする。

「だ…誰なんですか…!?」
「誰かは分かってるんじゃねーのか?」

 それは、一見高校生くらいに見える女性。身長はさほど高くなく、上から見下ろす凛華の威圧に、細身の体をこわばらせている。何かを持っているのか、その手は強く握り締められていた。
 一方、単独行動の凛華の身を案じた錦子は、沙緒を連れて現場へ向かう。

10.闇に堕ちるノン

 その頃、ノンはダンジョンを彷徨っていた。先ほどアリスが広げた暗黒の空間は、逃げたノンをも飲み込み、無限のダンジョンを形成していた。鏡で囲まれたダンジョン、そこに映る幾重にも重なる自分の姿…。その姿のひとつひとつが、ノンの過去のビジョンを映し出してゆく。

「これは…私の過去……。」

 そのうちのひとつが、静寂に包まれた部屋を映し出す。そして、カギを開ける音が響くと共にドアが開き、小さな人影が部屋に入ってくる。それは、幼い頃のノンであった。共働きの両親、誰も居ない部屋…。彼女の話し相手はいつも、愛用の人形だった。
 また、別の鏡に別のビジョンが映し出される。本棚に並べられたたくさんの本、それに囲まれた部屋の中心に座る子供時代の彼女。その中の数冊が、ノンの愛読書だった。そして、画用紙にその本の世界を想像して絵を描いていたあの頃…。いつしかそれが、彼女の時間の過ごし方になっていた。
 本を読むこと、絵を描くことが、一番自分らしくいられる。そんな彼女が学校で友達と交わす言葉は、日常の挨拶程度。気がつけば、教室の隅で静かに読書をしている。人と交わることを避けるようになった彼女が最後にいついた場所は、学校の図書室だった。ほとんど人が来ない図書室で、自分のお気に入りの本を何度も何度も繰り返し読みふける---。

「わたし…わたしはいつも、一人ぼっちだった…。」

 その瞬間、それを待っていたかのようにアリスの声が響く。

「そう。あなたは一人、ひとりぼっち…。でもここにいれば、あなたはあなたの望む世界で、あなたが望む通りに居られるのよ。」

 まるでその声に導かれるように、ノンの周囲が暗黒の霧に包まれ、彼女はその闇にのまれて行く。

11.視線の女性

 現実の世界では、凛華と"視線の女性"が対峙していた。両者とも一歩も動かず、睨み合いが続く。しばしの静寂のあと、凛華が口火を切る。

「お前から、"GibbousMoon"の気配がプンプンするぜ。説明してもらおうか?」

 凛華が一歩足を踏み出すと、"視線の女性"は身構えて一歩後ずさりする。凛華はさらに、女性に迫る。

「ノンをどこへやった!!」

 その声に驚き、"視線の女性"は突然逃げ出す。予想しなかった行動に面食らいながらも、凛華はすかさず大地を蹴り、女性の前に着地して立ちふさがる。その身のこなしに逃げることを観念したのか、彼女はその場に頭を抱えてしゃがみこんだ。

「ご…ごめんなさいぃ!これはお返しします!」

 そう言って彼女は、凛華に向かって右手を差し出す。その手には、アクセサリらしきものが握られていた。彼女を"闇結晶"に憑かれた者だと思い込んでいた凛華は、拍子抜けする。

「な…なんだ…?」
「これ…、あなたが探してるのはこれなんでしょ。悪気は無かったんです。でも、何か呼ばれたような気がして、つい手にとってしまったんです!」
「なんだ、それ…。"GibbousMoon"じゃないのか。どういう事だ?」

 状況が飲み込めず困惑しているところへ、錦子と沙緒が駆けつける。凛華が危ない橋を渡っていると思い込んでいた錦子も、拍子抜けた感じで話し掛ける。

「どうなんてんの?」
「それは俺様の方が聞きたいくらいだ。何が何だか…。」

 その時、女性が握るアクセサリを目にした沙緒が、口を開く。

「ノンさんが…ノンさんが近くにいます!」
「なんだって!?」

 その会話を聞いていた女性が、恐る恐る会話に割り込む。

「あの…、もしかしてその"ノン"って言う人、こう…長めの髪をツインテールに結んだ…。」
「なに!やっぱり知ってやがったのか…!」
「ひ…、ごめんなさい!!」

 女性のその様子を見て悪意がないことを悟った錦子が、彼女と凛華の間に割って入る。

「あなた…、その女の子がどこに居るのか知ってるの?」
「いえ、知ってるって言うか…、私の目の前で急に姿を消したんです。そしてら、このアクセサリだけが残ってて、それで…。」
「あなたが見た様子、もう少し詳しく話してもらえないかな?」
「は…はい…。」

 "視線の女性"が、ここに来た経緯を話し始める。
 その話によると、彼女は人より強い霊感を持っているのだという。たまたまこの付近を通りかかったとき、強い霊力に引かれてこの場所へ来たらしい。その時、霊に同調するかのような波動を発するノンを見つけ、後をつけた。そして、距離をとりながら観察していた所、急に目の前で姿を消したと言うのだ。

「私、普段は霊のすぐ近くを通ったときに、微かに声が聞こえる程度なんです。でも、このアクセサリを持った瞬間から、ずっと誰かが呼んでる声が聞こえてるんです。だから私…なんとかしてあげたくて…。」

 彼女はその霊感で、今まで何件かの行方不明事件解決のきっかけを作ってきたのだと言う。でも自分が出来るのは、偶然近くを通ったときに微かなその声の所在を見つけることだけ。ところが、このアクセサリを手にして以降、霊の声がはっきり聞こえるようになり、この周辺を探索していたらしい。

「とりあえず、あなたがアクセサリを拾った所に案内してくれないかな。」

 "視線の女性"は静かに頷き、三人を案内してノンが姿を消した場所へ向かう。

「沙緒、まだノンの気配は感じる?」
「はい。あのアクセサリを通じて、ノンさんが近くに居るのが…。」
「そうか…。多分、あのアクセサリが何らかの形でノンに繋がっているんだわ。もしかしたら、ノンが姿を消す直前に目印として残したものなのかもしれない。」

 しばらくして、"視線の女性"と錦子達三人は、ノンが姿を消した場所にたどり着く。そして時を同じくして、テレパシーで連絡を受けた文、凪姫、粉雪も合流する。

「ここです。あの水溜りの近くで、急に姿が見えなくなったんです。」

 誰?という顔で"視線の女性"を見る粉雪たちに、錦子はこれまでの経緯を説明する。その最中、凪姫が女性の持つアクセサリに気づき、おもむろに駆け寄って手に取る。

「これ…私がノンちゃんにプレゼントしたアクセサリだわ。ほら、ここに"to None"って彫ってあるもの…!」
「やっぱり…!」

 その瞬間、沙緒の脳裏にさらに鮮明なビジョンが浮かび上がる。ノンがアリスの世界に引き込まれる間際、凪姫に助けを求めて残したアクセサリ。凪姫がそれに触れたことにより、アリスの世界とこの世界により強い繋がりが生まれたのだ。

「ノンさん、ダメ!闇に飲まれないで…!」

 ビジョンを通じてノンの危機を知った沙緒が叫ぶ。アリスの闇に飲まれ、自分を見失い掛けているノン。このまま闇に堕ちれば、こちらの世界に戻れなくなってしまう…!

「ノンちゃん!」

 沙緒の叫びを聞き、アクセサリを強く握り締める凪姫。その想いが、ノンと凪姫の間に光の絆を築く。その光は、先ほどの水溜りに向かってまっすぐと伸びていった。

「文!そこの水溜りよっ!」
「よし…、ムーンライト・ダークネスっ!!」

 文の懇親の一撃が、水溜りを切り裂く。

12.導く光

 一人ぼっちの学生生活。授業とバイト、それ以外は絵を描いていただけの毎日。相変わらず、日常会話を交わす程度の友達以外、話す相手もいない。いや。以前にも増して、自分の世界に閉じこもるようになっていた自分。好きな漫画の世界を一緒に語り合える友達がいれば…。そんなことを考えたりもしたけど、一歩踏み出す勇気がなくて、オタクだと思われたくなくて、ホントの自分をずっと隠し続けてた…。

「あれ?それ、あなたが描いたの?可愛いっ!」

 ノートの隅っこに描いた落書き。授業でたまたま隣に座った彼女が、その小さな落書きに気づいて声をかけてきたのだ。咄嗟に隠す私に、無邪気な態度でさらに話しかける。

「えーなんで隠しちゃうの…。すごく上手いじゃない。」

 その人懐っこい笑顔に引きずられるように、私は今まで誰にも話したことのなかった話題をいつの間にか話していた。まるで、ずっと以前からの友達のように…。

「そうだ…。私は、彼女と出会えたおかげで、変われたんだ---。」

 その時、ノンに向かって一条の光が差し込む。その光は次第に輝きを増し、その中にノンが求める真実の光が浮かび上がる。そう、凪姫という光が---。

「凪姫---!」

 ノンが伸ばした手と光が触れ合った瞬間、ノンの周囲の闇が裂け、光に包まれる。その光は仮想空間を引き裂き、水溜りへの道を開く。水溜りから立ち上る水柱。それに押し出されるように、ノンの身体が飛び出してくる。それを見た凪姫が、誰よりも速く駆け寄った。

「ノンちゃんっ!」
「凪姫…。まだ…囚われてる人たちが…他にもいるの…。」

 水溜りを振り向いた凪姫の目に、水柱の中から現れたアリスの姿が飛び込む。そして、怒りに満ちた表情で、アリスが叫ぶ。

「優衣ちゃんの世界を壊す悪い人たち、みんな消えてしまえ!」
「てめーが、黒幕か!エンジェル・ハイロゥっ!!」

 アリスの攻撃より一瞬早く、凛華が"天使の光輪-Angel Halo-"を放つ。しかし、それに捕らえたかに見えたアリスは、一瞬の内に凛華の背後に回りこむ。

「ちっ!どうなってやがるんだ!?」

 困惑する凛華に向かって、沙緒が叫ぶ。彼女は、"CrescentMoon"の持つ力"真紅の旋風-Crimson Gale-"を介して、アリスの真の姿を見抜いたのだ。

「そのアリス…、アリスの中に仮想空間が見えます!アリスは…人形---!」
「そうか、なら…!ムーンライト・ダークネスっ!」

 文が再び、水溜りめがけて"月光の陰影-Moonlight Darkness-"を放つ。水溜りを突き抜けたそれは、その向こうに広がるアリスの内空間へと達し、仮想空間ごと内側からアリス人形を切り裂く。真っ二つに引き裂かれたアリス人形は粒子となって消え、崩壊した仮想空間から囚われていた人たちが次々と吐き出される。吐き出された人達からは、黒い霧が煙のように立ち上っては消え、それぞれが元の姿に戻っていった。

「人形だったのか。だったら、"闇"の本体は何処に…?」

 周囲を警戒する皆をよそに、"視線の女性"が口を開く。

「泣いてる…!」

 そう呟くと、女性は目標を定めたかのように突然走り出す。それを見た粉雪が、凛華と目配せをして共に後を追う。

13.哀しき真実

 "視線の女性"は小さなアパートの前で足を止め、2階を見上げて確信したように駆け上がってゆく。凛華と粉雪は、周囲を警戒しながら女性の後を追う。2階の一番奥の部屋に向かって、まっすぐに駆けてゆく女性。ドアノブに手をかけ、ひと呼吸おいた後、静かにドアを開ける。

「ママ…、ママはどこ…?」

 締め切ったカーテンの薄暗い部屋、決して広いとはいえない室内の中央に、まだ幼い少女が一人泣きながら立っていた。その手には、先ほどのアリス人形が握られている。

「こいつが"闇結晶"に…!」
「待って、凛華!」

 身構える凛華を、粉雪が制止する。二人のやり取りをよそに、"視線の女性"はその少女にゆっくりと近づいてゆく。

「どうしたの?何で泣いてるの?」
「お姉ちゃん、ママがいないの…。何処へ行ったの…?」
「あなた…私の声が届くのね。ママはいついなくなったの?」
「ずーっと前…、ずーっと前から私一人ぼっちなの。」
「そうなの…。寂しかったよね。」
「うん。お友達のアリスちゃんしかいなくて寂しかったの。でも、アリスちゃんもお話してくれなくなっちゃった…。」
「そう…。ママに会いたいよね。」
「うん、会いたい。ママはどこ…?」
「じゃあ、ママの姿を思い浮かべて。そうしたらきっと、ママに会えるよ。」

 その少女からは敵意は感じられない。会話の内容がいまひとつ理解できない凛華と粉雪だったが、成り行きを静かに見守っていた。"視線の女性"の言葉に促されて、少女は静かに眼を閉じる。そして女性がゆっくり手をかざすと、その手の先に徐々に人影が現れてゆく。その人影がはっきりとした形を成し始めた瞬間、凛華が粉雪に向かって声を挙げた。

「おい!あの女は…!」

 二人は、その人影に見覚えがあった。あの日、錦子たちがmoemiのコンサート会場で"闇"と対峙していた同じ日に、自分たちの力が及ばず救えなかった"水の闇結晶"に憑かれた女性であった。

「目を開けてごらん。」

 "視線の女性"の言葉に従い、少女は静かに目を開ける。その人影が目に入ったのか、それまで沈んだ表情だったのが、一気に明るい表情へと変わる。

「あ…、ママだ!ママっ!」

 少女は無邪気にその人影に駆け寄り、思いっきり抱きついた。そして、ひとつになった少女と人影の周りに光の粒子が浮かび始め、泡の様に天に上ってゆく。それを見送るように、"視線の女性"は優しい眼差しで天井を見上げる。まるでイルミネーションのような輝きがしばらく続き、やがて静寂が訪れた。

「今のは一体…?」

 そう問いかける凛華に対し、"視線の女性"はゆっくりとふすまの向こうを指差す。凛華は静かにふすまに近づき、勢いよくそれを開いた。

「きゃっ…!」

 ふすまの向こうを見たとたん、思わず目をそむける粉雪。そこにある小さなどす黒い塊は、思わず逃げ出したくなるほどの異臭を放っていた。そして、かろうじて確認できる四肢が、それがかつて人であったことを物語っている。右手と思われる部分に握られた、真っ二つに裂けたアリス人形…。そう。それは紛れもなく、先ほどの少女の亡骸だった。その有様を見た凛華はすべてを悟る。

「これが…これが俺たちの限界かよ…!!」

 凛華たちが救えなかった女性には、子供がいたのだ。おそらくその子は、母親が命を落としたことを知らず、ただ一人、ずっとこの部屋で待ち続けていたのだ。やがて食べるものもなくなり、それを得る術がなかった少女は、衰弱して死を迎える。それを物語るかのように、部屋の中には菓子の包み紙やジュースのペットボトルが散乱していた。
 やり場のない感情に、拳を握り締める凛華。その拳に手を添え、粉雪が声をかける。

「ここからは、私たちの仕事じゃないわ。行きましょう…。」

 凛華の背を押しながら玄関へ向かう粉雪。二人が"視線の女性"の前を通り過ぎようとしたとき、彼女が声をかける。

「これ、お返しします。」

 彼女は、ずっと握り締めていたノンのアクセサリを粉雪に差し出す。粉雪は黙ってそれを受け取り、凛華と共に部屋を出て行こうとする。そんな二人を見ながら、"視線の女性"が口を開く。

「私…、いつもはすぐ近くの霊の声が、一方的に聞こえるだけなんです。だから、いつも何も出来ずに悔しい思いをしていた…。でも、今日はあの子の呼ぶ声が遠くから聞こえて、会話を交わすことも出来た…。きっと、このアクセサリに込められた力のおかげだと思います。」

 その言葉に凛華は立ち止まり、押し殺す様な声で返す。

「だが、俺たちがあの子の母親を救えなかったのは事実だ。救えていたら、あの子も命を落とすことはなかった…!」
「でも…それでも、あの子の魂は救われました。この力がなかったら、あの子の魂はずっとあそこで彷徨い続けてた…。あの子、最後に言ってくれたんです。"お姉ちゃん、ありがとう"って---。」
「魂だけ救えたって意味ねぇだろ…。」
「凛華…!」

 粉雪は女性の方を向き、ごめんなさいね、という風に囁く。そして、凛華の背を押しながら足早に立ち去ろうとする粉雪に、"視線の女性"が思いつめたような声で想いを投げかける。

「あの…。その力が何なのか、あなたたちが何者なのかはわからないけど、今まで私が出来なかったことを成せる力がある…。それに巡り合ったのは、偶然じゃないと思うんです。何か…、私にも何かできることはありませんか!?」
「中途半端な気持ちで関わらねぇ方がいい。でなけでば、次にああなるのはお前だ。」
「もう!」

 凛華を小突き、粉雪が女性のほうを向き直って応える。

「もしあなたが、誰かのために何かをしたいって気持ちがあるなら、アキバにある"SilentMoon"って言うメイド喫茶を尋ねてきて。」
「おい…、粉雪!」

 何を言い出すんだ、という表情で睨む凛華に、粉雪は真剣な表情で返す。

「彼女の目…本気よ。多分、今まで私たち以上に沢山の死に直面してきたんじゃないかしら。私たちが"使い手"になったのも、同じような動機だったじゃない。少なくとも彼女は、"GibbousMoon"の力に反応した。それだけでも"本物"だと思うわよ。」

 ちっ、勝手にしろ、という風に、凛華は不機嫌な態度で部屋を出てゆく。その後を、なだめるような言葉をかけながら追いかける粉雪。そんな二人を、"視線の女性"は深く一礼しながら見送るのだった。

14.エピローグ

 翌日の夜、開店後のSilentMoonではミーティングが行われていた。

「後味の悪い事件だったな…。」

 凛華は、自分の力不足で起こってしまった事件だと、自分を責めていた。皆が、どうしようもなかった事となだめても、納得できない様子だ。
 後で判ったことだが、"水の闇結晶"に憑かれた女性は天涯孤独の身の上だったらしい。そして、生まれ持った優しい性格のために逆に人に騙され、利用される人生を送ってきた。そんな彼女に小さな幸せが訪れる。ある男性と出会い、その人との間に授かった新しい命。それが、彼女がやっとの思いで手に入れた楽園だった。
 しかし、それも長くは続かなかった。深夜、家路を急ぐ男性に悲劇が降りかかる。制限速度の2倍以上で走行していた暴走車。それが、彼女の愛するものを奪ってしまう。しかも、そのドライバーは泥酔状態であったのにも関わらず、その裁きは驚くほど軽いものだったのだ。そう、まだ若いその男は、地元の有力者の息子だった。
 そして、悲しみに暮れる彼女に悪魔が囁く。凛華と粉雪が彼女に辿り着いたとき、彼女はすでに何人もの命を手にかけた後だった。

「やりきれないわね…。」
「でも、彼女を追い詰めた人たちこそ、"闇"そのものじゃない…!」
「そうね。そういう人たちの心こそが"闇"を生み出し、力を与えるのかもしれないわね。」

 店内に、沈黙と重苦しい空気が漂う。そんな空気を換えるべく、錦子がある疑問を投げかける。

「でも、今回の事件、結局"闇結晶"は一度も現われなかった…。どういう事なのかしら…?」

 それに対し、唯一、アリスが生み出した世界をその身で体験したノンが答える。

「多分…人の"想い"が"闇"の力に反応したんじゃないかと思うんです。詳しく調べてみないと、確かなことは言えないですが…。」
「"想い"…?」

 あの少女の母親が"闇"に喰われて絶命する直前、残った僅かな母親としての心の欠片が子供の行く末を案じ、その"想い"と"闇"の力が反応して、少女がずっと大切にしていたアリス人形に憑依した。そして、アリス人形に自我が生まれたのではないだろうか?

「昔から、大切にしている人形には魂が宿る、て言うじゃないですか。普段から、母親が留守の間の遊び相手があのアリス人形だったのだとしたら、人形に魂が宿っていたのかもしれません。あの人形は、あの子がずっと一人で寂しがっているのを身近で知っていた唯一の存在---。」

 その人形が自我を持ち、あの少女の"一人は寂しい"という"想い"に応えた。そして、周りで同じ想いを抱いていた人たちのそれを礎に、あの偽りの"楽園"を組み上げたのではないだろうか。

「誰かが意図したわけではなく、母が子を思う一つの"想い"をきっかけに紡がれていった"想い"の集合体…。それが、今回の事件の真相じゃないかと思うんです。」
「でもそれも、あの少女の命を繋ぐ術には成りえなかった。誤った方向へ使われた力か…。」

 そう言った粉雪の脳裏には、あの母親が絶命する刹那、何かにすがる様に天に向かって手を伸ばしていた姿がよみがえる。

「でもな、ノン。理屈は分かるが、どこかで誰かがあの人形を操っていたという線も捨て切れないぜ。」
「いえ、それはないと思います…。あの世界にとらわれて、あの世界が持つ空気を直接感じたから分かるんです。」
「"想い"で紡がれた力…。純粋ゆえに起こってしまった事件…か。でもそれって---」

 錦子が疑問を口にしようとした瞬間、ドアが開いて茉莉が入ってくる。

「みんな集まってるわね。丁度良かったわ。」

 茉莉は背後を振り向き、入って、と誰かを招き入れる。茉莉の背後から現れた小柄な人物を見るなり、凛華が声を上げる。

「お…お前…!」

 凛華とは対照的に、粉雪はその人物に優しい笑みで応える。

「いらっしゃい。来ると思ってたわ。」

 凛華と粉雪以外の皆も、お互い顔を見合わせて口々に小声で話している。そう。それは、昨日の事件で居合わせた"視線の女性"だった。

「朱月(あるな)です。よろしくお願いします!」
「ちょっと茉莉さん!そんなに簡単に---。」

 不満そうな凛華に対し、茉莉が諭すように説明する。

「もちろん、あなたたちと同じようにちゃんと意思確認はしたわよ。知ってると思うけど、彼女は"GibbousMoon"に適応する人物よ。五月の想いを大事に思ってくれる凛華の考えは嬉しいけど、実際人手は足りてないしね。昨日、みんなが出て行った後、大変だったんだから。」
「ま…まぁ、茉莉さんが決めたんなら、しょーがねぇな…。」

 凛華は不満げな口調で、朱月の方を見ながら檄を飛ばす。

「覚悟を決めてきたんだろうから、全力で鍛えるぞ!ビシバシいくから覚悟しとけ!」
「凛華…、せっかく来てくれた新人をビビらせてどうするのよ!」

 また言ってる…という表情で、錦子が愚痴をこぼす。そのやり取りに、沈んでいた室内が少し明るさを取り戻す。そして、朱月と挨拶を交わす皆を見ながら、ノンは先ほど錦子が言いかけた言葉を思い出していた。

「錦子さんがさっき言いかけた言葉…。もしかしたら、私と同じことを考えていたのかもしれない。」

 あのアリス人形が、本当に母親の"想い"をきっかけに自我を持ち、あの空間を作っていたのだとしたら、それは何かの力を他の力に変化させる"無限の装飾-Infinity Dress-"そのもの…。それが、"闇"の力によって起こされたのだとしたら、"闇"の力と"月の欠片"の力は---。

「ううん、そんなはずないわよね。考えすぎ、考えすぎ…。」

 自分の考えを否定するように、ノンは小さく首を振る。そんなノンの背後から、ふいに凪姫が腕に抱きついた。

「な…なによ、凪姫!びっくりするじゃない。」
「ノンちゃん。さっきの話だと、"一人が寂しい"って思ってる人たちが取り込まれた、てことよね。何でノンちゃんが取り込まれたの?もしかして、いつも寂しいって思ってる?それに、私も取り込まれそうになったんだけど、何でかな?」

 図星を突いた凪姫の質問に、ノンは少し動揺しながら答える。

「え…。それはその…ほら、"月の欠片"の力と"闇"の力が引き合ったんじゃないかな?これからは、お互いもっと気をつけないとねぇー。」
「ホントにぃ?凛華さんも粉雪さんも一緒にいたのに、何で私たちが…。おかげで、また凛華さんに怒られたんだから…。」

 以前は一人で過ごすことが多かったノンが、メイド喫茶で働くほど社交的になったのは、まぎれもなく凪姫との出会いがきっかけっだったのだ。そして自分が危機に陥ったとき、無意識に助けを求めたのも凪姫…。そんな"想い"がアリスの世界に引き込まれる引き金になったことは、ノンには明白だった。

「あぁ。私たちドジっ娘だからね。多分、"闇"もそういう"使い手"を狙ったんじゃない?」

 適当な言葉でごまかしながら、凪姫から離れるノン。その顔は、ほんの少し紅潮している。

「そんなこと、面と向かって言えるわけないじゃない…。」

 心の中でそうつぶやきながら、ノンは仲間のいる今の幸せを改めて噛み締めるのだった。

第六夜・完

 今回は前後編に分けず、一気に一話分公開してみました。いかがでしたでしょうか。公開に時間はかかってしまいますが、一気に読める方がいいでしょうか?内容は、元々サイドストーリーだったエピソードにスポットを当てて、本来別のシナリオ用に用意していたノンのエピソードを組み込んでみました。一部の方たちにネタふりしていた通り、後味の悪い話に仕上がってるかと…。スイマセン…汗。
今回より、キャラがまた二人増えてます。尊敬するある方に、キャラ多すぎ、と指摘されたのですが、色んな大人の事情でたくさん出さなきゃいけないんです!(苦笑)そして例のごとく、モデルにさせていただいた方々がいらっしゃいます。その内のお一人は間もなく新しい門出を迎えられるんですが、自分の拙い作品が僅かでも餞になればなぁと思っております。あなたが一番輝ける舞台で、力の限り頑張ってください。遠い空の下から応援してます!
 さて、次回からの7~9話は三部作です。しかも今回、いくつかのネタふりもしてます。いくつのネタふりに気づくかで、三部作の楽しみ方も変わるかと…笑。7話のシナプスはほぼ出来上がってるので、割と早めに公開できるかもしれません。(毎回同じことを言ってるとか言うツッコミはナシで…苦笑。)あまり期待せず、気長にお待ちくださいませ!
 そして…近日、重大発表があるかも???

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
Copyright (c) 2006-2008 Yull Togami. Magical-Kids. All rights reserved.

投稿者 戸神由留 : 00:00 | コメント (0)

■2008年04月01日

▼Silent Moon-六つの月- 第6話予告

■第6話予告■
 人は誰しも、自分が一番幸せでいられる場所を探している---。
 救えなかった生命が引き起こしたもうひとつの悲劇。そして、その声を聞く謎の女性。偽りの楽園で、ノンは自らの過去に心を乱す。
 新しい風が彷徨う彼女を導く時、真実の光はその闇を切り裂くのか。
 次回、SilentMoon~六つの月~ 第六夜「楽園の果て」。友と言う名の楽園を探して---。

*

間もなく公開予定です!
(ただ今、最後の微調整中。エイプリル・フールじゃないよ!汗)

投稿者 : 00:00 | コメント (0)

■2007年12月01日

▼Silent Moon-六つの月- 第5話(後編)

たいへん長らくお待たせしました。
当初の目標より2ヶ月も公開が延びてしまった第5話後編。
その間、何度も書き直し、やっと出来上がりました。

それではどうぞ↓


 9 過去・選ばれしもの

 SilentMoonは4日後にオープンを控え、スタッフは準備に余念がない。ある者は真新しいメイド服に袖を通してフライヤーの配布に、またある者は足りないものの買い出しにと、それぞれに割り振られた役割に奔走している。
 雫は、そのちょっとしたセンスの良さを買われて、店内の細かな飾り付けのコーディネイトを任されていた。

「何とか間に合いそうね。」
「でも、いま"闇"が現れたりしたら…。」
「もう!縁起でもないこと言わないでよ。」

 冗談混じりの会話を交わしながら、茉莉、文と共に、準備に励む。
 少し休憩しましょう、という茉莉の言葉に、手を休める二人。ドリンクを飲みながら、一息つく。

「そういえば、茉莉さん。"使い手"って、どうやって選ばれるんですか?」
「あら、説明してなかったかしら?」

 文の問いかけに、説明を始める茉莉。
 一人が適応する"月の欠片"は一つのみ。"DarkMoon"に適応する文は、他の"月の欠片"には適応しない。逆に、一つの"月の欠片"に適応する人間は、文と雫の二人が"DarkMoon"に適応するように、一人とは限らない。どの"月の欠片"に適応するのかは、手をかざした際に"月の欠片"が輝くことによって見分けることができる。
 では、誰が主たる"使い手"となるのか。それは、手をかざした際に、輝きと共に手の甲に月齢の名を表す紋章文字が浮かび上がることによって示される。"月の欠片"自身が、適応する者の中から一人を選ぶのだ。さらに、適応する者の体調や精神面などの影響により、"使い手"が変わることもあり得るのだという。

「五月が言ってたわ。凛華と粉雪の二人は、まだ一度も"月の欠片"の力を使っていない時から、紋章文字が浮かび上がっていたって。まさに、"選ばれし者"よね。」

 文は、あの夜の二人の戦いを思い出し、その言葉に納得する。

「私は手をかざしたときの輝きも僅かだったし、"DarkMoon"の"使い手"はやっぱり雫よね。」

 そう考えながら、雫を見る文。そんな文の視線に気づいたのか、雫は"まかせといて!"というゼスチャーで応える。
 しばらく談笑していると、錦子から電話が入る。人手が必要だという呼出しに、二人に店内を任せ、茉莉は錦子の元へ向かう。

「二人になっちゃったけど、最後の仕上げ、頑張ろう!あ、文。バックルームに置いてあるペーパーバッグに入った小物、持ってきてくれる?」

 OK!という仕草をし、バックルームに向かう文。ホールに比べて雑然としたままのその部屋の中から、雫に頼まれたペーパーバッグを探す。

「ホールが終わったら、こっちも片づけないとね。こういう見えない所こそ、綺麗にしておかないと…。」

 そう思いながら、目的のものを探し続ける。ふと、まだ"使い手"が決まっていない"月の欠片"が収められている"眠りのレリーフ"が目に留まった。

「そっか…。"使い手"が決まってないのって、"DarkMoon"だけなんだ…。」

 文は、何気なくそれに手をかざす。その瞬間、"DarkMoon"が輝きだし、手の甲に紋章文字が現れる。驚きを隠せない文。その背後で物音が聞こえ、文は思わずその手を隠すように振り返った。

「な…なによ、それ…!」

 そこには、複雑な表情で立つ雫がいた。思い詰めたように顔をこわばらせながら、しばらくの沈黙の後、部屋の外へ掛けだしてゆく。

「待って!」

 制止する文の声に、店の玄関を出る直前で立ち止まった雫だったが、閉じたドアの側を向いたまま、文の方を振り返ろうとはしない。その肩は、握りしめた拳のためか、少し震えているようにも見える。
 文のせいじゃない。それは雫自身もわかっていた。だが、彼女の想いはそれを受け入れることができなかった。そして、込み上げる感情が、心にもない言葉を吐いてしまう。

「私…辞めるわ。必要とされてないみたいだし…。」

 雫はそう言い放つと、言葉が見つからず困惑する文を振り切るかのように、勢いよくドアを開け飛び出してゆく。その頬に、一筋の涙をこぼして…。

 10 現在・凪姫、走る!

 凪姫は、身を隠す場所を探して、廊下を疾走していた。

「何とか、ヤツを文さんのいる場所から離さないと…!」

 相変わらず、校舎全体から嫌な感じのノイズが感じられる。まるで、あの女性教師に絶えず監視されているような感覚…。

「そうか…!もしかしたら、水を伝って私たちの動きを知られてるんじゃ…?」

 だとすれば、身動きができない文さんよりも、自由に動ける自分を先に狙ってくるはず。このまま自分に引きつけておけば、文さんに危険が及ぶ可能性は少ない。

「それなら、なるべく有利な場所にヤツを誘導して…。」

 ふと窓の外に視線を移すと、グラウンドに並んで体育館があるのが見えた。この先の校舎の2階から、体育館へ通ずる渡り廊下が延びているようだ。

「体育館の中ならある程度の空間が確保できるし、壁を伝う雨水からの距離を取ることもできる。あそこなら、勝機があるかも知れない!」

 しかし、防御の技しか持たない自分に、本当に勝機はあるのか。そんな不安に駆られながらも、凪姫は体育館を目指して走る。

 11 過去・悲しみの連鎖

 五月に付いてくるように促された文は、飛び出していった雫を気にしながらも後に続く。五月は何か考え込んだような表情のまま、一言も発せず電車に乗り込んだ。
 どのくらい経ったのか、車窓からの風景は静かな街並みへと変わっていた。都心から少し離れた、緑の映える小高い丘の麓。そこで下車した二人は、駅前で花を買い、長い坂道を丘の上に向かって歩いてゆく。
 坂道を上りきった向こう側に伸びる長い塀、その中に建つ真っ白な建物。五月は無言のまま、その門をくぐった。

「病院…?」

 建物に入ろうとした五月は、中庭に誰かを見つける。

「文は、ここで待ってて…。」

 そう言うと、中庭で涼んでいる車椅子の女性へ近づく。その女性の妹だろうか。傍らに立つ少女が、五月に向かって一礼する。花を手渡し、少しの会話の後、戻ってくる五月。少女は深々と一礼し、こちらを見送っている。

「五月さん…あの人たちは…?」
「彼女はね、私たちが最初に対峙した"闇"の犠牲者なのよ。」
「え…?」
「私たちが未熟さを知り、SilentMoonを立ち上げるきっかけとなった出来事…。そして、彼女…雫が関わるきっかけともなった---。」
「雫が…。そういえば、彼女は自分から押しかけて採用してもらったって…。」
「ええ。忘れもしないわ。あの日…土砂降りの雨が降っていたあの日---。」

 五月は、過去を思い出すように語り始める。
 土砂降りの雨。やっと決まった、まだ何もないがらんとした店舗で話す五月、茉莉、錦子の三人。その時、突然ドアが開く。そこには、全身ずぶ濡れの少女が立っていた。そして、真っ直ぐに見据えた目で、思い詰めたように訴えかける。

「私を…一緒に戦わせてください!」

 それが雫だった。

「そして彼女を見たとき、私はすぐに気づいたの。あの時の少女だって…。」

 それより遡ること半年前。五月、茉莉、錦子の三人は、初めて"闇"と対峙した。まだ"月の欠片"のことさえ良くわかっていなかった頃。これさえあれば、"闇"を簡単に封じることが出来る。そんな風に考えていた。そんな驕りが、取り返しのつかない悲劇を引き起こしてしまうことを知らずに…。

「"闇に憑かれし者"を追い詰めたと思った私達は、それが逃げ込んだ下水管に迂闊にも入ってしまった。そして、"闇"の気配を追いかけて奥深くに入ったとき、それが襲ってきた…。」

 三人の正面から、突然迫り来る鉄砲水。下水管を埋め尽くさんばかりのそれは、三人の逃げ場を奪う。混乱する三人。

「私たちが追っていたのは、"水の闇結晶"だったの。逃げ場をなくした私たちは、咄嗟の判断すら出来ず、パニックに陥った。そして、鉄砲水に飲み込まれそうになった刹那、それは起きた。」

 "月の欠片"に"使い手"として選ばれた者が、まだ未熟な段階で生命の危険に晒されたとき、"使い手"の生命保護のための危機回避機能が発動する。それは"使い手"の意志に関係なく発動される力。"月の欠片"が持つ力を解放する、一種のバリアのようなものである。

「まさに、下水管を塞き止めるような形で"紋章の防壁-Emblem Shade-"が発動したの。そのおかげで、私たちはギリギリの所で命拾いをしたわ。でもね…それには余りにも大きな代償を払っていたことを、後で知ったのよ。」

 "紋章の防壁-Emblem Shade-"が塞き止めた鉄砲水はその行き場をなくし、地上へと噴出した。そして、それに跳ね上げられた鋼鉄製のマンホールの蓋が、近くの高速道路を走行中だった大型トレーラーの運転席を直撃。コントロールを失ったトレーラーは、外壁を突き破って真下の公園へ落下した。

「その落下点にはね、一人の男性が立っていたの。そしてそれは、少し遅れてその場所へ急ぐ、待ち合わせ相手の少女の目の前で起こった---。」

 スローモーションのように落下するトレーラー。落着したそれは、閃光と共に燃え上がる。爆風で吹き飛ばされる少女。再び顔を上げた少女の目に映ったのは、悲鳴と絶望が交錯する阿鼻叫喚の惨状だった。

「私たちがそれを知ったのは、"闇に憑かれし者"を取り逃がし、自宅に戻って見たニュース映像でだった。そこには、変わり果てた姿になった男性にすがって泣き叫ぶ少女の姿が映し出されていたわ。」

 余りの出来事に言葉を失う文。そして、呟くように口を開く。

「それが…雫…。」
「そう。そして追い討ちをかけるかのように、"水の闇結晶"に憑かれていた女性…さっきの病院にいた車椅子の彼女も"闇"に喰われ、心が壊れてしまった。私たちは、誰一人救うことが出来なかったのよ…。」

 なぜ、自分の大切な人が命を落とさなくてはならなかったのか…。そんな答えのない問いかけを繰り返していたとき、雫は偶然、月の物語に辿り着く。都市伝説にもならない小さな噂話を耳にし、それを追う執念が、五月達に巡り合わせたのだった。

「だから彼女の目を見たとき、私たちには断ることはできなかった。"DarkMoon"にも適応したことだし、一人でも一緒に戦える仲間が欲しかったから…。でも、彼女は私たちとは少し違った。"月の欠片"の力を纏った途端、それまでの彼女とはまるで別人のような目つきになる。それじゃ、たとえ"月の欠片"の力を引き出せても、"使い手"にはなれない。怒りや怨念は、いずれ"闇"を呼び込み、その力に自らが呑まれてしまうからよ。」

 文の脳裏には、雫の闘う姿が浮かんでいた。確かに"月の力"を纏った雫は、普段とは正反対の表情になる。その理由が、わかった気がした。

「彼女自身は、決して攻撃的な性格ではないと思うの。人懐こくて優しい、ステキな娘よ。でも、彼女の心の奥に秘められた哀しみが怒りの感情を増幅させている…。だから"月の欠片"は、"使い手"として彼女を選ばなかった…。」
「じゃ、なぜ私が…?」
「あなたが初めて"闇"と対峙したあの日、技を放とうとして一瞬手を止めたわよね。あれって…"闇に憑かれし者"の背後に猫が見えたから、でしょ?」
「五月さん、気づいて…。」
「あのまま技を放てば、猫も巻き込みかねない…。それに、咄嗟に放つ技では、狙いも力の加減も調整するのは難しい。あなたのその判断力が、最も大きな力を持つ"DarkMoon"に"使い手"として選ばれた理由よ。」
「でも…私なんかより、雫の方が"DarkMoon"が持つ"力"を最大限に引き出せてるはずです!」
「文…。私たちが成すべきことは、"闇"に呑まれた人を滅することじゃない。"闇"そのものを封じること…。"力"はそのために"与えられて"いるのよ。決して"引き出す"ものではないわ。」

 五月のその言葉で、はっと気づく文。
 "月の欠片"に適応する者と、選ばれた"使い手"との違い。それは力の発現の仕方にあった。適応する者は、ただ単に"月の欠片"に込められた"力"を引き出して使うのみ。しかし選ばれた"使い手"は、月の女神の加護を受け、"月の欠片"の声を聞き、白き天使となって闇を駆る。

「大切な人を失う哀しみは、私にも痛いほどよくわかるの。だからこそ、雫の心を救ってあげたかった…。でも、彼女は"月の欠片"の力を纏うと、その力の流れに呑まれてしまう。私には、それの流れから引き戻すことが精一杯だったわ。今更だけど、彼女は巻き込むべきではなかった……。」
「じゃあ、雫は…!もういらないって事なんですか!?」
「そうは言ってないわ。彼女次第…かしら。彼女がこの事実を受け入れられて、まだ戻る気持ちがあるなら…。さっき言ったでしょ。ホントの彼女は人懐こくて優しい、ステキな娘だって。」
「じゃ、私…私が雫と話します!だって、こんなの…このままじゃ……。」

 文のその言葉を聞き、少しの沈黙の後、五月が口を開く。

「そうね…文の言葉なら届くかも知れないわね。言ってなかったけど、あなたの採用を決めたのは---。」

 12 現在・追いつめられた凪姫

 凪姫は、校舎2階から体育館に延びる渡り廊下の前に立っていた。鉄骨で組まれた枠組みの間に鉄製の床板を渡し、両側に簡易な手すりと天井にトタンの雨よけが設けられただけの渡り廊下…。当たり前のように雨に晒されているそれに、凪姫は躊躇していた。

「まさかこんな渡り廊下だったなんて。向こうまで約10m弱…か。」

 そして、背後から足音が聞こえる。振り返ると、直線に延びた廊下の向こうから、女性教師がゆっくりと近づいている。

「隠れる所はない…!もう、全力で駆け抜けるしかないわっ!」

 意を決し、凪姫は渡り廊下へ飛び出す。目の前に見える鉄製のドアを開ければ、体育館の中に滑り込める。あとは…あとは…、とりあえず辿り着いてから考える!
 しかし、渡り廊下を半分進んだところで、何かに足をすくわれ転倒する。そのまま転がりながらドアにぶつかった凪姫は、痛みに耐えつつドアノブに手を伸ばすが、ノブはピクリとも動かない。

「そんな…!鍵がかかって…!」

 近づく足音が鉄板に響くような音に変わる。振り返った凪姫は、校舎の入り口に立ち、こちらを見下ろす女性教師の不敵な笑みを見る。そして、自分の足にまとわりついた鎖のような水の帯も…。

「はーい。鬼ごっこもこれで終わり。泥棒猫ちゃんにはお仕置きしないとね。」

 とっさに構えようとする凪姫だったが、体を支えようとした右手に激痛を感じ、鈍い声を上げる。どうやら、今の転倒のせいで右手を挫いてしまったらしい。
 周りには、雨を遮るものは何もない。後ろは鉄製のドア、前には"闇に憑かれし者"…。"月の欠片"を介したテレパシーすら封じられ、凪姫は絶体絶命の状態に陥っていた。

 13 過去・望まぬ光

 開店2日前、開店準備のため店に向かう電車の中で、文は鳴らない携帯電話を見つめていた。
 五月から聞かされた話…雫の想いを知って、文の心は揺れていた。そして、五月から明かされた、もう一つの事実---。

「あなたの採用を決めたのは、雫が強く薦めたからなのよ。」

 顔見せのために初めて店を訪れたあの日、緊張する文に優しく声をかけた雫。あれは偶然ではなかったのだ。

「理由はわからないわ。ただ、"この娘なら、きっと素敵なメイドさんになるはずだから"って…。同じ"DarkMoon"に適応する者同士、何か感じるものがあったのかも知れないわね。」

 携帯電話を折り畳み、握りしめる文。車窓の向こうに流れる空を見つめ、雫への思いを馳せる。雫が飛び出して行って以降、メールを打っても返信がなく、電話を掛けても留守番サービスに繋がってしまう。
 自分の採用を推してくれた雫。それなのに、自分の存在が、結果的に彼女の想いを奪ってしまった。文は苦悩する。
 何度目かのため息の後、電車は乗換駅に到着する。ふと顔を上げた視線の先に、雫らしき姿が過ぎる。反射的に電車を飛び降り、周囲を探す文。その時、発車した別の電車の中に、その姿を見つける。

「雫…!」

 無情にも走り去る電車。その方向を見て、文の表情に戦慄が走る。

「まさか…、偶然よ…。」

 そう自分に言い聞かせながらも、文は言い得ぬ不安に包まれる。すぐさま、次の電車で後を追う。まるで文の心情を表すかのように空の雲は低くたれ、それが彼女の不安をさらにあおってゆく。
 文の乗った電車は、見覚えのある駅に近づいていた。自分の考えを否定しながらも、何かに導かれるようにその駅で降りる。予感が外れることを祈りながら、小高い丘へ向かう坂道を急ぎ足で上ってゆく。
 丘の上の長い塀に囲まれた建物…それは、五月に案内されて行った、あの病院だった。その門をくぐった瞬間、文の目に木陰から中庭の様子をうかがう雫の姿が飛び込む。

「しず…。」

 文が声を掛けようとしたその時、雫の身体は禍々しいオーラに包まれはじめる。雫の視線の先にいたのは、あの車椅子の女性と妹らしき人物だった。それを見た文は、何かに突き動かされるかのように、月の力を纏って駆け出す。次の瞬間、雫の右手から鈍い光が放たれた。

「ムーンライト・ダークネスっ!」

 文の放った"月光の陰影-Moonlight Darkness-"が、雫の放ったそれをはじき飛ばす。その二つの力の衝突が周囲に突風を生み出し、転倒する車椅子の女性たち。その二人を庇うように、文が駆け込む。

「雫…、どうしてこんな…!」

 雫は、突然の現れた文に一瞬驚くが、すぐに鋭い視線の表情に変わる。そう、あの怒りに満ちた表情に…。

「どいてよ、文。邪魔しないで!」
「やめて、雫!こんなことして、何になるの!それにその禍々しい力は一体何?!」
「私は…私はあの人の敵を討たなきゃいけないのよっ!この力は、そのために神様が与えてくれた新しい力よ!」
「何を言ってるの。目を覚ましてよ、雫!その力は…!」

 そう言い掛けた瞬間、文の意識に映像が飛び込んでくる。
 あの事故のあった公園に一人立つ雫。事故現場に花を手向け、手を合わせる。そんな雫の周囲に、黒い影が漂い始める。そして、雫が何かを呟いた次の瞬間、その影は雫の中に吸い込まれた。

「彼の声が聞こえたのよ…。"俺の敵を討ってくれ"って…。敵はここにいるって…!」
「違うわ。その力…あなたが手にしているその力こそ、あなたの彼の命を奪った、"闇"の力じゃない!」
「そう…。そんなことを言って、あなたは"DarkMoon"の力だけじゃなく、この力まで手に入れようと言うのね…。」
「バカなことを言わないで。正気に戻ってよ、雫!」
「そんな言葉には騙されないわ!邪魔するなら、あなたごと切り裂くわよ!」

 そう言い終わらぬ内に、雫は憎悪に満ちた力を放つ。
 友を討つなんて出来ない…。ためらう文は、雫が放った力をまともに受けてしまう。その力は左胸に直撃し、鮮血が飛び散る。膝を突き、よろめく文。その懐からは携帯電話がこぼれ落ちる。
 それが目に入った文は、咄嗟にその携帯電話を手に取り、着メロを再生する。それは、"THE EARTH"の"Marionette"だった。

「お願い!あの優しい雫に戻ってっ!」

 その願いが通じたのか、雫は一瞬正気に戻りかける。しかし、突然"闇"の支配力が増し、その背中に漆黒の翼が出現する。そのまま攻撃態勢に入る雫。その表情には、あの優しい雫の面影はなかった。

「しずくぅーーっ!」

 轟く雷鳴。文の叫びは、その轟音に空しくかき消される。それでもなお、友の名を叫ぶ文。しかしその叫びは届かない---。
 そして、運命の歯車は誰も望まない結末に向かって動き出す。突然輝きだした文の両袖に、光の粒子が集まってゆく。何が起こったのか戸惑う文の脳裏に、五月から聞かされた話が過ぎる。
 "月の欠片"に"使い手"として選ばれた者が、まだ未熟な段階で生命の危険に晒されたとき、"使い手"の生命保護のための危機回避機能が発動する---。
 再び、稲妻と共に轟く雷鳴。そして、望まぬ光…"月光の陰影-Moonlight Darkness-"が発動し、周囲がホワイトアウトしてゆく。

「やめてーーーーーーーーーーーーっ!」

 14 現在・友の声

 雷鳴で悪夢から覚める文。しかし、まだ幻覚作用が残っているのか、身体が鉛のように重い。壁を支えに起きあがり窓の外を見ると、追い詰められた凪姫の姿が目に入る。
 文は凪姫を助けようとするが、目が霞み、足が震え、立つことさえままならない状態だった。

「く…目がかすんで、狙いが定まらない…!」

 必死に目を凝らす文。何とか焦点が定まりかけるが、同時に視界にあるものが飛び込む。それは、体育館への鉄製の渡り廊下の下を這う、無数の配管だった。水道、電気…それにガス管も見える。

「ダメだ…。"月光の陰影-Moonlight Darkness-"じゃ、配管を全部切り裂いてしまう…!」

 ただでさえ狙いの定まらない状態。それに加え、あれだけの配管が複雑に並んだ廊下の上にいる凪姫を助けるのは、至難の業。もし配管を切断すれば、電気の火花がガスに引火して、爆発を誘発しかねない。
 打つ手がなく、焦る文。凪姫の目前に迫る女性教師。そのとき、雫の声が聞こえる。

「文、目に頼らないで。"闇"の気配を感じて!その足元に力を集中して、技を出すの。ヤツの足元を崩すのよ!」

 幻聴なのか…。しかし、選択の余地のない文は、その声に従い意識を集中させる。閉じた瞼の向こうに、微かに感じる"闇"の気配。その気配目掛けて、力を放つ。

「見えた!ムーンライト・ダークネス!!」

 放たれた"月光の陰影-Moonlight Darkness-"が、女性教師が立つ鉄製の床板のみを切り裂く。足下が崩れ、女性教師はそのまま下階へ落下する。
 その一方で、力尽きた文もグラウンドの水たまりに倒れこんでしまう。

「文さんっ?!」

 女性教師が、崩れた廊下の瓦礫の中から立ち上がる。その表情は怒りに満ちていた。

「よくも私の肌に傷を…!殺してやるっ!」

 女性教師の両手から放たれた、ニードル状の無数の雨水が文に迫る。力尽き、逃げ場のない文。

「ダメだ…。逃げられない…!」

 そうか…私じゃもう、危機回避機能は発動しないよね。私が望んだことだもの…。あの日の哀しみを繰り返さないために、私が拒み続けた力---。
 文が最期を覚悟したその時、凪姫が叫ぶ。

「エンブレム・シェーーードっ!」

 自分の真下の廊下に向かって"紋章の防壁-Emblem Shade-"を放つ凪姫。次の瞬間、文が倒れている地面にサークルが出現し、紋章文字が浮かび上がる。そのサークルは光の筒を成し、文を守りつつ全ての水を吸収しながら天へと伸びてゆく。渦を描きながら竜巻となったそれは、さらに女性教師目掛けて伸び、ついには彼女を飲み込んだ。
 竜巻に飲み込まれ、藻掻く女性教師。力尽き、溺れかけた女性教師から、"水の闇結晶"が放れる。それを見届けた凪姫は技を解除し、文の元へ駆けつけた。

「大丈夫ですか?文さん!」

 凪姫が放った技の効果か、文の身体からは幻覚作用による痺れは消え去っていた。自らの力で立ち上がる文を、凪姫が支える。

「凪姫…さっきの技は…。」
「声が…声が聞こえたんです。文さんに想いを集中しろって…。もう…夢中で、気づいたらあの技を放ってました。」

 あの光の筒は、まだ五月が健在だった頃、"炎の闇結晶"の猛火に巻かれた凛華を守るために放った技と同じ技。凪姫の言う声の主が五月だったのか、はたまた雫だったのか…。そんなことを想いながら、文は空を見上げる。

「凪姫は確実に成長してる。この娘の強さは、誰かを護りたいという想いの強さ…。あの時の私に、凪姫ほどの想いの強さがあれば…。」

 そう思う文だったが、すぐにその考えを否定する。

「ううん。過去を悔いても、失った時間は戻らないわよね…。でも、あなたが私にくれた優しさ、教えてくれた命の重さは絶対に忘れない。この胸の傷に誓って---。」

 雨が上がり、雲の隙間から僅かに漏れはじめた夕陽を見上げ、文は誓いを新たにするのだった。

 15 エピローグ

 降り始めた雨粒が、文の頬をたたく。"月光の陰影-Moonlight Darkness-"をまともに受け、傷だらけになった雫を抱き上げる文。雫は力の入らない右手を精一杯伸ばし、文の頬を伝う涙に人差し指を添える。

「文…私のために、泣いて…くれるのね…。」
「雫…!どうして…!」
「私ね、あの場所へ行ったの…。勢いで飛び出したけど、もう一度考え直して…。やっぱり、あなたと一緒に働きたかったから。だからね、彼に伝えに言ったのよ。あなたが遺してくれた歌…文に聴かせてあげてもいいよねって。そしたらね、声が聞こえたの。彼の声が…。」
「もう…しゃべらないで…。もうすぐ、茉莉さんたちが来るから…!」
「文…知ってるでしょ…?一度、"漆黒の天使"となった者は救えない。砂となって崩れ去る…のよ…」

 やっと仲間達が駆けつけるが、その惨状に言葉を失う。五月は、その様子から何が起こったのかを悟った。

「く…、遅かったか…。」

 雫は、最後の力を振り絞るかのように、崩れはじめた手を文の頬に伸ばす。

「文…、あなたは覚えてないかも知れないけど、私…ずっと前にあなたと会ってるのよ。彼とのデートの途中で立ち寄った喫茶店、彼がいつも曲を作るのに使ってた喫茶店で---。彼…そこの店の雰囲気が好きで、店員さんの心遣いが気持ちよくて…いいフレーズが浮かぶんだって言ってた…。だからね、そんな素敵な所なら一度行ってみたいって、連れて行ってもらったのよ…。」

 それを聞き、文の記憶が蘇る。
 高校生だった頃に働いていた喫茶店。窓際の指定席の男性。その男性が、当時まだ無名だった"THE EARTH"の曲を書いていたこと…。

「『Marionette』はね…苦労してやっとできた曲だったの。そこの店員さんのおかげだって。だからね、曲名にそのお店の名前をもらったって言ってた…。」

 それは、文にとっては他愛もない一言だった。しかし、それがきっかけで生まれた曲---。
"ありがとう。キミのおかげでいい曲になったよ。"
"ホントですか?じゃ、CD発売されたら絶対買いますね。"
 それが、文が"THE EARTH"のファンになったきっかけだった。そして"THE EARTH"は、"Marionette"のヒットでメジャーの仲間入りを果たす。

「だからね、SilentMoonの応募書類にあなたを見つけたとき、嬉しかった…。私が一番幸せだった頃の、彼の記憶を共有できる人と再会できて…。」

 文の中で全てが繋がる。雫が文を強く薦めたこと。初日で緊張する文に声を掛けてくれたこと。お互いが"THE EARTH"のファンだったこと…。そして何よりも、雫が優しく接してくれた理由を---。

「文…私、何をしたかったんだろうね…。」

 そう言い終わらぬうちに、雫の身体は崩れ去る。

「雫っ…!」

 文は腕の中に残った雫の服を抱き寄せる。まだ暖かさの残る砂が、空しく、止めどなく落ちてゆく。そして愛用していたポーチから、手紙が添えられたCDがこぼれ落ちる。

『文。昨日はゴメンね。
 私、やっぱりあなたと一緒に働きたい。だから、五月さんにもう一度お願いするつもり。
 私の彼、THE EARTHに曲を提供してたんだ。でも、事故で亡くなったの。
 このCDは最後に作った未完成の曲。幻の1曲。メンバーが私の為に演奏してくれたの。文にだったら、たぶん彼もOKしてくれると思う。だから、もらってくれるかな?
 あさってのオープン、みんなで頑張ろうね!』

 読み終わってとめどなく涙があふれる。どうすることもできなかった悔しさに、奥歯をかみしめる文。そんな文に、茉莉が声を掛ける。

「文…泣いていいいのよ。」

 その言葉に、今まで耐えていたものが一気に噴き出す。茉莉の懐にしがみつき、咆吼する。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 その哀しみの声は、天を貫くかの如く響き渡る。そして、それをかき消すように、雨は激しさを増すのだった。

第五夜・完

 以上、読んでる人を全員泣かせてみようという野望を抱いて書き上げたお話でした。野望は達成できたでしょうか?

 この話、当初は過去編と現在編がそれぞれ別々の話でした。
 現在編の元となったエピソードはもう少しアクション性の高い話だったんですが、その部分をばっさりとそぎ落とし、凪姫が覚醒に一歩近づく部分のみをピックアップしました。
 過去編の元となった話からは、ほぼ全てのエッセンスを盛り込んであります。元々、第3~4話と同様に過去の時間軸で展開する話でしたが、同じような温度の話が3話も続くのはどうかと思い、思い切って発表した形へと変更しました。さて、吉と出たか、凶と出たか…汗。
 現在編は、時間軸通りに正方向に展開させています。対して過去編は、前半のエピソードでクライマックスシーンのみを描き、後半でその間を埋める謎解きのエピソードを描いています。さらに過去編は、最後の15節を除いて全て文の記憶の中の回想シーンで、15節のみ回想ではなくカメラが過去を写すという手法を採りました。(伝わってなかったら、それは戸神の文章力不足のせいです。汗)

 そして、ゲストキャラクターの雫について。
 元々、本エピソードのサブタイトルは「叫びは雨に消えて…」でした。それにかけて、ゲストキャラクターの名前は雨冠の漢字一文字にしようと決めていました。音の響きもなるべく儚い感じがするものを選び、いくつかの候補の中から最終的に「雫」に決定しました。
 一方ビジュアルの方は、縁あってこのキャラクターの名前を使ってくださるという方がいらっしゃり、それでは…と言う事でモデルにさせて頂きました。(デザインは後日公開予定。)なので、ビジュアル以外のキャラクターはご本人とは違ったものになっているはずです。

 さて、次の第6話は、いよいよ最後の主役・ノンのお話です。実はプロットは作成済みで、全く異なる話が3本出来てしまいました。さてどれにするか、悩みどころです。ま、プロットをベースに練っても、仕上がった話は全く違うものだった、なんてのは当たり前にあるんですが…。今回の第5話も、出来上がってみたらプロットとはかなり違う話になってました。プロットは某所のコミュで公開予定なので、興味ある方は見比べてくださいませ。
 そんなわけで、年内の新作は第5話まで。第6話以降は、年明けの予定です。ではでは!

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
Copyright (c) 2007 Yull Togami. Magical-Kids. All rights reserved.

投稿者 戸神由留 : 03:55 | コメント (0)

■2007年08月31日

▼Silent Moon-六つの月- 第5話(前編)

 たいへん長らくお待たせしました。やっと公開です。(前編のみですが…汗。)
 予告通り、今回からweb上では小説風シナリオを、その後、台本形式の同人誌を発行という形で公開していきたいと思います。
 また、各話のボリュームを調整するため、すでに公開している第3話を、同人誌版では第3~4話として2話分に分割する予定です。それを受けて、web版の方も「第三~四夜 漆黒の悪夢(前後編)」と改題しました。
 それでは、第5話をお楽しみください。↓


 1 プロローグ

 凪姫と文の二人は、都内の私立高校の教室のひとつに身を潜めていた。外は大粒の雨。時折、雷鳴が聞こえている。
 凪姫は、自分をかばって傷を負ってしまった文を気遣い、不安げに覗き込んでいる。
「文さん、すいません。私が先走ったせいで…。」
「大…丈夫よ…。これくらい…。」
 そう言った文の表情は、その言葉とは裏腹に、厳しい表情だった。

 時は数時間前に遡る。
 普段と変わらぬメイド喫茶・SilentMoonの店内。平日ならではのゆったりとした雰囲気の午後。そしていつものように、明るい文の声が響いている。どうやら、高校生のお嬢様二人と話が盛り上がっているようだ。
「ほんとですよ。隣のクラスの娘なんて、三週間以上帰ってないんだもん。」
「いまどきの高校生って、そんなもんじゃないの?」
「でも、親が捜索願い出したらしいんですよ。」
「1年や3年でも何人かそんな娘がいるらしくて、神隠し?とかって、ちょっとした騒ぎだもん。」
「ふーん、まるで学校の怪談ね。ほんとに何かいたりして?」
「いなくなった娘って、カワイイ娘や綺麗な娘ばっかみたいだし。私も神隠しにあったら、どうしよー?」
「だいじょーぶ!あんたは心配ないって。」
「あら?それはわかんないわよ?ほら。人の趣味って色々だし。」
「えー!文ちゃん、ヒドイ…。それって、暗にカワイクナイって言われてる…?」
「そんなこと言ってないわよ?高校生じゃなかったら、ウチのお店にスカウトしたいくらいだもん。」
「そんなこと言ったら、この娘ホンキにしちゃいますよ?」
「大歓迎よ。ちょうどキッチンの人手が足りなかったし…って、冗談よ、じょ・う・だ・ん♪」
「あー、やっぱりそう思ってたんだ…!ひどーいっ!」
 普段の静かな様子と違い、ホールに出るとお喋りになる文。そんな様子を見つめながら、それでちゃんと仕事はこなすんだから…見習わないと、と凪姫は思う。

 夕刻。天候が崩れはじめ、遠くでゴロゴロと雷鳴が聞こえる。凪姫は、自宅近くにある私立高校の様子を、少し離れた場所から見つめていた。昼間の、文とお嬢様の会話が気になったからだ。
 そして場所を移動しようとしたとき、不意に後ろから肩をたたかれる。凪姫は突然のことに驚き、思わぬ声を上げる。
「ひやぁぁぁぁぁっ!!」
「ななななな…なんて声出すのよ。もう!」
 その声の主は、文だった。彼女も同じく、昼間の会話が気になり様子を見に来たのだ。
「昼間のお嬢様、ここの制服着てたでしょ。確か、凪姫の家ってこの近くだったな…と思ってね。予想的中!。」
 その時、校内から悲鳴が聞こえる。咄嗟に校内に向かって駆け出す凪姫。それを追うように文も校内へ入り、声が聞こえた2階へ駆け上がる。階段を登り、角を曲がった所で、突然現れた人影に驚いて立ち止まる二人。どうやら、ここの女性教師のようだ。
「あら?何かご用?」
「今…この校舎から悲鳴が…。」
「そうなの?何も聞こえなかったけど…。雷の音でも聞き間違えたんじゃない?でも、困るのよねぇ。部外者に勝手に校内に入られたら。」
「あ…それは、その……。」
「ふふ…。でもあなた、可愛いから許してあげるわ。」
 女性教師が不敵な笑みを浮かべた直後、窓の外で稲光が光り、不気味な影が落ちる。その光で、女性教師の足元が濡れていることに気づく文。そして、女性教師がゆっくり右手を挙げる…。
「凪姫!危ないっ!」
 次の瞬間、無数の水滴が二人を襲う。文は階段の方向へ凪姫を抱きかかえるようにして飛ぶが、幾つかの水滴の弾丸を喰らってしまう。そのまま階段を転げ落ちる二人。
 凪姫は慌てて起きあがり、自分をかばって下敷きになった文を抱き起こす。
「痛っ!」
「大丈夫ですか?文さん!」
 立ち上がろうとして、右足に痛みを覚える文。どうやら、右足を捻挫したらしい。凪姫は文を肩に抱えながら立ち上がり、とりあえずその場から脱出する。その様子を、女性教師は不気味な笑みを浮かべながら見下ろしていた。
「ふふふ…、可愛い兎ちゃん。ゆーっくりかわいがってあげるわ。」

第五夜 誓いの傷跡

 2 現在・教室の一角

 教室のひとつに身を潜め、外の様子をうかがう二人。文の表情は、痛みに歪んでいた。
「…こんな時に、ノンがいてくれれば…。」
「さっきからノンちゃんに呼びかけてるんですけど…。」
「私も…よ…。でも、ノイズが多くて何かに遮断されてる感じ…なのよね。」
「さっきの女教師、水の闇結晶…ですよね?」
「えぇ、多分…ね。この天候、あいつには有利だわ。周り全部が水なんだから。迂闊に飛び出せば、餌食になるわね。」
「止むまでここにいた方が、いいって事か…。」
「そうとも言えないかも…よ。この嫌な感じのノイズ、この校舎全体から感じるのよ。」
 文に応急手当を施していた凪姫は、彼女の胸の傷に気づく。
「文さん、その傷…。」
「これは、今付いた傷じゃないわよ。」
 そう言って、少し遠い目をする文。
「これは…まだ私が"使い手"になりたての頃に受けた傷なの。」
「え…?でもそのくらいの傷なら、"無限の装飾-Infinity Dress-"で治してもらえるんじゃ?」
「うん…。でもね、私は私自身の想いを決して忘れないために、残したままにしているのよ。」
「想い…?」
「そう…、あの日誓った私の想い…。私自身が"使い手"になると誓ったあの日…。」
 文は何かを思い返すように、静かに語り始める。

 3 過去・出会い

 数週間後にオープンを控えたSilentMoonの店内。意外と少ない採用者、まだ空っぽに近い静かな店内、そして初めての顔合わせに、文は緊張を隠せないでいた。そんな彼女に、一人の採用者が明るく声をかける。
「はじめまして!私は雫。あなたの名前は?」
 文が見上げると、ゴシック調の出で立ちで、一見まだ高校生のように見える少女が立っていた。身長は文より少し低めだろうか。しかし、身長や服装から受ける幼げな印象とは正反対に、その瞳からは大人びた、芯の通った力強さを感じさせる。そして、全く物怖じしない人懐こいその笑顔に、文は少し戸惑いを感じながら、その問いに答えた。
「あ…え…、ふ…文です。」
「文ちゃんか…。落ち着いた感じの名前ね。"和"が似合いそう!」
「あ…ありがと…。えーと…」
「雫よ、し・ず・く!ちゃんと覚えてね。」
「うん…。っていうか、緊張しない…?私なんて、もう…ほら。こんなに---。」
 そう言いながら広げた文の掌は、緊張の汗でびっしょり濡れていた。しかし、そんなことはお構いなしであるかのように、雫は話を続ける。
「性格かなー。あと、文ちゃん達より1ヶ月ほど前に採用されたから、慣れてるってのもあるかも。」
「そうなんだ。私…受かるって思ってなかったから、もうそれだけで舞い上がっちゃって。」
「そういう時は、一度深呼吸してみればいいのよ。そして、自分の好きな歌でも唄いながら、気持ちを落ち着ける…。私の緊張をほぐす方法なんだけどね。」
 そう言って、雫はメロディを口ずさむ。その旋律に、文の表情に笑みがこぼれる。
「あれ、その歌…もしかして『THE EARTH』の『Marionette』…?」
「え?この歌、知ってるの?」
「うん。私、『THE EARTH』の歌、好きなのよ。アルバムも何枚か持ってるよ?」
「ホントに!?私もよ!わぁ、こんなところで『THE EARTH』のファンと合えるなんて、思ってなかったわ。」
 その話題をきっかけに、あっという間に打ち解ける二人。同時に、文の緊張もどこかへ消えて、いつの間にか自然に"文""雫"と呼び合うようになっていた。
「そういえば、文はなんでここに応募したの?」
「うーん…、たまたま募集広告を見つけて、なんとなく応募してみたのよ。」
「そうなんだ…?私は…ここじゃなきゃ、だめだったから…ね。だから自分から押しかけて、文たちより1ヶ月ほど前に採用してもらったの。」
 そう言った直後、文には雫の目が一瞬厳しい目つきになった気がした。そしてすぐに、それは気のせいではなかったと知ることになる。
「正式採用になる前に、みんなに話しておかなければならないことがあるの。」
 話に夢中で気づかなかったが、いつの間にか店内には、五月、茉莉、錦子の三人が揃っていた。そして、そう切り出した五月の口から語られたことは、"月の欠片"と"闇"にまつわる話だった。
「これは強制じゃないわ。だから、もし嫌ならここで帰ってくれても構いません。」
 その話を聞き、文は採用者が少ない理由をはじめて知ることとなる。全く何も知らなかったのは、自分だけだったことも…。
 そして少し考えた後、文は残ることを選んだ。自分ではなぜだか分からなかったが、今考えると、雫と一緒に働きたかったからかもしれない。でも、運命はそれを許してくれなかった---。

 4 過去・対峙する二人

 開店2日前、望まぬ運命が訪れる。
 厚い雲に覆われた空、雷鳴が徐々に近づいてきているのがわかる。そして、まるで運命を暗示するかのような空の下、病院の中庭で対峙する文と雫の二人。文の傍らには車椅子の女性が倒れ、その前に悲痛な表情で立ちはだかる文がいた。
「どいてよ、文!」
「やめて、雫!こんなことして、何になるの!」
「私は…私はあの人の敵を討たなきゃいけないのよっ!」
 そう言い終わらぬ内に、大地を蹴り、雫が文に迫る。
「やめてーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 その叫びをかき消すかのように、大きな雷鳴と稲妻が走る。
 そして---。

 5 現在・錯綜する記憶

 再び現在の凪姫と文。凪姫は、文の語りが次第に錯綜し始めていることに気づく。
「文さん…?!」
「私が…私が彼女を…、殺…し…。」
「文さん、しっかりしてください!」
 そう言って、文の額に手を当てる凪姫。驚くようなその熱さに、凪姫は言葉を失う。そうしている間にも、文の息遣いはさらに荒くなってゆく。
「はっ!さっきの攻撃…。あれに毒素が含まれていたんじゃ?このままじゃ、文さんが…!」
 凪姫は、文の身体を物陰に隠し、立ち上がる。
「文さん、ここで待っててください。何とか、みんなと連絡を取ってきます。」
「だ…めよ…凪姫…。一人で…行っちゃ…危な…。待っ…て……。」
 文は、声にならない声でそう呼びかけるが、凪姫には届かなかった。そして、目が霞み、焦点が定まらなくなった文の視界に写った凪姫の後姿が、過去の情景とオーバーラップしてゆく。

 6 過去・すれ違う想い

 文の記憶の中の情景。思い詰めたように店を飛び出そうとする雫を、文が制止する。雫はその声に立ち止まり、暫くの沈黙の後、ドアの方を向いたまま口を開く。
「…なに…?」
「私…、私じゃなくても…。」
「なによ、それ。同情?そんなもの、された方が惨めだわ。」
「そんなつもりじゃ…。ただ…。」
「"ただ…"何?ただ、メイドがしたかった?だから私じゃなくてもいい?冗談じゃないわよ!そんな姿勢で、結果がこれだなんて…納得できるわけ、ないでしょ!」
「雫…。」
「私…辞めるわ。必要とされてないみたいだし…。」
 そう言い放ち、勢いよくドアを開け、店を出る雫。文は追いかけようとするが、ためらい立ち止まる。そのやり取りの一部始終を、ちょうど買出しから戻った五月が見ていた。それに気付き、文は問い掛ける。
「五月さん…。どうして私なんですか?雫の方が…!」
「決めたのは私達じゃないわ。"使い手"は、月の欠片が選ぶ…。あなたは、月の欠片"DarkMoon"に選ばれたのよ。」
「でも…!」
 そんな文の様子に、五月はしばらく悩んだような表情を見せ、自分の後についてくるように促す。文はそれに従い、二人は店を後にした。

 7 現在・奔走する凪姫

 一方、現在の凪姫は、職員室に行けば電話が使えるかもしれない、と考え、校舎の2階にある職員室へ忍び込もうとしていた。静かにドアを開け様子を伺いながら、姿勢を低くして電話を探す。そして、見つけた電話の受話器を手に取った途端、そこから声が聞こえる。
『あーら。可愛い兎ちゃんかと思ったら、泥棒猫だったとはね。』
 その声に驚き、受話器を放り投げ、咄嗟に身を翻す凪姫。いつの間に現れたのか、凪姫の後ろには先ほどの女性教師が立っていた。
「い…いつの間に?!」
「そういうイケナイ娘はおしおきしないとね。」
「くっ…!」
 後ずさりしながら周囲をうかがう凪姫は、足元からのうめき声に気づく。
「う……、た…たすけ…て……。」
 デスクとデスクの間に視線を落とすと、女生徒が倒れていた。その姿は、十代とは思えない程、老いて衰弱している。
「その娘のエナジーも若々しくてよかったけど、あなたのエナジーはもっとよさそうね。」
「エナジー…?そうか、あなたがこの娘から生気を吸い取ったのねっ!」
「ふふふ…そうよ。そして、私の若さは永遠に保たれる。この力があれば、いつまでも美しい姿でいることが出来るのよ。」
「さっきの水滴…何かの薬品で身体を動けなくして…!」
「あら、失礼ね。そんな下品な手段は使ってないわよ。さっきまでその娘は、最高に幸せな気分でいたはずよ。」
「なに?!」
「その娘が望む、幸せな夢を見続けたまま…。ふふふ、あなたにも見せてあげるわ。」
「そうか…幻覚を…!」
 もう、月の欠片の力に頼るしかない。意を決した凪姫は、物陰に飛び込み、月の欠片の力を身に纏う。
「ハーベスト・ムーンっ!!」
 月齢の名を唱えた凪姫の身体を、月の欠片"HarvestMoon"から伸びた光が包み込む。その姿は一瞬で、凪姫がイメージする戦闘スタイルへと変化を遂げる。
 それを見た瞬間、女性教師の表情が怒りの形相に変わった。
「その力、私の美の追求に仇なす力…!」
 女性教師の右手から放たれた水の弾丸を"紋章の防壁-Emblem Shade-"で弾き飛ばしながら、凪姫は職員室の外へ飛び出す。
「あれで文さんも幻覚を見ていたのね。何とかしないと…!」
 凪姫は廊下を駆け抜け、文がいる教室とは逆の方向へ移動する。そんな凪姫を、不敵な笑みを浮かべながら追う女性教師。
「ふ…。どこに逃げてもムダよ。全ては私の掌の中…。」

 8 過去・初めての実戦

 その頃、文の意識は過去の記憶の中にいた。文にとって重すぎる経験。しかし、決して忘れることのできない出来事…。女性教師の幻覚の効果が見せる記憶の断片に、文は翻弄されていた。
 今、文が見ている記憶の断片は、二週間後にオープンを控えたSilentMoonの店内。予定されていたミーティングのために店を訪れた文だったが、皆の予定が合わずに急遽延期され、代わりに茉莉、錦子の買出しで無人となった店の留守番をしていた。そこに、五月が二人の女性を連れて現れる。
「なんだ…、みんな集まらなくて延期?せっかくこの二人を紹介しようと思ったのに…。」
 そう言って五月は、後ろの二人に中に入るように促す。それは、後に"使い手"のツートップ、闇との戦いの要となる、粉雪と凛華の二人だった。対を成す月の欠片、"WaxingMoon"と"WaningMoon"。この二つの欠片に反応する者は、これまで一人も見つかっていなかったのだ。
 これで六つの欠片に適応する者がすべて揃った。あとは、欠片が選んだ者が"使い手"となり、闇を封印する。しかし、メイドとして働きたくて応募した文にとって、それは未だ実感のないものだった。
「凛華だ、よろしく。」
「粉雪です。よろしくね。」
 互いに握手を交わす三人。その時、五月の目に映った月が六つに割れる。それは"闇結晶"が現れたことを物語っていた。
「まだ二人の力量は未知数だけど、とりあえず"月の欠片"を持って付いて来て。文は"DarkMoon"を!」
 そう指示し、"月の欠片"が示す方向へ駆け出す五月。早速の実戦にはやる凛華と、ためらいなく続く粉雪に対し、文はまだ不安を抱えた表情だった。
「私…、ついていっても足手まといなんじゃ?雫、あなたがいてくれれば…。」
 文と雫。意気投合した二人は、適応する欠片も同じ"DarkMoon"だったのだ。それ故、文は自分よりもはるかに勝る雫が、その"使い手"になるものと思い込んでいた。まさか自分が"闇"と対峙することになるとは…。訓練以外で力を使うのは初めての文にとって、足取りは重かった。
 そして、そのときは訪れる。人を襲おうとする"闇に憑かれし者"に対し、五月が"紋章の防壁-Emblem Shade-"を放ち、それを防ぐ。間伐を入れずに、粉雪と凛華が退路を断ち、"闇に憑かれし者"を追い詰める。二人とも初めての実戦とは思えない、見事な動きを見せていた。
「この二人…すごい!私の出る幕じゃ…。」
 文がそう思った瞬間、まるでそれを見透かしたかのように、"闇に憑かれし者"が文に迫る。咄嗟に技を放とうとする文だったが、その瞬間、視界に"それ"が飛び込み、一瞬手を止めてしまう。それが仇となり、文は"闇に憑かれし者"の一撃を喰らい、大きく後方へ弾き飛ばされる。その反動で、纏っていた"月の欠片"の力が解除されてしまう文。なおも迫る"闇に憑かれし者"…!
「伏せて、文っ!」
 寸でのところで、五月が放った"紋章の防壁-Emblem Shade-"に守られる文。それに弾き飛ばされた"闇に憑かれし者"は逃走しようとするが、凛華はそれを見逃さなかった。凛華の右手から放たれた"天使の光輪-Angel Halo-"が"闇に憑かれし者"の動きを捉え、粉雪が"螺旋の遠矢-Spiral Arrow-"を放とうと構える。
 しかし、"闇に憑かれし者"が苦し紛れに起こした突風に、まだ実戦経験が未熟だった粉雪と凛華は、足元をすくわれ吹き飛ばされてしまう。
「やはり…、経験不足は埋められないか。ならば…!」
 五月が攻撃に転じようとした瞬間、疾風のように現れた人影が、文の脇に飛ばされていた月の欠片"DarkMoon"を手にとり、光を纏う。それは一瞬の出来事だった。
「ムーンライト・ダークネスっ!!」
 強大な重力攻撃が、"闇に憑かれし者"の頭上から襲い掛かる。それを放った人影は、雫であった。その圧力に屈し、地面にめり込む"闇に憑かれし者"。勝ち目がないと判断したのか、"闇結晶"はその肉体から離れ、消え去る。しかし、止めを刺すかのごとく、雫は技を放ちつづけていた。
「もういい、雫!技を解除して!」
 五月のその声に我に返り、技を解除する雫。そして、倒れた文に駆け寄り、手を差し伸べる。その目からは、先ほどまでの鋭さは消え、いつもの人懐こい顔に戻っていた。
「文、大丈夫?」
「う…うん…。」
 さっきまで体の震えが止まらなかった文だったが、雫の手をとり安心したのか、徐々に落ち着きを取り戻していた。
 そんな二人に、五月たち三人も駆け寄る。
「助かったわ、雫。でも、よくここがわかったわね。」
「偶然ですよ。たまたま近くを通りかかったら、悲鳴が聞こえたんで駆けつけたんです。」
 そして、五月の後ろの二人に気づく。
「五月さん、そちらの二人は…?」
「あぁ。やっと見つかった"WaxingMoon"と"WaningMoon"に適応する二人よ。今日のミーティングで紹介するつもりだったんだけどね。」
「今日のって…。もしかして、いま初めて"月の欠片"の力を使ったんですか?」
「そうなのよ。私も少し驚いてるんだけど…。」
 それぞれと挨拶を交わしながら、尊敬の眼差しを二人に送る雫。
「私なんて、初めて技を放ったとき、反動で後ろに倒れて壁に後頭部をゴーン、よ。」
「うーん。何かよくわかんないんだけど、声が聞こえたのよね。で、その通りにやったら、上手くできちゃったってゆーか…。てへ♪」
「ま。俺様にかかれば、こんなもん朝メシ前だな。頭の中で誰かが喋ってたけど、そんなもん聴く前に身体が動いてたよ。で。あれ、誰だったんだ?」
「ふぅ…驚きね。最初から"月の欠片"の声が聞こえるなんて。まさに、待ちに待った救世主だわ。」
 文はそんなやりとりを見ながら、これなら私が"闇"と対峙するのは今日が最初で最後ね、と少し安堵していた。
 その帰り道、文を気遣った雫は、途中まで付き添うことにした。
「雫、さっきはホントにありがと。あなたが来てくれなかったら、私…。」
「なーに言ってんのよ。持ち上げても、何にもでないわよ。私なんかより、あの二人の方が数段すごいじゃない。」
「でも、雫が来てくれたから安心できたんだもの…。もう、あの時は震えが止まらなかったんだから。ほら、まだ手が少し震えて…。」
 そう言いかけた文の手を握り、優しく声を掛ける雫。
「大丈夫。文の傍には、いつも私がついてるから。もう…誰も、私の大切な人を傷けさせたりはしない。」
 何か、強い想いを込めたかのようなその言葉が気になりつつも、触れてはいけないような気がして、文は別の質問を投げかける。
「雫は、"月の欠片"の声って聞こえてる?」
 しばらくの沈黙の後、雫が答える。
「実はね…。私、まだ一度も聞こえたことがないんだ…。」
「え…?」
 意外な答えに驚く文。あれだけ"月の欠片"の力を使いこなしている雫が、一度も声を聞いたことがないなんて。どうやって、それを使いこなしているのか…?
「"月の欠片"から力が流れ込んでくる感じがわかるの。それでね、それを捻り出すようなイメージで相手に意識を集中させる。そうすれば、技が自然と発動する、て感じかな?」
 その言葉に、先刻の雫の姿を重ね合わせる文。だからあんな風に、五月さんが制止するまで…。
「文も、その力の流れを感じれば、"月の欠片"を使いこなせるわよ。"月の欠片"はそれぞれ特性が異なる。だったら、その使い方や力の現れ方も違うはずでしょ。使いこなせるようになれば、いずれ声も聞こえてくるわよ。」
 そうなんだろうか…?疑問を感じつつも、文はそれを口に出せずにいた。そんな文を見て、雫は元気付けようと話題を変える。
「もう!あんまり考え込むと、早く老けるよ。今日は、この話はおしまい!」
 そう言いながら、文を抱き寄せるようなしぐさをする雫。
「そうだ。元気のない文に、とっておきのプレゼントあげるわ。ふふふ…、聞いて驚け。『THE EARTH』の未発表曲のCD!」
 それを聞いた途端、表情が明るくなる文。
「え?なになに!そんなのがあるの?」
「ふふ、詳しいことは、ナ・イ・ショ♪今度持ってくるからね。楽しみにしてて。」
 少し元気になった文を見て安心した雫は、大きく手を振り、文を見送る。
「じゃ、文。あと少しでお店がオープンだし、お互い頑張ろうね!」

[後編につづく]

 さて、いかがだったでしょうか?
 今回は、過去と現在を行ったり来たりの話です。構成は、前編で主要なシーンを全部見せて、後編でその間を埋めて謎解きをしていく、という作りにしています。絵がないとわかりにくいかな…と思いつつも、同じ過去話である3~4話と差異をつけるため、この構成にしてみました。正直、ここで切られると先が気になってしょうがない、と言う方が続出かも…苦笑。
 後編は、近いうちに…と言いたい所ですが、当たり前のように公開未定です(汗)。
 実は、一部設定を未だに迷っている部分があって、前編ではどちらでも転べるようにあまり深く描いていないんですが、そこをどうするかでキャラクターへの感情移入も変わってくるかと思うので、結構悩みどころです。
 あと、前編に入れたかった1エピソードがあるんですが、こちらも構成上の都合で入れれる所がなかったので、やむなくオミットしました。後編に入れると取って付けたようになりそうなので、入れておきたかったんですが…。もしかしたら、こちらもオミットになるかもしれません。
 そんな感じな第5話ですが、感想やご意見などコメントでいただけると嬉しいです。反応があれば、後編の公開が早くなるかも…?(笑)

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
Copyright (c) 2007 Yull Togami. Magical-Kids. All rights reserved.

投稿者 戸神由留 : 01:00 | コメント (0)

■2007年08月06日

▼気長にお待ちいただいてる皆様に感謝の意を込めて…

第4話、お待たせしております。汗汗汗
色々、試行錯誤や迷走を繰り返してたんですが、やっと本調子に戻りそうです。
というわけで、近日お目見え予定…?(←弱気)

さて、もうひとつ。
夏コミ不参加で時間が多少できたので、
前々から秘かに企画していた事を実行に移そうかと…。

第1~3話台本版同人誌リリースしますっ!

とりあえず、以下の様な内容を予定。

・台本形式に改稿したものを1冊に一話ずつ収録
・収録話数に関するラフデザイン公開
・収録話数に関する用語辞典
・同人誌版のみのショートストーリー

ブログ公開時、第3話後編の台本形式が好評だったので、
同人誌はそれを基本フォーマットにして構成します。
(それを受けて、第4話以降はブログでは小説風シナリオ形式、
同人誌では台本形式でリリースしていく予定です。
いきなり台本形式ではハードルが高いので、1クッション置く事にしました。)

今の所、どの話数からリリースするかは未定ですが、3話が有力か?笑
(いやほら。一番手を入れる所が少なくていいから…笑。)

そんなわけで、突然ですが予約を受け付けます!爆
(予約入らなくても、本は出しますけどね。)
そして、全然進まない話を気長に待って、
こまめにブログをチェックしてくださってる方々にお礼の意味も込めて、
先着予約特典を付けてしまいます。笑

特典の形態は、ピンナップ、収納ケース、同人誌カバー等々…
現時点では未定ですが、絵柄は次の通り。

A.凪姫&弥桜
B.錦子&相紅
C.凛華&粉雪&優妃
D.文&ノン&茉莉
E.シークレット

A~Dは、戸神の頭の中で描いているオープニングテーマの1シーンより。
Eは、訳ありキャラ3人(一人は五月)のイメージイラスト。
いずれにも、現時点で非公開のオープニングテーマの詩を掲載します。
(イラスト、詩とも、1~3話までの同人誌には収録しません。)
以上の絵柄の特典を、各絵柄1名(=先着5名)様に差し上げます。

予約してくださるという奇特な方は、この投稿にコメントをくださいませ。
個人が特定できる名前(ハンドル名やニックネーム、隠語など何でもOK)と、
希望する絵柄のアルファベットを第3希望まで書いてください。
いないとは思いますが、何冊予約しても特典は一つのみです。
コメントは投稿直後は管理者のみしか閲覧できない状態ですが、
内容を確認の後、公開して予約受付完了とさせていただきます。
(なので、コメントには個人情報などは絶対に書かないでくださいませ。)
何か一言メッセージを書いていただけると、喜びます。笑

頒価は、前回リリースの完全限定同人誌と同じ200円位の予定。
(そんなに高額取るような中身じゃないですし…ね。笑)
先にも書いたように、何話がリリースされるかは現時点で未定ですので、
最初にリリースされる話数のものに対しての予約とさせていただきます。
(何かの間違いで好評であれば、次回リリース分でも何かやります。笑)
また予約は、2007年12月31日までに手渡しできる方、
もしくは送料購入者負担で郵送できる方に限らせていただきます。
予約〆切は、第4話が公開されるまで。(←いつかわからない所がミソ。笑)

以上、ご了解いただける方のみコメントをお願いします。
先着順ですので、第1希望にならなかった方、
または5名までに入らなかった方はゴメンナサイです。

投稿者 : 00:00 | コメント (7)

■2007年05月11日

▼Silent Moon-六つの月- 第5話予告

■第5話予告■
 雨が降る---。
 あの日流した涙は、誰がために…。あの日流れた血は、何のために…。
 背負った業は重く、その小さな心を押し潰してゆく。彼女の誓いは、友への償いなのか?
 次回、SilentMoon~六つの月~ 第五夜「誓いの傷痕」。その傷に、友への想いを刻み込んで---。

*

現在、鋭意執筆中!近日公開予定!!
(…だといいなぁ…弱気。)

投稿者 : 21:05 | コメント (1)

■2007年03月25日

▼Silent Moon-六つの月- 第3~4話(後編)

お待たせしました!4ヶ月ぶりの続編です。
今回から、台本風の構成にしてみました。
セリフの人名部分の「凪姫(M)」は凪姫のモノローグ、「凪姫(T)」は凪姫のテレパシーを指します。
今回登場した主な用語は、最後にまとめてあります。ポップアップも考えたのですが、今回は見送りました。
携帯電話でご覧の方は、もしかしたら綺麗に表示されないかもしれません。完全対応はちょっと難しかった…汗。すいません。
表示確認もIE6のみです。その他のブラウザで表示不具合があれば、IE6でご覧くださいませ。
では、第3話後編をお楽しみください。↓

■三ヵ月後・閉店後のSilentMoon店内
勢いよくドアが開く。
文に支えられて、五月が転がり込むように入ってくる。
かなりの傷を負っているようだ。
錦子  「(二人に駆け寄り)五月さん、大丈夫ですか!」
五月  「だい…じょうぶ…よ…。」
文   「錦子!早く茉莉さんを…!」
茉莉  「(バックルームから出てきて駆け寄る)五月!」
バックルームに五月を運び込み、"無限の装飾-Infinity Dress-"でヒーリングを行う茉莉。
二人を残し、文と錦子はバックルームから出てゆく。
錦子  「何があったの…?」
文   「また、"炎"が現れたのよ。何とか憑かれた人からは弾き出したけど、無理した五月さんが深手を…。」
錦子  「五月さんらしくないわ。どうしたのかしら…?」
文   「五月さん…最近、なにか焦ってる感じがするのよ。」
錦子  「"炎"が徐々に力を増してるからなのかも…。」
 
■バックルーム
横になり、茉莉のヒーリングを受ける五月。
五月  「やっぱり、今の状態じゃ…。」
茉莉  「五月、焦ってもどうにもならないことはあるわ。」
五月  「でも、"炎"は確実に力を増しつつある…。このままじゃ、いずれ私たちの手に負えなくなるかもしれない。」
茉莉  「だからと言って、無茶してこんな怪我してたら…。」
五月  「"七番目の月"…。やはり、それを見つけなければいけないのかしら。」
茉莉  「"月の女神のメッセージプレート"の最後の節に刻まれているアレね。今、いろんな人に協力してもらって調べてるけど、分からないことが多すぎるのよ。かつての"使い手"が遺したと言われている"眠りのレリーフ"にも、具体的なことはなにも刻まれていない…。本当にそんなものが存在するのかさえ、確かじゃないわ。」
五月  「そうね…。私たちに語りかける"月の欠片"の声でさえ、それを語らない…。」
茉莉  「三つの闇結晶がこのまま力を溜めれば、いずれ"漆黒の天使"が生まれる。それで何が起こるのか、それがどんな力を持っているのか…それすらも解らないのよね…。解っているのは、"漆黒の天使"になるのは適応できる人間だけということ。そして、"漆黒の天使"となった人間は救うことはできないということ…。」
五月  「もしかしたら、過去に"漆黒の天使"が現れた例がないのかもしれない。"七番目の月"が"漆黒の天使"に対しての存在であるなら、それらの記録が一切無いことも頷けるわ…。」
茉莉  「だとしたら、それを知ることが出来るのは"月の女神のメッセージプレート"に刻まれた言葉からのみ…。」
五月  「六つの月 集いし時 汝 その名を称えよ/さすれば其はひとつになりて その想い叶えん/見えざるものこそ 求むべき力なり/静かなる月は そこにある…。」
茉莉  「その名すら隠された月…。簡単に考えれば、姿のない月齢="新月"なんだろうケド…。」
五月  「六つの欠片を集めて、"新月-NewMoon-"の名を称える…。そんなことは、とっくに試したじゃない。そんな簡単なものじゃないと思うわ。」
茉莉  「五月の考えるように、"漆黒の天使"に対して存在なら、それが現れて、初めてその答えがわかるのかも…?」
五月  「それまでに、どれだけたくさんの人が悲しい想いをしなければならないのか…。こんな想い…もう、私だけで充分…。できるなら、あの娘たちを巻き込みたくはなかった…。」
茉莉  「五月…。」
 
■翌日・SilentMoon店内

凛華  「五月さんが、そんな事を…。」
錦子  「うん…。だから、茉莉さんが暫く休むように言ったみたい。」
粉雪  「私たちがまだ不慣れなせいで、五月さんに負担をかけてるのね…。」
文   「(粉雪の頭を小突きながら)そういう考え方が、余計に負担をかけるのよ!私たちは、五月さんのためじゃなく、自分の意志で"使い手"になったんでしょ。だから、不慣れなら不慣れでいい。今できることを全力でやればいいの。」
粉雪  「分かってるわよ。それよりも、文!そうやって上から小突くの、止めてって言ってるでしょ。(不満そうに)私の方が年上なのに…。」
文   「でも、私の方が1週間ほど先輩だわ。」
錦子  「はいはい。子供みたいな言い合いしてないで、店開けるわよ!」
 
■夕刻・SilentMoon店内
いつもの席に座っている少女。粉雪が紅茶を運ぶ。
少女  「え…。五月さん、お休みなんですか?」
粉雪  「(カップに紅茶を注ぎながら)ごめんなさいね。ちょっと用事で、長めのお休みを頂いてるのよ。」
少女  「そう…なんですか…。」
何か言いたげに、うつむく少女。
粉雪  「五月さんに用事でもあるの?」
少女  「あ…。(何か言いかけるが)いえ、何でもないです…。」
粉雪  「(少し考えて)うーん…、ホントはダメなんだけどね。(小さな声で)来週末、早番で入ってるわよ。」
少女  「(少し明るい表情になり)ホントですか?」
粉雪  「(人差し指を唇に当てて小声で)な・い・しょ・よ。」
少女の嬉しそうな表情を見て、キッチンに戻る粉雪。
文   「(粉雪の頭を小突きながら)"な・い・しょ・よ"じゃ、ないでしょ!」
粉雪  「てへ。見られてた?…てか、小突くの止めてって言ってるじゃない!」
文   「なぁにぃー、どの口がそれを言うかな?でも、粉雪が言わなかったら、私が言ってたな…。ここ数日の彼女、何か思い詰めたような表情をしてたし。」
粉雪  「あ…、文も気づいてたんだ…。」
文   「うん。なんかね、嫌な感じがまとわりついてるみたいな…。思い過ごしならいいんだけど。」
 
■夜・少女の部屋
ベッドに寝ころびながら、メッセージ入り携帯ストラップを眺める少女。
ストラップには、"奇跡はね、信じていればきっと起こるんだよ。"と五月の直筆で書かれている。
少女  「五月さん…。話したいことがあったのに…な…。」
少女の回想。五月の姿が、姉の姿とオーバーラップする。
■回想・少女の自宅の喫茶店

少女(M)「パパとママの喫茶店。お姉ちゃんはそこの看板娘だった。きめ細かいサービスと器量の良さがお客さんの間で評判で、お店の中はいつも笑顔が耐えなかった。私はそんなお姉ちゃんに憧れていた。」
店の準備をする姉と手伝う少女。
少女  「高校卒業したら、私も手伝うからね。」
少女の姉「何言ってるの。あなたは勉強できるんだから、大学に行きなさいね。」
少女  「えー。私じゃ看板娘には役不足?」
少女の姉「そうじゃないわよ。私は全然勉強できなかったから、進学なんてこれっぽっちも考えてなかったけど…。あなたは、せっかくいい頭持ってるんだから、使わなきゃ勿体ないわよ?」
少女  「お姉ちゃん。それ、買いかぶりすぎ!」
少女(M)「優しかったお姉ちゃん。笑顔が素敵だったお姉ちゃん。でもそれは、あの日を最後に…。」
 
■回想・少女の自宅前
燃えさかる少女の自宅。
呆然と立ちつくす少女。何が起こっているのか理解できない様子。
少女  「いや…、嘘よ…こんなの…。パパ、ママ、お姉ちゃんっ!」
自宅に入ろうとして消防隊員に止められる少女。取り乱し、泣き叫ぶ。
少女(M)「親戚がほとんどいなかった両親…。それから私は、遠い親戚だという人の家に身を寄せた。でも、優しかったのは最初だけ。暫くすると、邪魔者扱い…。」
 
■回想・親戚の家

親戚  「ウチも生活が楽な訳じゃないのに…。」
少女  「両親の遺産があったはずです。あれは…?」
親戚  「あんなはした金、いつまであると思ってるんだ!」
少女(M)「嘘!だって、叔父さん。私が来てから、新しい車に買い換えてるじゃない!叔母さんは、アクセサリーで着飾ってるじゃない!そのお金、パパとママのなんでしょ!もう誰も、信じられない…。」
 
■回想・少女の部屋
僅かな荷物を片づける少女。
少女(M)「そして私は、一人暮らしを始めた。慣れないことばかりで大変だったけど、ちゃんと学校も通いながら、なんとか頑張っていた…。」
夜遅くバイトから帰宅する少女。閉めたはずのドアの鍵が開いている。
少女  「え…?」
おそるおそるドアを開ける。
荒らされた部屋の中を見て呆然となる少女。慌てて部屋に入り、あちこちを確認する。
少女  「ない…ないよぉ!お姉ちゃんの形見のイヤリングも、パパの形見の時計も…。」
少女(M)「大切な思い出が詰まったたくさんのものがなくなっていた…。お金なんかより、心の支えにしていたそれらのものがなくなったことが、私にはショックだった。」
 
■回想・アキバ近く

少女(M)「思い出の品を失った反動か、私はお姉ちゃんとの思い出が残る場所をさまよい歩いていた。そして、一緒にケータイを買いに行ったアキバに着いたとき…。」
フライヤーを配っているSilentMoonのメイド。それを手に取る少女。
少女  「メイドカフェ…。喫茶店…?」
少女(M)「そのフライヤーに誘われるように、私はSilentMoonに足を向けていた。そして店に入ると…。」
 
■回想・SilentMoon店内

五月  「お帰りなさいませ。お嬢様。こちらへどうぞ。」
案内されるままに席に着く少女。辺りを見回す。
そして、五月の接客を見るうち姉のそれを思いだし、思わず涙が溢れる。
五月  「どうかなさいましたか。お嬢様?」
そう言いながら、店のポイントカード特典のハンカチを差し出す五月。
少女(M)「私は、それまで耐えていた色んな事を、五月さんに話し始めた。初めて会った、それも沢山いるお客さんの一人である私の話を、ちゃんと聞いてくれた五月さん…。」
五月  「神様はみんなに平等なんだから…。あなたにも、きっと幸せが来るわ。」
少女  「奇跡でも起きない限り、そんなこと…。」
五月  「奇跡はね、信じていればきっと起こるんだよ。」
少女(M)「それからは週に一、二度、SilentMoonを訪れるようになった。そこでお茶を飲んで一息つくことが、私の心の支えになっていた…。でも、部屋に帰ると私は一人。忙しく過ぎていく毎日に、いつしか、かつての友人からもメール一つ来なくなっていた…。」
 
■再び現在の少女の部屋
携帯電話をベッドの脇に置き、布団をかぶる少女。
少女  「なんで…私ばっかり、こんなについてないんだろう…。神様が平等なんて…。(涙ぐみながら)きっと、私は神様にも見捨てられたんだ…。」
 
■数日後・SilentMoon店内

五月  「みんな、長い間留守にしてゴメンね。」
文   「ゆっくり休養は取れました?」
五月  「もうね、暇で暇で…。」
粉雪  「そんなコト言いつつ、ホントは忙しく過ごしてたんですよね?」
五月  「鋭いな、粉雪。まぁ、色々とね…。普段やらないことなんかをやってみたわよ。(鞄を開けて)はい、みんなで食べて。久々に作ったんで、口に合うかは分からないけど。」
粉雪  「わぁ!五月さんの手作りケーキですか?」
文   「いただきます!…あ。(何かを思いだしたように)このケーキ、あの娘に出してあげたら喜ぶかな?」
五月  「ん?誰?」
粉雪  「あぁ、あの娘ね!ほら、指定席の彼女ですよ。五月さんが休んだ日にお帰りしてたんですけど、何だか思い詰めた顔してて…。」
五月  「そうなの…。今日、来るかな?」
文   「きっと来ますよ。(粉雪の頭を小突きながら)ダメだって言うのに、粉雪が五月さんのシフト、教えてましたから。」
粉雪  「ダメだ、とか言ってないし!てゆーか、小突くの止めてって言ってるでしょ!」
そんないつものやりとりに、笑みがこぼれる五月。と同時に、少女に対する不安がよぎるのだった。
■夕刻・SilentMoon店内
シフト交代の時間になり、錦子、茉莉達が出勤してくる。粉雪、文は勤務を終える。
文   「指定席の彼女、来なかったわね。」
粉雪  「絶対来ると思ったんだけどなぁ。用事でもできたのかな?」
五月  「(少し考えて)私、もう少し待ってみるわ。少しなら時間あるし。」
粉雪  「私は凛華と待ち合わせしてるんで、失礼しますね。待たせると、怖いし…。」
五月  「気にしなくて良いわよ。私が勝手に待ってるだけだから。」
"お疲れ様でした!"と店を出る、粉雪と文。
それから小一時間ほど待つが、結局、少女は現れなかった。
"もし彼女が来たら、明日もいるって教えてあげて"と茉莉に言付け、店を出る五月。
■繁華街
肩を落とし、泣きながら歩く少女。
先刻、少女はバックをひったくられていた。その中には、五月にもらったストラップを付けた携帯電話も入っていた。
少女  「もう…いやだ…。なんで…こんな目にばっかり…。」
あてもなく歩き回り、路地に入る少女。そこで偶然、無惨な姿で捨てられている自分のバッグを見つける。
あわてて拾うが、財布と携帯電話は持ち去られていた。
少女  「どうして…どうして私から、大切なものばかり奪うの…!」
声にならない声で嘆く少女。
その時、何者かの声が、少女に語りかける。
謎の声 「憎いか…。悔しいか…。ならば、力を欲せよ。さすれば、我が力を与えよう…。」
少女  「だ…誰…?」
謎の声 「お前の望みを叶える者だ。さぁ、望むのだ。力が欲しいと…。」
少女  「力…。力があれば、私の運命を変えられる…?だったら、私は……。」
少女がそう願った瞬間、黒い影が少女を包む。
■繁華街・別の路地

少年A  「ち!この財布、中身しょぼいなっ!」
少年B  「(少女の携帯を触りながら)何だコレ。アドレス帳、全然入ってないじゃねーか!友達、いないんじゃねーの?コイツ。」
少年A  「あーあ、盗り損か…。せめて、カモのアドだけでもゲットできりゃあな。」
その時、目の前に黒い影が立ちふさがる。
少年B  「なんだ、てめぇ!」
少女  「返して…。私のケータイ、返して…。」
少年A  「はぁ…?あー、お前。もしかして、さっきのマヌケな女か?こんな所まで追いかけてきて、ごくろーさん!」
少年B  「返してほしかったら、取りに・お・い・で・!」
そう言いながら、ストラップを持って携帯電話を振り回す少年B。
次の瞬間、一瞬のうちに少年Bの背後に回り込んだ少女は、その首を締め上げる。
少年B  「がは…なんて力…。く…苦し……。」
そのまま失神する少年B。
それを見て逃げ出す少年Aに飛びかかり、馬乗りになる少女。両手で首を絞める。
少女  「ワタシノ大切ナモノヲ奪ウヤツ…許サナイ!」
少年A  「た…たす…け……。」
白目をむく少年A。
更に首を締め上げようとしたとき、制止する声が聞こえる!
凛華  「やめろー!」
聞き覚えのある声に、我に返る少女。振り返ると、凛華と粉雪が立っていた。
少女  「あ…ああ……。(後ずさりしながら)いやーーー。」
走り去る少女。二人は後を追う。
粉雪  「今の、指定席の彼女…!」
凛華  「微かだが"闇"の臭いがしたぞ。まだ憑かれて間もない感じだったな…。」
粉雪  「不安的中…か。当たってほしくなかったけど…。」
凛華  「いや。今なら、まだ間に合う。完全に取り込まれる前に、助けるぞ!」
粉雪  「えぇ!(少し考えて)ここは、五月さんの力も借りた方がいいわね…。」
 
■粉雪達から少し離れた場所

五月(T)「なに…!すぐに行くわ!粉雪、私が駆けつけるまで、彼女をお願い!」
粉雪(T)「分かりました!」
粉雪達がいる方向へ向かって走り出す五月。
■ビル屋上
柵を乗り越え、屋上の端に立つ少女。距離を置いて、凛華、粉雪が説得する。
少女  「こ…来ないでっ!」
粉雪  「そんな所にいたら、危ないわ。」
少女  「私…あれは私じゃ……。」
凛華  「わかってるよ。あれは、お前のせいじゃねぇ!俺達が護ってやるから、安心しろっ!」
粉雪  「大丈夫…、大丈夫だから…ね。」
そう言いながら、少しずつ距離を詰める粉雪。
二人の説得に、その場で泣き崩れる少女。
少女を抱き寄せる粉雪。
粉雪  「もう…大丈夫よ…。」
しかし次の瞬間、少女の目が不気味に光り、粉雪の首を絞める。
粉雪  「な…んで…。」
少女  「フフフ…甘イナ、人間…!マズハ、オ前カラダ。」
凛華  「粉雪!」
不適に笑いながら、さらに粉雪の首を締め上げる少女。
その時、五月が駆けつけ、少女に向かって叫ぶ。
五月  「優妃ちゃんっ!闇に呑まれないで!」
五月のその声に我に返り、粉雪の首から手を離す少女(=優妃)。
膝から崩れ、咳き込む粉雪。
優妃  「あ…、わ…わた…し……。いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
五月  「優妃…っ!」
後ずさりし、咄嗟に屋上から身を投げようとする優妃。
それを察した五月が駆け寄るが、間に合わず転落する。
しかし、屋上から覗き込んだ五月の目に飛び込んできたのは、宙に浮く優妃の姿。髪が逆立ち、目は紅く光っている。
息を呑む五月。
炎の闇結晶「容易いな…。心の弱い人間は、追いつめれば簡単に身体を放棄する。」
五月  「なにっ!」
炎の闇結晶「フフ…。生きることを放棄した人間を乗っ取るのは、容易いと言ったのだよ!」
そう言い放ち、右手から炎を発する優妃(=炎の闇結晶)。
それをかわし、月の力を纏う五月。
五月  「ハーベスト・ムーンっ!」
五月に続く、凛華と粉雪。
凛華  「ワニング・ムーンっ!」
粉雪  「(咳き込みながら)ワキシング…ムーン…っ!」
月を背に、屋上より高い位置に浮かぶ優妃の身体。
凛華  「炎の闇結晶…!今日こそ、ケリをつけてやるっ!」
炎の闇結晶「フフフフフ…。できるかな…虫ケラ如きに…。」
五月  「凛華、挑発に乗っちゃダメよ!」
凛華  「わかってます!行くぞ、粉雪っ!」
翼を開き、左右に散開する凛華と粉雪。
二人に向かって、炎の闇結晶が炎を放つ。
それを、"紋章の防壁-Emblem Shade-"で弾く五月。
攻防を繰り返しながら闇結晶本体の位置を探るが、容易に見つけることが出来ない。
位置がわからなければ、天使の羽(=封印のアンカー)は打ち込めない。焦る粉雪。
それを嘲笑うかのような闇結晶の攻撃に、翻弄される三人。
五月(M)「このまま闇結晶が優妃ちゃんの身体を使い続ければ、心が闇に喰われていなくても、彼女の心はいずれ消滅してしまう。そうなる前に、彼女の身体から闇結晶を弾き出さなければ…!」
五月  「凛華、粉雪!ヤツに接近するわ。援護して!」
凛華  「どうするつもりです?!」
五月  「彼女の心は闇に喰われたわけじゃない。心に直接呼びかけて、彼女の意識を呼び戻すことが出来れば…」
粉雪  「闇結晶の本体の位置が明らかになる!」
五月  「チャンスは一瞬…。二人共、任せたわよ!」
凛華と粉雪が地を蹴る。
それに続くため、タイミングを見計らう五月。
優妃と妹・依子(よりこ)の姿を重ね、胸の"月の欠片"を握りしめる。
五月(M)「依子…。もう誰にも、あなたの様な思いはさせない…。だから、お姉ちゃんに力を貸してね…。」
地を蹴る五月。
巧みに攻撃を交わしながら、優妃(=炎の闇結晶)への接近を試みる。
凛華  「エンジェリック・サーベルっ!」
粉雪  「エターナル・レストリクション!」
凛華が"天使の剣舞-Angelic Saber-"で隙を作り、粉雪の"永遠の拘束-Eternal Restriction-"が優妃(=炎の闇結晶)の四肢を捉えた。
一瞬動きを封じられた優妃(=炎の闇結晶)の背後から、五月が接近する。
五月  「エンブレム・シェード!」
五月は、"伝心"の紋章を込めた"紋章の防壁-Emblem Shade-"を放ち、優妃の心に直接アクセスする道を開く。
■心の世界のイメージ描写

五月(M)「お願い、優妃ちゃん。私の声に応えて…!」
その声に応えるように、五月の心と優妃の心の間に"道"が開く。
五月(M)「優妃ちゃん…。」
小さく光る優妃の心。徐々に優妃の形になり、振り返る。
伸ばした五月の右手に、自分の右手を伸ばす優妃。
二つの手が互いに近づく…。
優妃(M)「五月さ…ん…。」
 
■現実世界
優妃の身体の一点が、少しずつ輝き出す。
凛華  「粉雪!あれが闇結晶の本体だ!」
粉雪  「見えたわ、凛華!」
"天使の光輪-Angel Halo-"の光のリングを手に、構える凛華。
"永遠の拘束-Eternal Restriction-"を解除し、"螺旋の遠矢-Spiral Arrow-"を放とうとする粉雪。
しかし次の瞬間、その光は突然輝きを増し、移動する。
五月が優妃に触れている、その一点を目指して…。
凛華  「何が…起こっている…?!」
 
■再び、心の世界
二つの手が触れ合う。
優妃(M)「待ッテイタゾ、コノ瞬間ヲ…!」
五月(M)「はっ…!」
優妃の形をしていたはずのそれは、突如漆黒の闇に変わり、五月の心を包み込む。
炎の闇結晶(M)「貴様の身体、もらい受ける!」
五月(M)「く…罠か…!」
炎の闇結晶(M)「フフフ…見えるぞ、貴様の心の闇が…。」
五月(M)「そのような囁きなど、私には…!」
炎の闇結晶(M)「そうかな…。貴様は憎んでいるはずだ…、妹を死に追いやった闇を…。」
五月(M)「なに…?!」
炎の闇結晶(M)「もう少し、遊んでやるつもりだったのだがな。あんなにあっさりと死を選ぶとは…。おかげで、ここまで来るのに手間がかかったぞ。」
五月(M)「お前が…依子を…!」
それを聞いた瞬間、心の奥底に封じていたはずの闇に対する怒りが沸き出す五月。
闇結晶はそれを見逃さなかった。闇が一気に五月の心に流れ込んでゆく。
■現実世界
一瞬、五月と優妃の身体が輝いたかと思うと、木の葉のように落下する優妃の身体。
咄嗟にその身体をキャッチする凛華。
凛華  「どうなってるんだ…?おい、大丈夫かっ?!」
粉雪  「凛華…、五月さんが…!」
空中に留まっていた五月の翼が、徐々に黒く染まってゆく。
炎の闇結晶「フハハハハハ!ついに…ついに"使い手"の身体を手に入れたぞ!」
凛華  「五月さんっ!」
炎の闇結晶「呼びかけてもムダだ。こいつの心は、すでに闇に喰われた。」
粉雪  「そんな…。五月さんが、闇なんかに負けるわけがない…!」
炎の闇結晶「(不敵な笑みを浮かべ)他人の心配などしている余裕はあるのかな…?」
そう言いながら、右手の人差し指で弾く仕草をする五月(=炎の闇結晶)。
直後、凄まじい衝撃波が粉雪を襲い、飛ばされて壁面に叩きつけられる。
粉雪  「…がはっ…!!」
凛華  「粉雪ぃっ!!」
炎の闇結晶「ほぅ…、力への馴染み方がなかなかよい身体だな…。手間がかかっただけのことはある。(凛華の方を睨み)次は、貴様らの持つ"月の欠片"をもらい受けるぞ。」
危険を察知した凛華は、優妃を抱きかかえ、地を蹴る。
間一髪で衝撃波を逃れたが、次の攻撃が凛華を追う。
凛華(M)「このままじゃ…マズい!この娘を安全な所へ避難させて、みんなに助けを…!」
逃げる凛華に照準を合わせる五月(=炎の闇結晶)。
指を弾く仕草をしようとした瞬間、何かがその手を絡み取り、攻撃は凛華から外れる。
それは、崩れた瓦礫の中から立ち上がった粉雪が、渾身の力で放った"永遠の拘束-Eternal Restriction-"だった。
粉雪  「…五月さんの身体…、返して…もらう…!」
炎の闇結晶「愚かな…、大人しく倒れていればいいものを。そんなに死に急ぎたいとはな…。」
"永遠の拘束-Eternal Restriction-"が絡み付いた右腕を強引に振り回す五月(=炎の闇結晶)。
それに引きずられ、宙を舞う粉雪。
粉雪  「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
凛華  「エンジェリック・サーベル!」
"天使の剣舞-Angelic Saber-"で"永遠の拘束-Eternal Restriction-"を断ち切り、空中で粉雪をキャッチする凛華。
凛華  「無茶するな、粉雪!」
粉雪  「あの娘は…?」
凛華  「とりあえず、安全な場所へ運んでおいた。いや、安全な場所なんてないかもな…。」
粉雪  「そうね…、あいつを封じない限り…。」
凛華  「闇結晶の場所は見えるな。」
粉雪  「えぇ。絶対の自信があるのか、気配を隠そうともしていない…。」
凛華  「よし…行くぞっ!」
散開する凛華と粉雪。
しかし、動じることなく、不適な笑みを浮かべる五月(=炎の闇結晶)。
凛華  「エンジェル・ハイロゥ!」
二つのリングを同時に放つ凛華。そのリングは、五月(=炎の闇結晶)の身体を捉える。
粉雪  「スパイラル・アローーーーーーーーーーーっ!!」
粉雪の両腕からのびた光の螺旋が、一直線に伸びてゆく。
五月の体内にある闇結晶に向けて突き刺さる光。
しかし次の瞬間、光のリングもろとも霧散する。
凛華  「なにっ!!」
粉雪  「そ…そんな…。」
炎の闇結晶「ハハハハハハハ!それで終わりか、虫ケラ。準備運動にもならんな。この私が、本当の"力"と言うものを教えてやるよ…。」
そう言いながら、左腕を真上に挙げる五月(=炎の闇結晶)。
「フッ」という笑いと共にその腕を振り下ろすと、突如、凛華の真上から衝撃波が襲う。
屋上に叩きつけられ、めり込む凛華。鈍い音と共に、左腕が折れる。
凛華  「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
粉雪  「(悲鳴のような叫び声で)凛華ぁーーーーーーーっ!」
 
■同時刻・SilentMoon店内
粉雪のその叫びは、店内で仕事中の茉莉と錦子に届く。
突然のことに、皿を落としてしまう茉莉。
茉莉(M)「何…?何があったの、粉雪---!」
錦子  「茉莉さん、今の…!」
茉莉  「今の感じ、ただ事じゃないわ。錦子、"真紅の旋風-Crimson Gale-"で先に行ってちょうだい!」
錦子  「わかりました!(店外へ駆け出し)クレセント・ムーーーンっ!」
 
■同時刻・帰宅途中の文
同じく、その声は文にも届いていた。
文   「粉雪…!(振り返り)ダーク・ムーン!」
 
■同時刻・五月の心の世界
深い海のイメージ。どんどん沈んでゆく五月。
水面に反射する光は、徐々に闇に閉ざされて見えなくなってゆく。
五月(M)「……私はこのまま、闇に喰われてゆくの…か…。依子…、あなたの無念も晴らせないまま…、誰も護れず…、私自身も闇に呑まれて…。」
闇が完全に光を閉ざす。意識が薄れてゆく五月。
五月(M)「ごめんね…みんな…。みんなを巻き込んで、偉そうなことを言って…、それなのに、私が…こんな---」
闇の一部が徐々に妹・依子の姿に変わってゆく。
その顔には影が落ち、その手は五月の首に伸びてくる…。
五月(M)「そうよね…依子…。あなたに恨まれるのも、当然よね。あなたが苦しんでいるときに、私は何もできなかった。一番頼りたかったはずなのに…何もしてあげられなかった。側にいることさえ…。ごめんね、依子…。不甲斐ないお姉ちゃんを許して…ね……。」
しかし、徐々に近づいてくる依子の顔には、陰りはなかった。
依子(M)「ううん、お姉ちゃん。恨んでなんか、ないよ。」
五月(M)「依子…。」
依子(M)「お姉ちゃんは、いつも私の側にいてくれたじゃない。いつも私のことを思っていてくれたじゃない。」
五月(M)「……私の…都合のいい幻覚か……。」
依子(M)「違うよ、お姉ちゃん。さっき、私に呼びかけたでしょ?"依子、力を貸してね"って…。」
五月(M)「それは…。」
依子(M)「"月"がね、教えてくれたの。お姉ちゃんが呼んでるって。だから、今度は私がお姉ちゃんの力になる番よ。」
伸びてくる依子の手に、自分の手を伸ばす五月。
二つの手が触れ合った瞬間、光が輝き出す。
依子(M)「私…お姉ちゃんの妹で良かった。ありがとう…お姉ちゃん…。」
五月(M)「そうか…。これが…これが"求むべき力"---。」
 
■再び現実世界
左腕が折れ、立っているのがやっとの凛華。
全身傷だらけになりながらも、凛華を支える粉雪。
その二人に対し、とどめの一撃を放とうとする五月(=炎の闇結晶)。
炎の闇結晶「これで終わりだ。」
その時、闇結晶本体が輝き出す。
そして、身体を思うように動かせなくなる五月(=炎の闇結晶)。
炎の闇結晶「な…なにぃ…!」
粉雪  「あれは…!」
五月(M)「二人とも、今だ!封印のアンカーを…!」
凛華  「五月さん、無事で…!」
五月(M)「いや、私はもう…。しかし僅かの間なら、"紋章の防壁-Emblem Shade-"で闇結晶の力を抑え付けることができる。このチャンスを逃すな!」
炎の闇結晶(M)「この、死に損ないがぁ!小賢しい真似をーーっ!」
粉雪  「五月さん、諦めないで!」
五月(M)「二人とも、わかっているはずよ。一度"漆黒の天使"となった人間は、たとえ闇を弾き出したとしても、その身体は砂となって崩れ去る…。それは、月の欠片の"使い手"であっても同じよ。だから、このチャンスを逃さないで!ここでこいつを逃せば、また新たな犠牲者が出る。悔しいけど、今の私たちにこの圧倒的な力に対抗する術はない。だからこいつは、私の命と引き替えにしてでも、いまここで封印しなきゃ、いけないのよ!」
凛華  「なんでだよ…。"命の重さに優先順位なんてない"って言ったのは、五月さんじゃないか…!」
奥歯をかみしめる凛華。そして、意を決し、技を放つ。
凛華  「うぉぉぉぉぉ!エンジェル・ハイロゥーーー!!」
光のリングが五月(=炎の闇結晶)を捉える。
粉雪  「凛華っ!」
凛華  「粉雪ぃ!何をしている。早く"螺旋の遠矢-Spiral Arrow-"を…!」
粉雪  「でも…!」
凛華  「俺達の使命を忘れたのか!俺達は、全ての闇を封じなきゃいけないんだ!でなければ、この世界は闇に包まれてしまう。それを食い止めることが出来るのは、俺達だけだ!それが、選ばれた俺達に課せられた"業"なんだよ!俺達がそれに負けたら、誰がこの世界を護る!」
その時、炎の闇結晶の抵抗が激しさを増す。
五月(M)「粉雪…早…く…!」
炎の闇結晶(M)「貴様らぁぁぁぁぁぁっ!!」
凛華  「粉雪ぃっ!!」
粉雪  「うわぁぁぁぁぁ!スパイラル・アローーーーーーっ!」
放たれた光の螺旋が、闇結晶の本体を貫く。突き刺さる天使の羽(=封印のアンカー)。
凛華・粉雪「(声にならない声で)"絶対なる封印-Absolute Seal-"っ!」
炎の闇結晶「貴様ら如きにぃぃぃーーーーーーーっ!」
光のリングが、天使の羽をめがけて収束してゆく。
それを破ろうと力を放出する闇結晶と、封じる五月の"紋章の防壁-Emblem Shade-"の力がぶつかり合い、まばゆい閃光を放つ。
五月(M)「二人とも、あとはお願いね。そして忘れないで…。信じ合う想いが奇跡を生む。そして月は、そこに…ある……。」
粉雪  「五月さーーーーーーーーーんっ!!」
粉雪の悲痛な叫びをかき消すように、閃光は更に輝きを増し、周囲がホワイトアウトしてゆく。
その光を、遠方から見る錦子。
錦子  「一体…何が…。」
 
■ビル屋上
光が消え、屋上に転がっている"炎の闇結晶"。それには、封印の紋章が刻まれている。
蹌踉めきながらそれに近づき、拾い上げる凛華。
暫く見つめた後、口を開く。
凛華  「こんな犠牲…俺は認めない。俺たちの未熟が、あの人を殺したんだ!」
粉雪  「凛華…。」
"炎の闇結晶"を握りしめ、天を仰ぐ凛華。
凛華  「粉雪…。残り二つの闇結晶、必ず俺たちの手で葬るぞ!」
粉雪  「(涙を拭いながら)えぇ。もう誰も…誰も同じ涙は流させない…!」
凛華(M)「五月さん、だからあなたは、そこで俺たちを見守っていてくれ…。」
 
■再び現在・SilentMoon店内

凪姫  「私…その人に会ってみたかった…。」
沈黙の後、凪姫が呟く。その目からは、溢れる涙がこぼれ落ちる。
茉莉  「凪姫…、彼女にはもう会えないけど、あなたは彼女が遺した多くの想いに触れているわ。彼女の強さは凛華が、彼女の優しさは粉雪が、そしてメイドとしての志は優妃が、それぞれ継いでいる…。」
凪姫  「(涙声で)茉莉さん…、私…。」
茉莉  「あなたはあなた…、五月である必要はないわ。だから、あなた自身が決めればいい…。」
凪姫  「(しばし沈黙の後)…はい!」
そう答えた凪姫の目に、すでに迷いはなかった。
茉莉(M)「凪姫。あなたは一度だけ五月に会っているのよ。そう、あの日…。あなたが初めてここを訪れたあの日---。」
 
■回想・SilentMoon店内
"優妃ちゃんが来たら教えてあげて"と言付けて、店を出ようとする五月。
茉莉  「ええ、わかったわ。そう言えば…(思い出したように)今から妹さんの所?」
五月  「うん。今日は依子の誕生日だから。あの娘が好きだったものでも買って、持っていってあげようと思って。」
茉莉  「そう…。妹さんによろしくね!」
その時、ドアが開いて二人組の女性客が入ってくる。
五月・茉莉「お帰りなさいませ、お嬢様。」
そう言い終わり、あ!という顔で茉莉を見ながら、"シフト上がってたんだったわ"という仕草をする五月。
直後、五月が持つ月の欠片"HarvestMoon"が微かな音色を奏でる。
五月  「(二人組の女性客を目で追いながら)茉莉。今の二人組、誘ってみてくれない?特に左側の娘…。」
茉莉  「どうしたの?あなたがそんなことを言うなんて、初めてじゃない?」
五月  「うん…。今ね、"HarvestMoon"が一瞬見せたのよ。彼女が金色(こんじき)の翼を纏い、闇を駆る姿を…。」
瞼を静かに閉じ、そう呟く五月---。
茉莉(M)「そう。それが、私と彼女が交わした最後の会話…。凪姫…あなたは、五月が選んだ最初で最後のメイド。彼女が見初めた、たった一人の天使---。」


- 第三夜「漆黒の悪夢」・完 -

●用語辞典
闇結晶
炎、風、水の三つが存在する。遙か昔、月影の女神が自らの魂の結晶に三つの"闇"を封じたが、邪な心の人々がそれを奪い合い、三つに砕けたそれは再び世に放たれてしまう。
漆黒の天使
闇結晶が、その力に適応できる人間の体を手に入れたとき、"使い手"とは正反対の黒い天使になるといわれている。漆黒の天使となった"闇"は、それが持つ本来の力を発揮し、この世を闇に包むとされている。
月の欠片
"闇"を封じた月影の女神の魂の結晶が砕け散った後、月光の女神が残った欠片にその力を込め、月齢の名と共に、正しき心を持つ"使い手"に託したもの。現存する六つの月以外に、"七番目の月"があると言われている。
月の女神のメッセージプレート
月光の女神のメッセージが、紋章文字で刻まれているプレート。解読できていない部分が多く、謎に包まれている。また、そこから発せられる波動は"闇"の力を無力化する効果があり、アキバ全体に結界を形成している。
眠りのレリーフ
かつての月の欠片の"使い手"が作り、遺したと言われるもの。"月の女神のメッセージプレート"、三つの"闇結晶"、六つの"月の欠片"が収まるよう窪みが設けられている。同時に、過去の"使い手"からのメッセージも刻まれ、これを元に紋章文字の解読を行っている。
無限の装飾-Infinity Dress-
月の欠片"GibbousMoon"に込められた月光の女神の力。あらゆる力の性質を変える能力がある。
天使の光輪-Angel Helo-
月の欠片"WaningMoon"に込められた月光の女神の力。あらゆるものを光のリングの中へ捉え、それが持つ力を無効化する能力がある。"螺旋の遠矢-Spiral Arrow-"と対で放つことにより"絶対なる封印-Absolute Seal-"を発動し、唯一"闇"を封印することができる。
天使の剣舞-Angelic Saber-
凛華が使う技。"天使の光輪-Angel Helo-"を応用した技で、完全なリングを形成せず、剣やブーメラン等、戦況に応じた形を形成する。
螺旋の遠矢-Spiral Arrow-
月の欠片"WaxingMoon"に込められた月光の女神の力。あらゆるものを貫き、天使の羽(=封印のアンカー)を打ち込む能力がある。"天使の光輪-Angel Helo-"と対で放つことにより"絶対なる封印-Absolute Seal-"を発動し、唯一"闇"を封印することができる。
永遠の拘束-Eternal Restriction-
粉雪が使う技。、"螺旋の遠矢-Spiral Arrow-"を応用した技で、螺旋を構成する波動を鎖状に形成し、目標に絡めて動きを封じる。
紋章の防壁-Emblem Shade-
月の欠片"HarvestMoon"に込められた月光の女神の力。あらゆる力を反射、抑制、吸収、消滅させる能力がある。楯の中央に紋章文字を浮かばせることにより、その紋章文字が持つ意味を効果として加えることが可能。
真紅の旋風-Crimson Gale-
月の欠片"CrescentMoon"に込められた月光の女神の力。あらゆる物理的障壁を越え、疾風のごとき速さで目的の場所まで移動する能力がある。

 以上、第3話でした。いや、結構強烈な展開だったんじゃないかな…と。
 この過去話は、この物語を考え始めた時点から用意してあった話です。本来は第4話として用意してあったのですが、構成の関係上、第3話に前倒しとなりました。
 何か、毎回長くなっていってる気がするのは気のせいでしょうか?(苦笑)第3話、めちゃめちゃ長いよ…。2話分くらいあるよ…汗。
 感想お待ちしております。コメント欄にいただけると喜びます。もしかしたら、ご意見・ご感想が物語に影響するかもしれません。実際、凛華に熱烈ラブコールをいただいたので、出番も増えて、今後の展開も当初の予定から変更した部分もあったり…笑。よろしくお願いします!
※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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■2007年01月16日

▼Silent Moonのないしょ話

某SNS内に、SilentMoonのコミュができました。

読んでくださってる皆さんの後押しで作ってみたんですが、
ここでは非公開の設定やエピソード、ボツシナリオ等を、
戸神のコメントを交えながら公開したりしてます。
また、SilentMoonに関する速報や今後の予定、
読んでくださっている方からの感想、リクエスト等のトピもあり。
さらに、よくご質問をいただく各キャラのモデルについても書いてます。

コミュ名はそのまま「SilentMoon」なので、気が向いたら探してみてくださいませ。

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■2006年11月28日

▼Silent Moon-六つの月- 第3~4話(中編)

お待たせしました!

もう、まるまる2話分位の文章をボツにしたんじゃないだろうか?
プロットもパズルの様に何度も組み換えて、
最後にはブロック化した文章を組み立てる台割まで作ったという…汗。
久々に生みの苦しみを味わった一遍。

その分、新しい設定を思い付いたりしたので、
それなりに収穫はあったかな?

そんなわけで、第3話構築の副産物で、
7話迄の間に番外編を1本作ろうかとも考えている今日この頃。

とりあえず、第3話中編をお楽しみくださいませ。


※前編は、こちらです。

 それは、凪姫がまだSilentMoonのメイドでなかった頃の物語。その女(ひと)は気高く、勇ましく、優しさに満ちあふれていた。そして、誰かの涙を全身で受け止められる、そんな強さを持った女(ひと)…。

*

「今日こそは、必ず…!」

 凛華は焦っていた。昨夜取り逃がした「闇に憑かれし者」。それによる犠牲者が、今日も出たのだ。
 月の欠片の使い手となってまだ日が浅い彼女は、粉雪との連携が十分に取れないでいた。粉雪の方も同じく…。二人ともそれぞれの力は十分にあったが、互いの力を合わせなければ、二人が持つ月の欠片の本来の力を発揮する事は出来ない。考えるよりも先に体が動く凛華、小さな体ゆえ最良の策を選択して動こうとする粉雪。相反する二人の性格が、それをさらに困難にしていた。

「凛華は右、粉雪は左から!バックアップは任せてっ!」

 五月(メイ)の指示が飛ぶ。二人にとって、それは心強い言葉であった。同時に二人をバックアップし、時には自らも攻めに転じる。月の欠片の力を最も理解しているからこそ成せる業である。
 闇に憑かれし者の攻撃を正確に弾き返す五月。その隙をついて技を放つ凛華と粉雪。次第に目標を追いつめてゆく。しかし、一進一退の攻防に痺れを切らした凛華が、目標が一瞬ひるんだ瞬間、光の刃を放つ。それが目標を切り裂こうとした直前、五月の『紋章の防壁-Emblem Shade-』がそれを弾く。その結果、目標を取り逃がす事となってしまった。

「五月さん、なぜ…!今のタイミングなら、仕留める事が出来たのに!」

 そう詰め寄る凛華に、静かに返す五月。

「凛華…。闇に憑かれているとは言え、相手は私たちと同じ人間なのよ。救える命なら、救う。無闇にその力を使うものではないわ。」
「でも…、アイツは既に何人も手に掛けている。ここで止めなきゃ、また新たな犠牲者が…!!」
「だからといって、命を奪って良いという理由にはならない。命の重さに、優先順位なんてないのよ。」
「闇に心を喰われたのは、自業自得!そんなヤツのために、他の命が犠牲になるなんて…!」

 凛華がそう言い掛けた瞬間、凛華の頬を五月の平手が打った。

「そんな考えでいるのなら、今すぐ降りなさい!月の欠片の力は、光にも闇にもなる。命の重さがわからなければ、いずれ心は闇に飲まれるわ!」

 返す言葉のない凛華は、その場を立ち去る。

「凛華…、本気で言ったんじゃないと思うんです…。私が上手く連携できなくて、痺れを切らしたから…。」
「凛華のもどかしさもわかるわ。でもね、だからといって口にして良い言葉ではないのよ。
 それと、粉雪…。自分だけが上手く立ち回ろうとしても、二人の連携は上手くいかないわよ。あなたはいつも、先行する凛華に合わせようと動いてるみたいだけど、必ずしもそれが良い結果を生み出すとは限らない。
 あなたの『Waxing Moon』と凛華の『Waning moon』は、二つで一つの大きな力を生み出す存在。六つの欠片の中で、唯一、闇を封印する技を放てるのよ。その二つの欠片が司るのは『信頼』…。お互いを信じる事で、真の力を生み出す事が出来る…。それを、忘れないで。」

*

 閉店後の店に戻った五月に、茉莉が問いかける。

「どう?あの二人。」
「まだまだ、だわ…。月の力に慣れていない以前に、二人の連携が取れていない。それぞれは素質があると思うんだけど…。」
「そう…。
 文は最初の頃にあんな事があって色々悟ったみたいだけど、あの二人は滑り出しが良かった分、それがネックになって力に振り回されてるのかも、ね。」
「特に凛華は、持ち前の正義感がかえって徒になってる感じ…。」
「…そうね。でも、二人がいなければ闇を封じる事が出来ない…。辛い所ね。」

 壁に掛けられた『眠りのレリーフ』を見上げながら、五月が漏らす。

「私と茉莉、錦子の誰かが、あの二つの欠片の使い手であったら、他の誰かを巻き込まなくて済んだかもしれないのに…。」
「それは言わない約束でしょ。」

 そう。この店を立ち上げたのは、五月、茉莉、錦子の3人であった。同郷の同級生だった五月と茉莉、1年後輩の錦子。目的は、月の欠片の加護を受ける者を探すため。
 月の欠片は、誰かのために何かをしようと思う心に、その力を解放する。そんな心の持ち主を捜すために、ブームの後押しもあって、現店長の協力の下、メイド喫茶を立ち上げる事を選んだのだ。
 そして、店のトレードマークでもある紋章文字に惹かれた者が集まり、何とか六つの欠片の使い手は揃った。しかし、まだ不慣れなため、闇の結晶は一つも封印できないでいた。

「今の所、闇に憑かれた犠牲者の多くは、心を喰い尽くされる前に結晶を追い出して助ける事が出来ているわ。不幸にも、闇の力に耐えきれずに『人ではないもの』に変貌してしまった人もいるけど…。
 でももし、闇の力に適応できる人間が心を喰い尽くされてしまったら、闇の意志が解放され、『漆黒の天使』となってしまう。そうなったら、今の私たちに止める術はない…。」
「そうなる前に、三つの結晶を封印しないと、ね。」
「えぇ。そのためには、あの二人の力が必要…。わかっては、いるんだけど…。」
「五月…あなたの気持ちはわかるけど、一人で背負い込む事はないのよ。」

 全ての始まりは自分にある。そんな風に自分を追い込む五月に、茉莉はそう言葉を掛けた。

*

 翌日、凛華はまだ、昨日の出来事を引きずっていた。そのためか、開店準備中からミスを連発してしまう。そんな凛華を粉雪が諭すが、素直になれない凛華はそれに反発してしまい、その事が開店後にもミスを誘発、徐々に他の者の給仕にも影響を及ぼし始める。
 店内の混乱がピークになり始めた頃、五月が出勤してくる。瞬時に状況を把握した彼女は、テキパキと滞っている部分を処理、他のメイドに適切な指示を出してゆく。まるで後ろにも目が付いているかの様なその仕事さばきは、神憑り的でもあった。その後、程なくして店内は落ち着きを取り戻す。
 その一部始終を目の当たりにした凛華と粉雪は、互いに顔を見合わせ、自分たちにそれぞれ足りないものを再認識する。

「悔しいけど、足下にも及ばねーな。俺たち…。」

 そして時刻が夕方にさしかかった頃、一人の女性客が訪れる。一月ほど前から週に一、二度見かける様になったその客は、学校帰りなのか制服姿で訪れ、いつも決まった席につく。
 五月は知っていた。その場所がメイド達の給仕の様子が一番見渡せるため、少女が好んで座っている事を。

「高校を出たらメイド喫茶で働きたいって言ってたからね。彼女の指定席って所かしら。」

 そう言いながら、少女の元へお冷やを運ぶ五月。そうなんだ…と思いながら、粉雪は改めてその洞察力に感服する。
 その少女は、他の多くの女性客同様、五月がお気に入りであった。また五月も、その少女の事を少なからず気に掛けている様だった。

「五月さんの妹に、どことなく似ているからかな…。」

 錦子が意味深げに呟く。「何だ、それ?意味深だな。」と食いつく凛華をはぐらかす様に、仕事に戻る錦子。

*

「今日でポイントカード満了なんですよ。」

 会計時、嬉しそうに話す少女に五月が返す。

「ふふ。約束通り、ちゃーんと用意してありますわ。お嬢様。」

 いくつかある特典の中から少女が選んだのは、携帯電話のストラップ。お気に入りのメイドに手書きのメッセージを入れてもらえるサービス付きのもの。メッセージの主は、もちろん五月だった。

「辛い時があっても、これ見て頑張ります!」

 早速ストラップを携帯に取り付け、少し上機嫌に店を出る少女。その様子を見守る様な視線で見つめる五月に、粉雪が話しかける。

「あんなに喜んでもらえると、メイド冥利に尽きますね。」
「そうね…。
 彼女…最初にここに来た日、今の生活に自分の居場所がないって嘆いてたし、何度か思い詰めた様な表情の時があったから…。あんな小さな事でも笑顔のきっかけになったのなら、私も嬉しいわ。」
「そうだったんですか…。私も何回か見かけてるけど、全然気付かなかったな…。」
「彼女の様なタイプは、なかなか他人に心を開かないからね。私の妹がそうだったから、何となくわかるのよ。」

 「さっき、錦子が言ってた事だわ」と思いつつも、五月の表情に少しかげりを見た粉雪は、それ以上話を続けるのを控えた。

*

「錦子。ちょっと帰りにメシ食っていこうか?」

 勤務終了後、凛華が半ば強引に錦子を誘う。「さっきの話ね」と察した錦子は断ろうとするが、お構いなしにファミレスへ連れて行かれてしまう。粉雪も後に続く。

「で、さっきの話の続きだけど…。」
「えーと、何の話だっけ?」
「と・ぼ・け・ん・な!五月さんの妹に似てる…とか言う話だよ。」
「あ…あぁ。似てる…うん、似てるわよ。それだけ!」
「似てる、だけで、あんな言い方しねーだろ。何かあるんだろ?」

 少し困った表情をしつつも、仕方ないと諦める錦子。

「あまり私の口から話すのもどうかと思ったんだけど、いずれは知る事になるだろうから…。」

 そう前置きし、話し始める。

「五月さんには、少し歳の離れた妹がいたの。私も地元にいた時は、何度か会った事があるわ。典型的お姉ちゃん子って感じで、目が離せない存在だった。だから、五月さんが大学進学で上京する時は、それはもう大変だったのよ。
 でね。五月さんも心配だったのか、毎日の様にメールや電話でやりとりしてたわ。1年後、私がこっちに出てきた時も変わらず続いてて、ちょっとびっくりした。と同時に、良い姉妹だな…って羨ましくもなったけど。
 そんなある日、妹さんから1通のメールが届いたの。内容は穏やかじゃなかった。ただ一文、『お姉ちゃん助けて。私の中に何かいる!』と。五月さんはすぐに返信したんだけど、返事はなかった。それから数時間後、五月さんの携帯に家から連絡が入ったのよ。妹さんが、学校の屋上から身を投げた…と。即死だったらしいわ。
 遺書らしいものは何もなかったんだけど、状況が事故ではなく自ら身を投げた事を物語っていたため、結局、自殺って事で片づけられてしまった。でも、五月さんは信じなかった。なぜなら、その数日前に妹さんと電話で話して、夏休みにディズニーランドへ連れて行く約束をしていたから。絶対に自殺なんかじゃない。五月さんはそう確信していたの。
 最後のメールに、きっと真実がある。五月さんは、妹さんの遺品に何かヒントがないか探したの。そしてあるものを見つけた。家族によれば、妹さんが学校行事で旅行した際に、姉への土産としてアンティークショップで見つけてきたという品…。そう、お店のバックルームにある、あの『眠りのレリーフ』を。」

 凛華と粉雪の表情が変わる。そして、全てを理解する。

「それから五月さんは、大学の知人・友人にも協力を頼んで『眠りのレリーフ』について調べた。その結果、月と闇の物語に辿り着いたのよ。
 妹さんがあれを手にした時は、結晶が一つ、収められていたらしいわ。でも、五月さんが見つけた時には、結晶も六つの欠片さえも収められてはいなかった。おそらく何も知らなかった妹さんは、結晶をレリーフから外してしまったのね。そして、闇に憑かれた。最後のメールは、多分そう言う意味だったんでしょうね。
 五月さんが言っていたわ。妹さんは、自分に語りかける見えない闇の恐怖に耐えきれずに、心を喰われる前に身を投げたんだろうって。
 その後、五月さんは大学を辞め、闇を封じる決心をしたの。自分への土産が原因で命を落としてしまった妹のために…、自分や妹の様に悲しい思いをする人を増やさないために…。それを知った私と茉莉さんは、協力する事にした。そして、『眠りのレリーフ』に収まっていなかった月の欠片を、色んな人の協力を経て、やっとの事で六つ揃えた。
 これが、メイド喫茶『Silent Moon』のはじまりよ。」

 全ての始まりが五月にあった事を知り、言葉が出ない二人。しばらくの沈黙の後、凛華が静かに口を開く。

「…なんで…そんだけのものを背負ってて、なんで…あんな風でいられるんだ。」

 粉雪は、あふれてくる涙をこらえるだけで精一杯だった。そんな過去を背負っている事を、微塵も感じさせなかった五月。その五月という人間の大きさを知り、二人は決意を新たにする。

「そういう人だから、私も茉莉さんも共に闘おうって思ったのよ。復讐ではなく、誰かを救うためになるのならって…。」

 その時、月が六つに分かれる!

「闇が現れた…!」
「昨日のヤツなら、今夜こそケリをつけてやる!」

 3人はファミレスを飛び出してゆく。

*

 既に交戦状態の茉莉と文。どうやら茉莉は、右足を負傷している様子だ。そこに、錦子、凛華、粉雪の3人が合流する。

「茉莉さんは下がってバックアップを!文と粉雪は右、私と凛華は左から追い込むわよ!」

 相手はやはり、二晩連続で取り逃がした「闇に憑かれし者」だ。しかし、昨日までのそれとは様子が違っていた。

「動きが昨日までとは違いすぎる…。一体どういう…。」

 翻弄される4人。負傷した茉莉をかばいながら闘っていた文は、既に充分な力を発揮できる状態ではなかった。そして、『真紅の旋風-Crimson Gale-』を使って相手の後ろを取ろうとした錦子は、逆に攻撃を喰らってしまう。すんでの所で直撃を免れたものの、傷を負ってしまった。

「五月さんは、まだ仕事中だったはず。駆けつけるには時間がかかる。このままじゃ…みんなやられてしまう…!」

 自分が何とかするしかない。そう考えた凛華は、単身、敵前に飛び出してゆく。しかし、放った光の刃はことごとく弾かれ、結果、孤立してしまう凛華。そんな彼女を、「闇に憑かれし者」が放った炎が輪を描く様に取り囲む。
 今、彼女らが闘っている相手。それは「炎の闇結晶」であった。三つの闇の中で、最も強い力を持つもの。それ故、過去の攻防に於いても、何度も苦戦を強いられた相手であった。

「業火に焼き尽くされるがいい!フハハハハハハハ!」

 勝ち誇った様に笑う「闇に憑かれし者」。そこには既に元の人間の意志はなく、「闇」そのものの意志がそれを支配していた。そう。他の二つの結晶とは違い、「炎の闇結晶」には明らかな闇の意思が現れつつあったのだ。それが最も強い力を発揮する所以でもあった。
 絶体絶命の状況に死を覚悟する凛華。その時、聞き慣れた声の檄が飛ぶ。

「諦めるな!最後の最後まで、希望を捨てるんじゃないっ!」

 次の瞬間、凛華が立っている地面に紋章文字が現れ、凛華と彼女を囲む炎の間に、まるで壁の様な光の柱が出現する。それは、五月が放った『紋章の防壁-Emblem Shade-』による一種のバリアだった。そのバリアは、瞬時に炎を霧散させる。
 駆けつけた五月に、「闇に憑かれし者」が放った炎が襲いかかる。それを『紋章の防壁-Emblem Shade-』で吸収し、逆に相手に対して放つ五月。
 一方、これまでとは違う激闘を目の当たりにし、粉雪は萎縮していた。小さな力しか出せない自分に、出る幕はない。そんな風に思い始めた粉雪に、五月の言葉が蘇る。

『お互いを信じる事で、真の力を生み出す事が出来る…。』

 一瞬でも逃げ腰になった自分を恥じ、その言葉を糧に走り出す粉雪。

「小さな身体ゆえ小さな力しか出せないのなら、それを武器に変えればいい!」

 凛華と同様、単身、敵前に飛び出す。それを目の当たりにした凛華が叫ぶ。

「バカヤロウ!俺の二の舞に…!」

 そう言いかけて、言葉を止める凛華。粉雪はまるで木の葉が舞う様に、「闇に憑かれし者」が放つ炎の弾の間をすり抜けてゆく。そして、粉雪の背中から自分に向けて発せられたメッセージを読みとる。

「そういう事か!」

 翼を開き、大地を蹴る凛華。そして遙か高くまで上昇し、「闇に憑かれし者」の直上へ回り込む。そこから見下ろした光景。それは、粉雪の動きに翻弄され、炎の弾による攻撃を一方向に集中させている「闇に憑かれし者」の姿だった。

「エンジェル・ハイロゥっ!!」

 凛華が真下に向けて放った光のリングは、目標を捉え、真っ直ぐに向かってゆく。それに気付き、粉雪から視線を外す「闇に憑かれし者」。『天使の光輪-Angel Halo-』を弾き飛ばすために炎の弾を乱射する。その瞬間を、粉雪は見逃さなかった。

「スパイラル・アローーーーーーっ!」

 目標の至近距離から『螺旋の遠矢-Spiral Arrow-』を放つ粉雪。
 一方、炎の乱射に凛華の光のリングは弾き飛ばされる。しかし、それはフェイクだった。凛華は、粉雪が技を放つと同時に、2本目のリングを放っていたのだ。そのリングは、ついに目標の身体を捉える。
 絶叫と共に、身動きが出来なくなる「闇に憑かれし者」。光のリングが形成するフィールドに捉えられたそれを、光の矢に乗った天使の羽が射抜き、結晶を体外へ押し出す。

「封印っ!」

 粉雪と凛華の二人が同時に唱えると、リングの光は結晶に打ち込まれた天使の羽に向かって収束してゆく。しかし次の瞬間、結晶自体が炎を放ち、渦巻く炎が天使の羽を焼き尽くす。そして、「炎の闇結晶」はそのまま消え去った。あと一歩の所まで追いつめながら…。

*

※後編につづく。



 第3話アバンタイトル公開から、お待たせすること7ヶ月。やっと公開に漕ぎ着けました。首を長くしてお待ちいただいたごく少数の読者の皆様、すいませんっっ!!!汗
 冒頭にも書いた通り、何度もボツにして、やっと出来上がったお話です。その間、夏コミで設定画集を少部数出したり、○○○○○○を作ったりと、色々細かい事をしていたのですが…。結局、上手く話が収まらなくて色々悩んだ結果、第7話までのプロットを全部起こしてからシナリオ化するという方法を採りました。なので、3~7話はある意味1本の話と言えるかも。
 特に今回、謎めいた台詞や演出を一部挿入してます。前回のアバンや今回の一部会話の中に「文」に関する件が何度か出てきますが、これは第4話で明らかになるエピソードの前振りです。また、お嬢様として登場した「少女」も名前はありますが、後編でのサプライズとしてあえて今回は名前を出していません。(文字だけで描くシナリオだからこその演出。絵が付いてると、すぐわかっちゃいますからね。)
 現在、3話後半のシナリオを書きつつ、8話以降のプロットを構築中です。あとは、自分用のメモを兼ねての設定書も作成中、まとまったら公開の予定です。(Webになるか、紙媒体になるかは検討中です。)
 では、後半も首を長くしてお待ちくださいませ♪爆


※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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投稿者 : 23:59 | コメント (2)

■2006年09月28日

▼凪姫、再び…

お待たせしました!
師匠に触発されて、いよいよ再開です!

そもそも、文字企画だからと、
PCの前でネタ練ってたのがいけなかったね。
昔ながらの手法、いつでも何処でもメモ帳片手、
に立ち返ってみたら、アイデアがドンドン…。

とりあえず、5話後編までのプロット完成。
しかも、5話(最初の予定では3話)は、
かなりいい具合に元とは全く違う話に仕上がった。

そんな訳で、3話中編が間もなくお目見えです。
予告通り、この辺りからヘヴィーな話になりますよ。

3話:凜華、粉雪、優妃、五月
4話:文、凪姫
5話:ノン、優妃
6話:凪姫
7話:凪姫、凜華、粉雪

が、メインでほぼ確定。

あ、そうそう。
夏コミ新刊を購入くださった方は、
7話公開まで読むのを待ってくださいませ。
(ホントにネタバレになりますので…汗。)

では、あともう少しお待ちを…!

投稿者 : 20:47 | コメント (0)

■2006年04月29日

▼Silent Moon-六つの月- 第3~4話(前編)

おまたせ…というか、話を作っていく内に、大幅変更になりました。
予告とは全く違う展開になってしまった第3話。
アバンだけ、先行公開です…(汗)。

■第3~4話予告■
 それは、記憶の物語---。
 その女(ひと)は気高く、勇ましく、優しさに満ちあふれていた。そして、誰かの涙を全身で受け止められる、そんな強さを持った女(ひと)。彼女だから、彼女がいたから集まった仲間たち…。
 次回、SilentMoon~六つの月~ 第三~四夜「漆黒の悪夢(前後編)」。継がれし想い、涙を力に変えて---。



「凪姫は粉雪のバックアップで、右から攻めろ!」

 夜の静寂を破り、凛華の指示が飛ぶ。
 今夜もまた、『闇』に心を喰われた者が暗躍する。そして、それを封じるため、月の欠片の加護を受けた者達が光を放つ。

「ムーンライト・ダークネスっ!」

 凛華をバックアップする文が、『闇』の攻撃をはじき飛ばす。『月光の陰影-Moonlight Darkness-』は、空間を歪曲させ、それに飲み込まれたものを全て破壊する力。その力を攻撃に使うと言う事は、『闇』に心を喰われた者の死を意味する。それ故、文はその力を防御のために使う事が多かった。その援護を受け、凛華は粉雪との連携技『天使の光輪-Angel Halo-』を放つ機会をうかがう。
 一方、粉雪も凪姫の援護を受け、『螺旋の遠矢-Spiral Arrow-』を放つ機会をうかがっていた。凛華と粉雪、彼女らが使う力は2つで一つの技を成す連携の力。それを放つまでに出来てしまう隙をカバーするため、バックアップは重要な役目となる。
 『闇』の攻撃が激しさを増し、粉雪を襲う。それを『紋章の防壁-Emblem Shade-』で防御する凪姫。しかし、未だ力を充分に制御できない彼女は、いくつかの攻撃を防ぎ切れずに討ち漏らしてしまう。その一つが、粉雪の足下を崩した。

「きゃっ!」

 体勢を崩す粉雪。危険と判断した凛華が、咄嗟に『天使の光輪-Angel Halo-』を放つ。しかし、まだ充分でない状態で放たれたそれは、容易に『闇』に弾かれ、その逃走を許してしまう。あと一歩の所まで追いつめながら…。

「ごめんなさい、粉雪さんっ!」
「大丈夫よ、これくらい。凪姫ちゃんの方こそ、怪我はない?」
「はい。わたしは大丈夫…。」

 凛華が足早に近づき、その会話に割って入る。

「凪姫!全て討ち漏らすなとは言わない。でもな、最低限、粉雪には当たんねー様に弾け。それがバックアップの役目だ。」

 そう言い放つと、戦闘状態を解除してその場を立ち去る。後を追う粉雪。

「凛華…、もう少し優しい言い方、できない?」
「アイツ、まだ迷いがあるんだよ。だから、一人だけ翼が現れてないんだ。あれじゃ、いつかは自分の命を落としかねない!」
「それはそうだけど…。」

 月の加護を受けるものは、その力の発現のひとつとして、背中に翼が出現する。しかし、凪姫はまだその現象が現れていなかった。それは、彼女には月の欠片の内なる声が充分に聞こえていないと言う事を物語っていた。

「凪姫ちゃん、まだ力を使う事に戸惑ってるのよ…。」
「闇結晶に憑かれてるとはいえ、相手は人間。躊躇いはあって当然だが…。護るので精一杯の今の状態じゃ、いずれあの時のような…。」

 言葉を止める凛華。そして、過去の自分たちの記憶に凪姫の姿を重ね、月を見上げる。

「あんな思い…、俺たちだけで充分だ…。」

 そんな凛華の言葉に、頷く粉雪。その思いは、粉雪も同じであった。

「アイツは、アノ人が選んだんだ。もっと延びるはずなんだよ…。」

*

 一方、SilentMoonに戻った文と凪姫。

「文さんは、なぜいつも防御に回るんですか?それだけの力があれば…。」
「それは、凪姫が一番わかってるんじゃないの?」

 凪姫の問いかけに、言葉を返す文。そして、諭すように続ける。

「私たちは、たまたま月の欠片に適応できただけ。それを除けば、ウチの店に来る同じ年頃のお嬢様たちと変わらないわ。特別な訓練を受けた兵士や戦士、ましてや人殺しなんかじゃない。その私たちが、ある日突然、人を殺めることすらできる力を与えられてしまった…。その力の使い方に、躊躇うのは当然だと思うわ。
 でもね。だからと言って、その力を使わなければ、悲しい出来事が繰り返される。どこかで誰かが、泣くことになるのよ。私に与えられた力を使う事でその涙を止めることができるなら、私は躊躇わず力を使う。誰も泣かなくて済む様に…。
 そう考えれば、力の使い方は一つじゃないことに気づくはずよ。」

 文もまた、自分の過去に凪姫の姿を重ねていた。

「凪姫。あなたの迷いが消えないなら、降りてもいいのよ。そんな気持ちのままじゃ、月の欠片の力は充分に発揮できないわ。戦うことは強制じゃない。あなたが降りても、誰もあなたを責めないわよ。」

 そう言い残してバックルームを出る文。入れ替わりに、飲み物を持った優妃(ゆうひ)が入ってくる。

「あ、文さん帰っちゃうんですか?せっかく、優妃特製ドリンク作ったのに…。
 凪姫さんは飲んでってくださいね。」

 優妃は、SilentMoonのメイドの中で唯一、月の欠片に適応しないメイドだ。その分、みんなを気遣い、普段の店の運営に貢献している、縁の下の力持ち的存在だった。
 そう。優妃以外のメイドは、みんな月の欠片に適応できる素質を持っているメイド。誰が月の加護を受けて力を使うのか…、それは月の欠片によって選ばれる。すなわち、凪姫以外の誰かが凪姫の使う月の欠片『Harvest Moon』に選ばれれば、そのメイドもまた、凪姫と同じ力を使うことができるのだ。先刻、文が言ったことはそういう事だった。

「お疲れさま…。」

 いつの間に入ってきたのか、考え込む凪姫の肩に優しく手を添える茉莉(まり)。凪姫は茉莉に問いかける。

「茉莉さんは、開店当初からお店で働いてたんですよね?私が使ってる欠片『Harvest Moon』って、前に誰かが使ってたんですか?」

 少し間を置き、壁にかけられた『眠りのレリーフ』を見上げる茉莉。そこには既に、闇の結晶の一つ『炎の闇結晶』が封印されていた。凪姫がSilent Moonに来る以前に封印されたそれを見つめながら、茉莉が答える。

「凪姫ちゃん。あなたが今、戸惑いながら月の欠片の力を使ってるっていうのは、一緒に戦っていない私が見てもよくわかるわ。みんなが通ってくる道だから、ね…。
 でも、前に『Harvest Moon』を使っていたメイドがいたとして、その人の話を聞いて、あなたの迷いは消えるのかしら。あなたが聞くべきなのは、過去の使い手の話じゃなくて、今の月の欠片の声だと思うけど…。」
「月の欠片の声…?」
「そうよ。月の欠片の加護を受けるものは、本当の使い手となった時、その内なる声を聞くことができる…。」
「茉莉さん…もしかして、前の使い手って…。」
「残念ながら違うわよ。私が使っていたのは、ノンちゃんが使ってる『Gibbous moon』よ。」

 意外な事実に、驚きを隠せない凪姫。なぜ、茉莉が使っていた月の欠片を、今はノンが使っているのか…。

「使い手は月の欠片が選ぶ…。あなたと同期のノンちゃんが入ってきた時、私より彼女の方が、『Gibbous moon』の力をより効果的に発揮できたからよ。」
「それじゃ、私の『Harvest Moon』は…。」
「聞かない方がいいことも…ある。それでも、あなたは聞きたい?」
「はい…!私…同じ欠片を使っていた人がいるなら、その人がどういう力の使い方をしていたのか知りたいんです。さっき文さんが言っていたコト、それを見つけるきっかけになるなら…。茉莉さん、お願いします!」

 凪姫の言葉を受け、静かに話し始める茉莉。
 それは、凪姫がまだSilentMoonのメイドでなかった頃の物語。その女(ひと)は気高く、勇ましく、優しさに満ちあふれていた。そして、誰かの涙を全身で受け止められる、そんな強さを持った女(ひと)…。


SilentMoon~六つの月~ 第三~四夜「漆黒の悪夢(前後編)」


※中編につづく。



 1ヶ月以上間があいてしまったので、アバンタイトルだけ先行公開です。
 どう整理しても、入れたいエピソードが山盛りで、まとまり切りません…(汗)。前話のトークで「スピーディーに公開できるのでは」とか書きましたが、とんでもねぇ!話をまとめるのって、大変です。
 8話以降のエピソードに絡んで、3~7話のエピソードも大幅変更する事にしました。一部のエピソードは、それ自体がオクラ入りになるものも出てしまってますが、機会があったら番外編で公開したいかな、と考えてます。
 そんなわけで、第3話は3回に分けて公開の予定。予告で3話としていたエピソードは5話に、5話として用意していたエピソードはその一部を新たに起こした4話に組み込んで、大幅変更で公開する予定です。

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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投稿者 戸神由留 : 14:52 | コメント (0)

■2006年03月25日

▼第3話、大幅変更

というわけで、第3話は大幅変更する事にした。
でも、もう軸は書き上がってるので、文章の肉付けだけ。
ここを書き上げれば、後はやっと本編突入。
(3話までは、一話完結単発エピソード。でも、伏線多数(笑)。)

4話、5話は一話完結だけど、本筋のお話し。
そして、6話~は連続エピソード突入、7話で第1部・完となる予定。

こうやってみると、当初の予定からは、展開がかなり変更になってるなぁ…。
8~13話(最終話)は、まだ変更があるかも?
(特に、8話、9話の展開に悩み中。第2部の開始エピソードだし。)

今後のサブタイトルは、こんな感じの予定。

第4話「漆黒の悪夢」
第5話「叫びは雨に消えて」
第6話「哀しきマリオネット」
第7話「命の楯となって…」

閑話休題。
読んでくださってる方々から、お気に入りのキャラを聞かせていただく事があるのだが、
よく出る名前が、凪姫、粉雪、ノン、弥桜。
逆に、全然名前が出ないのが、凛華、文。
そう言や、登場場面、少ないもんな。(まだ、2話だし。)
しかし、粉雪も全然出てないのに、人気があるのは何故?
とゆーか、弥桜ってサブキャラだしっ!(苦笑)
それだけ、第1話のイメージが強烈だったってこと?

まだ出てないキャラもいるし、今後の人気の変化が気になる所。
コメント欄で、お気に入りキャラを教えてもらえると嬉しいかも。
リクエスト次第で、登場場面が増えたりして…(笑)。

投稿者 戸神由留 : 14:49 | コメント (0)

■2006年03月21日

▼Silent Moon-六つの月- 第2話(後編)

お待たせの第2話後編。
今回は、早めに公開できたつもり。 では、どうぞ!

※前編は、こちらです。

*

 ライブ会場で待ち合わせる弥桜と相紅。そこに、錦子と凪姫が現れる。二人がmoemiのファンになったと思い喜ぶ弥桜だったが、相紅は何かを察して錦子に問う。

「もしかして、彼女は…。」
「確証はないわ。でも、彼女のファン同士の会話…『アキバのイベントは盛り上がらない』ってのがひっかかってね。確かめに来たのよ。」
「あ…。月の女神の結界…。」
「そう。だからこれ付けておいて。」

 それは、凪姫の護りの力を、ノンがイヤリング状に変形させたものだった。これにより、月の加護を得ていなくても、僅かなら闇の力を弾くことができるのである。
 そして、錦子にはもう一つ、引っかかる点があった。弥桜から借りたCD。ここに収められた曲からは、確かに禍々しい力が感じられたのだが、それと相反する様な心地よさも感じられたのだ。その不自然さを突き止めるため、錦子はノンにCDの解析を依頼していた。

「それが何かわかれば、確証が持てるんだけどね…。」

*

 ライブの幕が上がる。錦子と凪姫は、店長が用意したチケットで入場する。
 ライブは1曲目から過剰な盛り上がりを見せ、観客はmoemiの歌に陶酔してゆく。アキバでのイベントでは見られなかった状況…。それは、歌っているmoemiも同様だった。
 次第に一体感が高まるライブ会場。その時錦子は、観客からmoemiに流れるエネルギーの波に気づく。まるで、moemiが観客のエナジーを吸収している様な流れ…。そして、moemiの歌にはそれを引き出すかの如く、禍々しい「何か」が込められていた。

「闇の力…!」

 錦子がそう気づいたのと時をほぼ同じくして、moemiも月の力を観客席から感じ取っていた。それは、錦子が予め渡していたイヤリングからのものだった。

「私の歌を邪魔する者が潜り込んでいるわ。そいつらを捕らえてちょうだい!。」

 その声に従う様に、一斉に錦子達に襲いかかる観客。更に闇の波動を強め、歌うmoemi。

「人を傀儡の様に操る力…これは『風の闇結晶』!」

 歌に操られているだけの観客に対し、月の力で攻撃するわけにはいかない。とりあえず、その身に月の力を纏って抵抗する錦子と凪姫であったが、多勢に無勢。しかも、相紅と弥桜を守りながらでは充分に動く事もできず、ついに4人は観客に押さえつけられてしまう。

「インフィニティ・ドレスっ!!!」

 絶体絶命と思われたその瞬間、ノンの声が響く。駆けつけたノンの技により、一瞬、moemiの歌による観客への呪縛が解かれる。『無限の装飾-Infinity Dress-』は力そのものの性質を変える力…。観客を操るmoemiの歌を無効化したのだ。その僅かな隙をついて、脱出する錦子達。
 しかし、更に歌い続けるmoemi。歌に込められた闇の力を『無限の装飾-Infinity Dress-』で無効化できるのは、一瞬の間のみ。状況が好転したわけではない。moemiの歌を抑えるため、ノンは相紅に向かって叫ぶ。

「相紅ちゃん、歌って!あなたの声で観客の呪縛を解くわ!」

 ノンは、相紅の歌の力に賭けた。あの力強い歌声を『無限の装飾-Infinity Dress-』で変換すれば、きっと闇の力を打ち破れるはずだと!
 そして、相紅の歌声が会場に響き渡る。ぶつかり合う二人の歌声。moemiへの想いを込めて歌う相紅の歌声が、次第に闇の力に支配されたmoemiの歌声を圧し、ついには観客の呪縛を解く。その場に倒れ込む観客達。
 その歌声は、moemiの心にも届いていた。立ちつくし、一筋の涙を零すmoemi。だが、それもつかの間、何かに導かれる様にライブ会場から走り去る。

「お願い、錦子…。彼女の呪縛を解いて…彼女を助けてあげて…!」

 全てを察し、錦子に告げる相紅。錦子が感じていた不自然さ。同じ道を歩んでいた相紅は、その理由を、彼女が流した涙の意味を理解したのだった。相紅に目で合図し、moemiを追う錦子。凪姫、ノンも、それに続く。

「錦子さん。あのCD、確かに闇の力が込められていました。聴いた者を『moemi』という存在へ縛る力です。
 でもそれは、歌声自体が発する力ではなく、後から込められた力…。歌そのものは、むしろ…。」

 やはり…。ノンから分析結果を聞いて確信する錦子。そして、moemiは自分に任せ、二人には援護に回るように指示する。
 三人が建物の外へ飛び出した瞬間、すさまじい衝撃波が襲う。moemiの声による攻撃に対し、反射的に『紋章の防壁-Emblem Shade-』で防ごうとする凪姫だったが、力負けしてしまう。はじき飛ばされる凪姫。
 錦子は『真紅の旋風-Crimson Gale-』を使い、moemiへの接近を試みる。この技は、身に纏った月齢の力よる戦闘服をさらに組み換え、自らの肉体を戦闘状況に応じた形に強化する技。しかし、身体への負担が大きいため、長時間使用することはできないという諸刃の剣でもある。

「衝撃波の死角に潜り込めれば…!」

 凪姫とノンは力を合わせ、衝撃波に対抗できる『紋章の防壁-Emblem Shade-』を展開して援護するが、錦子は容易に近づく事ができないでいた。その時、相紅が三人を追って建物の外に出てくる。声を武器にして戦うmoemiを目の当たりにし、相紅は叫ぶ。

「moemiっ!あなたは、あの頃の心を忘れてしまったの?!その心が…あなたの歌声の強さがあれば、闇の力にだって打ち勝てるでしょう!!」

 その声に、moemiの攻撃が一瞬途切れる。その瞬間を、錦子は見逃さなかった。大地を蹴り、懐に潜り込んだ錦子の目に、真の敵の姿がはっきりと映る。そう。涙を流しながら戦っていたmoemiの向こう側に潜む、闇の姿が…!

「ゼウス・サンダーボルトォーーーーーーーーーっ!」

 錦子が放った『天空の雷槌-Zeus Thunderbolt-』はmoemiの脇をすり抜け、倒すべき敵へ打ち込まれる。絶叫と共に、潜んでいた真の敵が姿を現す。それは、moemiのマネージャーだった。闇の力を使って観客を操っていたかに見えたmoemi自身も、彼女のマネージャーに操られる傀儡だったのだ。膝から崩れ落ちるmoemiに駆け寄る相紅。
 全てを見破られ、暴走を始めるマネージャー。その姿は既に、『人ではないもの』と化していた。無差別に周囲を攻撃し始め、それはmoemiにも向けられる。

「貴様ハ用済ミダ。マタ新シイ触媒ヲ見ツケ、私ハ更ニ力ヲ手ニ入レル!」

 迫るマネージャーの攻撃に、動けないmoemiを守ろうと覆い被さる相紅。命中するかに思えた刹那、凪姫の『紋章の防壁-Emblem Shade-』がそれを弾く。

「歌を、人の心を喰らう触媒に使うなんて許さない!」

 天空に向かって伸ばした錦子の右腕に、雷のエネルギーが集まり、放電を始める。それに対抗するため、更により強大な闇の力を使おうとするマネージャー。
 しかし、それが命取りとなった。膨れあがった闇の力は、自らの身体で制御できる限界を超え、断末魔の叫びと共にその肉体は崩れ去る。闇に心を呑まれた愚かな人間の末路だった…。そして『風の闇結晶』は、次の愚かな心を求めて消え去った。

「ヤツは、moemiという触媒を通して人の欲望のエネルギーを喰らっていたのよ。」
「moemi自身の歌う事への執着が、闇に利用されたのね…。」
「そうよ。でも、ヤツは一つ、大きな間違いを犯した。それは、その触媒に彼女の歌を選んでしまった事よ。彼女の歌の持つ力は、闇のそれと全く反対の性質を持っていた…。それが、私や相紅に不自然さを感じさせる事になったのよ。」

*

 数日後。入院していたmoemiの退院を出迎える錦子と相紅。

「相紅…なんて言ったらいいか…。助けてくれて、ありがと…。」
「ううん。私は何もできなかったもの。命がけで戦ったのは、錦子達だし…。」
「いいえ…。あの時のあなたの歌声、そしてあなたの叫びが、私の呪縛を解いてくれたのよ。それに、体を張って私を守ってくれたじゃない。」
「身体が勝手に動いてたのよ。」
「あなたは、いつもあんな危険なコトをしてるの?」
「今回はトクベツ。いつもはメイド喫茶で、ご主人様やお嬢様にお給仕してるだけよ。」

 少し、悪戯っぽく笑う相紅。

「moemi。これからどうするの?」
「もう一度、自分の歌を見つめ直してみようと思うの。今の私の歌、音楽から離れてたはずの相紅の歌に、完全に負けてるわ。いつの間にか、歌う目的を見失ってたんだもの…当然よね。だから初心に返って、一からやり直すつもり。」
「そっか…。moemiなら、できるよ。」
「うん…。
 それよりも、相紅はもう歌わないの?あなたの歌なら、プロとしても充分…。」
「ふふ…。歌は…何処にいたって歌えるわ。歌う『場所』は問題じゃないよ。」
「…変わらないなぁ…そういうトコ。絶対敵わないわ。」

 二人に一礼して歩き出すmoemi。その歩みに迷いは見えなかった。

「大丈夫そうね、彼女…。」
「えぇ…。あの『声』があればね…。」
「『声』…?」
「あれ、気づかなかった?
 私ね、一緒に学んでいた頃…あの『声』を聴いて自分の限界を感じたのよ。絶対敵わないって思った…。」
「あ…それがCDから感じられた不自然さ…。」

 moemiの歌声を思い出す様に、瞼を閉じて、相紅は静かに呟く。

「そう…彼女の声は『1/fゆらぎ』を持ってるから…。」

*

 数ヶ月後、小さな会社からリリースされたCDが、静かな話題を呼び始める。

 『その声は届かない… / song by moemi』

SilentMoon~六つの月~ 第二夜「その声は届かない」・-完-


 はい。文字でアクションシーンを表現する事の難しさを痛感した戸神です(汗)。
 第2話、誰が何と言おうと錦子がメインです。シナリオ形式なのでセリフが少ない様に見えますが、活躍して…して…してるはず…(苦笑)。
 当初のプロットでは、錦子がマネージャーにとどめを刺すという流れだったんですが、文章に肉付けする段階で、公開した内容に変更しました。勧善懲悪な話ではないので、極力、人の命を殺めない展開を目指したいなぁ…と。

 さて、今回から本作特有の設定が登場してるので、ちょっと補足を…。
 前編冒頭(アバンタイトル)の文章ですが、その内、物語内で徐々に謎解き明かされていくので、読み流してくださいませ(笑)。ちなみに、伏線はたくさん張ってあります。
 錦子が使う『真紅の旋風-Crimson Gale-』。シナリオ中にもある通り、月の力で形成された戦闘服を、戦況に応じて更に再構成し、自らの肉体を強化する技です。当然ですが、戦闘服のデザインも変わります。その辺りのデザインは、将来、設定集2として公開予定です。
 そしてもう一つの技『天空の雷槌-Zeus Thunderbolt-』。その名の通り、雷系の技です。集積するエネルギーが多ければ多いほど強力な技となりますが、その分、技を発動するのに時間がかかるという代物です。錦子は2種類の技を備えている反面、諸刃の剣でもあるという設定です。
 ノンが使う『無限の装飾-Infinity Dress-』。力の性質を変える力で、その対象は月の力に限らず、全ての存在する力となります。つまり、この技だけでは何も起こす事はできません。何かの力にこの技を加える事により、別の新しい力を生み出す事ができます。2話では、最初にmoemiの歌声による呪縛の力を無効化し、続いて相紅の歌声を呪縛を解く力へ変換してます。さらに、衝撃波に対して効果のなかった凪姫の『紋章の防壁-Emblem Shade-』を、対衝撃波仕様に強化しました。
 凪姫が使う『紋章の防壁-Emblem Shade-』。6人中、唯一の防御の技です。凪姫の精神力に呼応して、その防御力が変化します。まだまだ不慣れな凪姫の力では、充分に使いこなせていないのが現状です。そして、その技の名が示す通り、この技にはまだ明かされていない秘密があります。その辺りは、今後の展開で徐々に…。

 次回第3話以降は、私事が忙しくならない限り、結構スピーディーに公開できるのではないかと思ってます。ま、あまり期待せず、気長にお待ちくだされば幸いです(笑)。というわけで、今回から次回予告なんぞを付けてみる事にしました。(期待感を煽るため?(笑))オマケで2話のものも、公開しておきます。

■第3話予告■
 βテストが始まったばかりの人気オンラインゲームの世界が、現実の世界に出現した。そして、そのプレイヤー達は昏睡状態に陥り、ゲーム世界からログアウトできなくなる。闇の力を感じ取った6人は、結晶の力を使う者を探すため、ゲーム世界への介入を試みる。
 次回、SilentMoon~六つの月~ 第三夜「終わりなき迷宮」。彷徨う心の出口は、ロジックでは開かない---。

■第2話予告■(おまけ)
 懐かしい歌声…。しかしそれは、記憶の中のそれとは違う、不自然な音だった。歌い続ける事に拘った結果、とらわれてしまった心…。その呪縛から解放するため、相紅の歌声が駆け抜ける。
 次回、SilentMoon~六つの月~ 第二夜「その声は届かない」。からっぽの歌声は、誰の心にも届かない---。

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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投稿者 戸神由留 : 13:48 | コメント (0)

■2006年03月17日

▼Silent Moon-六つの月- 第2話(前編)

長らくお待たせしました!
ごく一部の方々だけ待望の第2話、いよいよ公開です。

それでは、どうぞ~。


遙か昔…

この世の支配者になろうとした者達がいた。
その者達は力を得るために闇と契約し、
欲望のままにその力を振るった。

やがて、その愚かな三つの魂は闇に喰われた。
現世に肉体を持った闇は次々に人の心を喰らい、
混沌をもたらすため、刻の扉を開かんとした。

そこに、扉を守護する月の女神が立ちはだかる。
月の女神は、光と影、二つの魂からなる存在。
母なる大地の加護を受けた三つの聖獣を従え、
これを滅するため、立ち向かった。

だが、人の心を喰らった闇は、強大であった。
滅することは敵わぬと知った月影の女神は、
三つの聖獣の魂と引き換えにその力を抑え、
自らの魂を以て、三つの闇を一つに封じた。

こうして、全ては終わったかに見えた。

しかし、邪な人の心が、再び災いを招く。
封じられた闇の力を欲する者達が月影の魂を求め、
争い、奪い合い、その混乱の中、それは砕け散る。
それでもなお人は、三つに砕けた結晶を奪い合った。

繰り返される愚かな行為を嘆いた月光の女神は、
砕けて残った七つの欠片の内、六つに自らの魂を写し、
闇を封じる力として、正しき心を持つ者達に託した。
そして、最後の一つに願いを込め、
その名と共に月へと封印した。

月影の女神の魂が再び一つとなり、
静かな眠りにつける様にと…。

*

「これが、『眠りのレリーフ』に刻まれている文章よ。」
「『眠りのレリーフ』って、バックルームに飾ってあるアレですよね?」

 眠りのレリーフ。
 それは、『闇の結晶』を封じるために、月の欠片を託された者が後に作ったと言われている。中央に『闇の結晶』を収める三つの窪みと、それを取り囲むように『月の欠片』を収める六つの窪みが刻まれ、その上部には『月の女神のメッセージ・プレート』が埋め込まれている。月の欠片と共に託されたとされるそのプレートは、強力な波動を発して闇の力を抑え、アキバ周辺に及ぶほどの結界を形成しているのである。その材質は謎に包まれている上、紋章文字で刻まれたメッセージは未だ解読されていない部分が多い。

「『闇の結晶』は、過去、幾度となくこれに封印されては、邪な心を持った者達にその封印が解かれてきた。その度に、私たちの様な月に選ばれた者が、再び封印するという事を繰り返してきたらしいわ。」
「なんだか…人間って、悲しい存在ですね。」
「こんな悲しい宿命、断ち切ることはできないのかしら…?」


SilentMoon~六つの月~ 第二夜「その声は届かない」


 勤務後、カラオケボックスへ向かう錦子、凪姫、相紅(みるく)。現地で、弥桜、ノンが合流する。
 ボックス内。順に歌う5人。弥桜が、今流行の萌えソングを歌い、その話題となる。

「え?錦子さん、知らないんですか?今、アキバで人気のmoemiちゃんの歌ですよ!」
「あーそうなの?私、アキバ系の歌とか聴かないからなぁ…。」
「えー。楽しい歌、多いのに…。ねぇ、凪姫?」
「私にふらないでよ。私もほとんど聴かないし…。」
「そうなの?貸してあげるから、一度聴いてみてよ。」

 そう言いながら、鞄の中からmoemiのCDを取り出す弥桜。それを見た相紅が反応する。CDを手に取り、ジャケットをしばらく見つめる相紅。

「相紅ちゃん、興味あるの?」
「あ…、弥桜ちゃんが薦める歌ってどんなのかな…って。」

 上機嫌で解説する弥桜。夢中で話す弥桜を後目に、他のメンバーは歌に興じている。
 錦子の歌になった時、みんなが注目する。昔、バンドの真似事をやってたのよ、と話す錦子。さらに、相紅が歌った瞬間、みんなの動きが止まる。

「すごい…相紅ちゃん。プロみたい…!」

 以前、音楽を学んでいた事を話す相紅。でも、結局そっちの道には進めなかったし…と謙遜する。その後、音楽話で盛り上がる錦子と相紅。あっという間に2時間が経過し、お開きとなる。
 帰り道、方向が同じ錦子と相紅は、更に話を続けている。

「さっきの弥桜ちゃんが持ってたCD。多分、昔一緒に学んだ娘だと思うのよ。」
「あぁ、それでジャケットを見つめてたのね。
 あ。弥桜には黙ってた方がいいわよ。絶対、サインもらってー、って来るから。」
「ふふ…。かもね…。
 でも、あんなアイドル的な感じの娘じゃなかったんだけどな。もっと…音楽に真剣に取り組んでるっていうか…。あ、アイドルが真剣じゃないってワケじゃないけど、ね。」
「気になるなら、一度会って来たら?向こうも覚えてるかもしれないし。弥桜が確か、今度アキバでイベントがあるとか言ってたわよ?」
「えぇ。気が向いたら行ってみるわ。」

*

「相紅ちゃん!もしかして、moemiちゃんと知り合い?」

 数日後。出勤するなり、相紅に迫る弥桜。相紅が錦子に視線を送ると、違う違う、と首を振る。

「だって、moemiちゃんと相紅ちゃんの通ってたトコ、同じじゃない?」

 あぁ…という顔で納得する相紅。moemiのプロフィールを見た弥桜が、それに気づいたらしい。そして予想通り、サインをねだられる相紅。結局、押し切られる形で、一緒にイベントに行く事になる。ついでに、錦子まで巻き添えにして…。

「私、アキバ系の歌は興味ないって言ってんのに…。」

 渋々つき合う事にする錦子。そして弥桜は、歌、覚えてきてね、と二人にCDを渡す。お互い顔を見合わせて、苦笑いする錦子と相紅。

*

 自宅で、弥桜から渡されたCDを聴く相紅。ブックレットを眺めながら、昔一緒に学んだmoemiであることを確信する。しかし、数分聴いた所で、聴くのを止めてしまう。

「こんなの、全然彼女らしくない歌だわ…。」

 そう呟きながら、音楽を学んでいた頃の事を思い出す。先日の錦子との話の様に、あの日もmoemiと音楽を語り合っていた。今は音楽から離れてしまっている相紅にとって、それは大切な思い出でもあった。

「何万人もの観衆を沸かせる歌も素敵だけど、私は、たったひとりでもいい…、誰かの心を動かせる様な、誰かの心にずっと残る様な歌を歌いたい…。」

 熱っぽく語っていたmoemiの言葉が蘇る。それを思い返しながら、相紅は思う。

「moemi…どうしちゃったのよ。あの頃のあなたとは、変わっちゃったの…。」

*

 イベントの当日、弥桜との待ち合わせ場所に向かう錦子と相紅。到着すると、何故か凪姫までがいる。

「暇だって言ったら、ムリヤリ…。」
「親友が好きなものを一緒に楽しもうって思ってくれてもいいじゃない。」
「モノにもよるわよ…。」
「冷たいなー、錦子さんと相紅ちゃんはCDまで聴いてくれたのに…。」
「あ、弥桜。そのCDだけど、もうちょっと借りてていいかな?」
「え?え?錦子さん、もしかして気に入ってくれたんですか?!」
「あ…、まぁ、そんなトコかな…?」

 錦子の言葉に上機嫌になる弥桜。浮かれて足早にイベント会場に向かう弥桜を見ながら、苦笑いをする三人。
 イベントは、新曲2曲の発表と握手会。ステージ終了後、握手会の列に並ぶ弥桜。もちろん、相紅をムリヤリ連れて。仕方なく一緒に並ぶ相紅。凪姫と錦子は、会場の隅で二人を待つ。

「なーんかさ、アキバのイベントはいっつも盛り上がらねーな。」
「聖地なのにな。歌よりも、握手会がメインだしなぁ。」
「ま、moemiちゃんと握手できるから構わないけど。俺、この手、暫く洗わねー。」

 そんなファンの会話を聞きながら、人垣の向こうのmoemiを見つめる錦子。

「錦子さん…。そんなにmoemiちゃんが気になるなら、相紅ちゃんの代わりに行って来ればいいのに…。」

 凪姫の言葉に、まったくこの娘は…という感じで苦笑いする錦子。
 一方、握手会は弥桜の順番になる。必要以上にはしゃぎながら握手する弥桜の後ろで静かに通り過ぎようとした相紅だったが、moemiがそれに気づく。

「もしかして…相紅…?」

*

 握手会終了後、控え室に招待される弥桜と相紅。買ったばかりのCDに、念願のサインをもらって浮かれる弥桜。

「何年ぶりかしら?覚えててくれたなんて、嬉しいわ。」
「バイト先で同僚の彼女が、あなたのファンでね。CDを見て、もしかしたら…って思ってついてきたのよ。」
「バイトって…やっぱり、音楽関係?」
「全然。今は音楽からは離れちゃってるから…。アキバのメイド喫茶でメイドやってるのよ。」
「そうなんだ…。でも、お互い萌え産業ってトコは共通ね!」

 しばし歓談の後、相紅が問いかける。

「そういえば…、歌…随分変わっちゃったね…。」
「まぁね。萌えソングだからそう聞こえるのかも、ね…。
 でも、たまたま歌った萌えソングが当たったおかげで、こんなに沢山ファンもできたし、断らなきゃならないくらい仕事は来るし。最初は抵抗あったけど、この仕事を持ってきてくれた今のマネージャーには感謝してるわ。」
「……萌えソングだから…じゃ、ないと思うんだけど…な。なんてゆーか…歌から感じるものが、あの頃のmoemiとは違う…。」

 その言葉を聞いて、moemiの表情が少し曇る。

「moemi…あなた、何のために歌ってるの?」
「何のためって…歌が好きだから歌ってるのよ。好きな歌を歌って、CDが出せて、沢山のファンに囲まれて…。自分が好きな事を仕事にできるって、素敵な事だわ。
 この世界、歌い続けようと思ったら、数字が全てなのよ。CDを沢山売って、色んな所で曲を流してもらって、ドンドン順位を上げて…。数字は正直だからね。数字がいい方に向けば、自分が歌ってるって実感できる!」
「それで…、moemiはそれで楽しいの…?」
「楽しいわよ。今度の曲も、絶対1位狙うんだから!」

 その時、マネージャーから呼ばれるmoemi。

「もっと話したかったけど、もう次の仕事に行かなくちゃ。
 あ、コレ。今度ライブやるから、良かったらお友達と見に来て。」

 そう言ってチケットを手渡し、足早に控え室を出てゆくmoemi。予約できなかったライブのチケットを貰ってはしゃぐ弥桜とは対照的に、相紅の表情は浮かれなかった。

*

※後編に、つづく



 えーと…錦子がメインの第2話です。そうです。メインは錦子。錦子です!(笑)
 アバンを除いて、本筋の『月』や『闇』に関する表現が全く出て来ない前編。いやむしろ、そうなってしまったのでアバンを足したというか…(汗)

 この話は当初、戸神のオリジナル作品「重装狩兵ガルランサー」の番外編「カナリアは歌わない」をベースとして作り始めました。しかし、元々のキャラクター相関図を入れ換えて相紅というキャラクターを絡ませる事にした時、新たなエッセンスが思い浮かんだので、ベースの話とは全く違った話に仕上げてみました。(元々の話は、もう少し錦子寄り。)

 さて、後編は第1話の時ほどお待たせしない予定です。実はもう、一応の構造は出来上がっていて、後は文章に肉付けをするだけです。さらに、第3話も同じように構造が出来上がってるので、気が変わって再構築でもしない限り、テンポ良く公開できる予定です。(そう言って、2話、5話、8話は、当初のプロットから大きく変わって再構築したんですけどね(苦笑)。)
 錦子ファンの某メイドさん。錦子は後編で活躍する(はず)なので、乞うご期待!さらに3話はノンがメインで、今回全然出番のない凛華、粉雪、文が活躍の予定。そして、主人公のはずの凪姫は、ますます○ン・アス○の様になってゆく…(苦笑)。今後とも、よろしくです!


※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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投稿者 戸神由留 : 01:04 | コメント (2)

■2006年03月14日

▼ただ今、第2話再構築中

うわぁ…構想が膨らんできた…(汗)。
戸神の悪い癖だ…。

とりあえず、2話、5話、8話が、当初の予定とは違う話になりそう。
現在整理中。しばしお待ちを…。

投稿者 戸神由留 : 00:45 | コメント (0)

■2006年03月11日

▼Silent Moon-六つの月- 設定集1

まずは、メイド喫茶「SilentMoon」のメイド10人の設定を公開。
これで、シナリオを読む時に、ビジュアルが浮かびやすくなるでしょうか?(笑)



■凪姫 -Nagi-
本編の主人公。
メイド喫茶「Silent Moon」の駆け出しメイドで、キャッチフレーズは「癒しとドジっ娘が同居する天然系メイド」。
涙もろいが、芯は強い。
弥桜とは親友同士で、行動を共にする事が多い。
月の欠片「Harvest Moon」の加護を受け、6人の中で唯一の護りの力「紋章の防壁-Emblem Shade-」を使う。


■錦子 -Ginko-
メイド喫茶「Silent Moon」における、メイド達のリーダー的存在。
瞬時に状況を判断する能力に長けており、戦闘時には司令塔となる。
状況に応じて、2種類の戦闘服を使い分ける。(左のデザインは、通常モードのもの。)
月の欠片「crescent moon」の加護を受け、「真紅の旋風-Crimson Gale-」と「天空の雷槌-Zeus Thunderbolt-」の2つの力を使う。


■粉雪 -Koyuki-
メイド喫茶「Silent Moon」の看板メイド。
身長149cmの小さい体に似合わず、新米メイドにとって頼りがいのある先輩。凪姫の目標でもある。
戦闘時には、小さな身体を活かし、相手の懐へ飛び込んで戦う。
月の欠片「Waxing Moon」の加護を受け、凛華(Waning moon)との連携で繰り出す力「螺旋の遠矢-Spiral Arrow-」を使う。


■凛華 -Rinka-
メイド喫茶「Silent Moon」の看板メイド。
身長170cmの長身で、力仕事はおまかせ。
言葉遣いは悪いが、面倒見がいい先輩。
戦闘は、他のメンバーとの連携攻撃が中心。
月の欠片「Waning moon」の加護を受け、粉雪(Waxing Moon)との連携で繰り出す力「天使の光輪-Angel Halo-」を使う。


■ノン -None-
メイド喫茶「Silent Moon」の知能派メイド。
コンピュータに強く、戦術家。
しかし、基本は凪姫と同じくドジっ娘属性がある。
戦闘時は、多彩な技で皆をバックアップ。
月の欠片「Gibbous moon」の加護を受け、力そのものの性質を変える力「無限の装飾-Infinity Dress-」を使う。


■文 -Fumi-
メイド喫茶「Silent Moon」のお喋りメイド。
店内のムードメーカーでもある。
洋装より和装の方が好みらしい。
戦闘は苦手で、力は最後の切り札、が信条。
月の欠片「Dark moon」の加護を受け、6人の中で最大級の力「月光の陰影-Moonlight Darkness-」を使う。

■弥桜 -Mio-
メイド喫茶「Silent Moon」の駆け出しメイド。
明るく元気な性格だが、落ち着きがない所は玉に瑕。
凪姫の親友で、行動を共にする事が多い。

■相紅 -Milk-
メイド喫茶「Silent Moon」の縁の下の力持ちメイド。
メイド喫茶好きが高じてメイドとなった。
テキパキと動く姿と、細かい気配りが特徴。

■優妃 -Yuhi-
メイド喫茶「Silent Moon」の最年少メイド。
10人の中で唯一、月の加護に適応しない非戦闘要員。
その分、本来のメイド喫茶の店員として全力を尽くす。

■茉莉 -Mari-
メイド喫茶「Silent Moon」のベテランメイド。
錦子、五月と共にお店を立ち上げた初期メンバーでもある。
メイド達にとっての、母親的存在。

■メイド喫茶「Silent Moon」とは
 月の加護を受ける適性を持った人間が、メイドとして働くメイド喫茶。(ただし、優妃だけは例外で、その適性は持たない。その経緯は、第四夜にて。)メイド以外には、オーナー、店長、キッチンスタッフがいるらしい。
 店名は、『月の女神のメッセージ・プレート』に刻まれたメッセージの一部『静かなる月は、そこにある』から引用して付けられている。このプレートには、月の加護を受ける適性を持った者を惹きつける力があり、同時にそこから発せられる波動で闇に対する結界を形成する。

■「月の欠片」とは
 月光の女神の力が込められた欠片で、全部で六つ存在する。それぞれの欠片に適性のある人間を「月の欠片」自身が選び、月光の女神の力の一部を与える。このため、一人の人間が加護を受ける事ができるのは一つの欠片のみで、二つ以上の欠片の力を得る事はできないとされている。
 欠片に選ばれた人間は、その力を三段階で使う事ができる。
 第一段階では、その欠片を象徴する月齢の名を称える事により、欠片に込められた力が、その者がイメージする形の戦闘服として具現化される。
 第二段階では、欠片に込められた力がその者がイメージする技へと変換され、技の名を称える事により、攻撃や防御の形として発動する。
 第三段階では、再びその欠片を象徴する月齢の名を称える事により、欠片に込められた力のリミッターが解除され、続けてその力の名を称える事により技が発動する。技は月齢により異なるが、全ての月齢に共通の技として「天使の咆哮-Angel Howling-」という究極の技も存在する。

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
Copyright (c) 2006 Yull Togami. Magical-Kids. All rights reserved.

投稿者 戸神由留 : 16:14 | コメント (0)

■2006年03月05日

▼Silent Moon-六つの月- 第1話(後編)

長らくお待たせしました。後編の登場です。
一度書き上げたものが納得行かなかったので、全部書き直しました。

では、どうぞ~。

※前編は、こちらです。

*

 凪姫と錦子は、文と合流する。

「会ってきましたよ、例の娘に。」
「で、どうだった?」
「残念ながら、話は聞けませんでした。もう、関わりたくない…だそうです。」
「そう…。」
「え?文さん、いったい何の話?」
「私の知り合いに元ドリーム・メイドの娘がいてね。活発な明るい娘だったんだけど、ある日突然、出勤しなくなったらしいのよ。周囲の人が言うには、だんだん持ち前の明るさがなくなっていって、出勤しなくなる直前には、いつも何かに怯える様な感じだったらしいの。」
「それって…!」
「凪姫…。『闇』が関わった事件って言うのは、その被害が大きくなった部分に目を奪われがちだけど、それには必ずきっかけがあるのよ。
 人の心の闇は、最初から大きいワケじゃない。それに対する思いや感情が強くなるにつれて、心の闇も大きく深くなってゆく。そしてそれが『闇の結晶』と共鳴した時、心は喰われ、巨大な力となって発現する…。」
「今回の場合、萌え通信に絡んだ事件が起こる以前に、ほんの小さな綻びがあった所はどこなのか…そこを探れば、きっかけは掴める…。」
「それが、ドリーム・メイドなんですね?」
「そうよ。でも、残念ながら最後の詰めの話は聞けなかった、ってわけ。」
「事が事だけに慎重に行かないと、ね。これ以上、誰かを巻き込むわけにもいかないし、かといって放っておけば次の犠牲者が出てしまう…。
 しょーがない…オトリ、使うしかないか…。」
「え…?オトリ…って……?」

 凪姫に無言の視線を投げかける、錦子と文。

「えぇぇーーーっ!わたし…っ?!」
「他に誰がいるのよ?萌え通信に載ったの、あんた一人じゃん。」
「大丈夫。ある程度、目星はついてるし、近くで援護してあげるから!」

*

 メイド服を着て、人気のない通りを歩く凪姫。それを陰から見守る、錦子と文。3人は月の欠片の力を使い、離れた場所から会話を交わす。

「錦子さん…、なんでメイド服なんですか?たまにすれ違う人が、ジロジロ見て行くんですけど…?」
「その方がわかりやすいでしょ?萌え通信に載った写真のままだし。」
「あからさまに怪しいですよ、こんなの。オトリなのが見え見えです…!」
「まぁ、凪姫だからねぇ…。」
「文さんっ!わたし、往来でメイドコスする様な趣味は、持ち合わせてませんっ!
 それより、ちゃんと援護してくださいよ。」
「わかってるって。他の3人もこっちに向かってるから…。」

 その時、夜空に浮かぶ月が六つに分かれる!
 月は『闇』の波動を捉えると、その姿をそれぞれの月齢を象徴する六つの形へと変化させるのである。この現象が見えるのは、凪姫達、月の欠片の加護を受けた者のみ。

「『闇』が…動き出した!」

 暗闇の中に、人影が浮かぶ。次の瞬間、凪姫を大量のフォークが襲う。

「往来にシルバーが降ってくるのって、あからさまに『不自然』でしょ!」
「そんだけ、なりふり構ってないって事よ…凪姫っ!右手の公園に飛び込んでっ!!」

 公園に飛び込む凪姫。それを追うように迫る暗闇の人影。その頭上には、宙に浮いた乗用車が…!

「私ヨリ目立ツ存在…消エテシマエッ!!」
「じょーだんじゃないわよっっ!!」

 凪姫めがけて飛んでくる乗用車。一瞬早く、凪姫は大地を蹴り、月齢の名を称える!

「ハーベスト・ムゥーーンっ!!」

 月の欠片が輝き、そこから延びた光の曲線が凪姫を包む。
 月の欠片の加護を受けた者は、その月齢の名を称える事により、月の力を身に纏う。その力は、その者がイメージする形を戦闘服として具現化する。これが、力の発現の第一段階である。
 そして、ほんの数秒前まで凪姫が立っていた場所にたたきつけられる乗用車。その爆風を避けるため、凪姫は建物の陰へ滑り込む。

「きゃっ!」
「え…、弥桜っ…?!」

 そこには何故か、帰ったはずの弥桜がいた。

「何してるのよ、こんな所で!」
「だって…気になったから…。」
「ついてきたの?もぅ、弥桜は月の加護がないんだから危険じゃない!」
「こんな事になるなんて思ってなかっ…」

 弥桜の言葉が止まる。炎上する乗用車の向こうに浮かぶ人影。その炎に照らされた顔は…。

「そ…そんな…。ゆめかさん…!」

 錦子と文が駆けつける。弥桜を目にした文が叱責する。

「弥桜!あんた何やってんのよ、こんなトコで!」
「叱るのはあとよ。
 やっぱり…当たって欲しくはなかったけど、予想通りか。ドリーム・メイドの最初の事件が起こった時期から考えると…これ以上闇の力を使えば、取り返しのつかない事になるわ。」
「取り返しがつかないって…?」
「闇に侵された肉体は『人ではないもの』に徐々に変化してゆくの。それに耐えられなくなった肉体は崩壊し、適応できる肉体だった場合、その肉体は闇に乗っ取られる。そうなったら…」

 その時、突然水道管が次々に破裂する。驚く4人。

「奴は…『水の闇結晶』か…!みんな、ここから離れてっ!」

 錦子が叫ぶ。
 『闇の結晶』は全部で三つ存在する。それぞれが「風」「水」「炎」の特性を持ち、取り憑いた者にそれらを自由に操る力を与えるのである。錦子は、ゆめかに取り憑いたのは「水」の特性を持つ結晶である事を悟ったのだ。

「オ前達、見タ事アルワ。ミンナめいどネ。ミンナマトメテ消シテアゲルワ!」

 帯状になった水が4人に襲いかかる。錦子と文は瞬時に月の欠片の力を纏い、それを払いのける。しかし、力を使えない弥桜をかばおうとした凪姫が、水の直撃を喰らってしまう。倒れる凪姫。

「ゆめかさん、もう止めて!何故こんな事をするんです!」
「オ前達ハ邪魔ナ存在…。
 めいど喫茶ハ、ぶーむニ乗ッテ次々ニデキテイッタ。デモ、ソレニ従イ、本来ノめいどノ姿トハ似テモ似ツカナイ奴ラガ溢レテキタ。コノママデハ、私ガ好キダッタ、私ガ築イテキタ世界ガ、ソイツラニ壊サレテシマウ…。ソンナ事ハ、私ガ許サナイ。私ノ世界ヲ侵ス者ハ、全テ消シ去ッテヤルノヨッ!」
「そんな…、そんな考え方、間違ってる…。
 メイド喫茶に対する考え方なんて、みんなそれぞれ違うもの…。最初は、本当にメイドらしいメイドがいる喫茶店から始まったかもしれない。でも今は、その世界が広がっていくうちに関わった色んな考えの人が、色んな形で発展させて、それが好きな人達がその好きな世界で一生懸命頑張ってる…。
 自分の考えと違うから、力ずくで消し去ろうとするなんて…そんなの間違ってるっ!」
「ダマレッ!めいど服ヲ着タダケノ人形ナンテ、必要ナイノヨ。満足ニ『めいどラシイ』事モデキナイクセニ、めいどヲ語ルナンテ認メナイ!」
「わたし…ゆめかさんのお給仕が好きだった…。私とは正反対の、丁寧で落ち着いた、すごくメイドらしい仕草が好きだったわ。そんな風にお給仕できたらって…羨ましかった。だから、暇があったら、いつもドリーム・メイドでお茶してた。少しでも真似できたらって…。
 でもね、ゆめかさん。あなたは一番大事な所が、一番メイドらしくないよ。見た目だけメイドでも、あなたの心はメイドのそれとは正反対…。あなたのその歪んだ心が、あなた自身が、あなたの好きな世界を壊してる事に気づかないの!」
「ウルサイッ!オ前ニ何ガワカルッ!」
「あなた…大事なコト、忘れてるよ…。
 私たちは、私たちを慕ってくれるご主人様やお嬢様がいてのメイドでしょう?メイド喫茶に何を求めてくるかは、お客さん次第。自分の考えを押しつけるためにやってるんじゃないわよ!」

 倒れていた凪姫が会話に割って入り、ゆめかに言い放った。その瞬間、ゆめかは怒りの形相に変わり、その肉体に急激な変化が起こる。
 同時に、凪姫達の足下の水たまりが渦を巻き始める。とっさに弥桜を突き飛ばす凪姫。その次の瞬間、水たまりは水柱となり、凪姫をその中に閉じこめた。

「ソノ中デ、私ニ刃向カッタ事ヲ後悔シテ、溺レ死ヌガイイワッ!」
「凪姫っ!」

 言葉で解決できるなら、力を使う必要はない…。そう考えて見守っていた錦子と文だったが、ゆめかの肉体の変化を目の当たりにして、力を使う決意をする。しかし…

「ヤツと凪姫が近すぎる…。私の技じゃ、凪姫まで巻き込んでしまう…!」
「文は弥桜を保護して!私はヤツの背後に回って、『闇の結晶』を直接狙うわ!」

 『人ではないもの』に対する攻撃は、『闇の結晶』を直接狙わなければ効果がない。肉体をいくら攻撃しても、取り憑かれた者の肉体が傷つくだけで『闇の結晶』自体はダメージを受ける事はない。そして『闇の結晶』は、その肉体が使い物にならないと判断した時、次の肉体を求めて消え去るのである。
 錦子は、ゆめかへの接近を試みる。しかし、水が豊富にある公園という状況が災いし、容易に近づく事ができない。だがその時、巨大な光の刃が水柱を霧散させ、同時に全ての水が凍りついた。

「なーにやってんだよ。俺様がいないと、なーんもできんのか。」
「凛華!遅いじゃないっ!」

 先刻の光の刃は凛華が、全ての水を凍らせたのは粉雪が、それぞれ放った技だった。そして、ぐったりした凪姫をノンが素早く助け出す。

「粉雪、一気にカタつけるよっ!」
「わかったわ、凛華!」

 左右に散開する凛華と粉雪。二つの力を合わせた連携技を使えるのは、唯一この二人のみ。『人ではないもの』となった者に対し、最も効果的な攻撃を仕掛ける事ができるのである。
 最初の攻撃で凛華が相手の動きを封じ、続いて粉雪が的確に『闇の結晶』を射抜く。しかし、粉雪はその攻撃の直前で手を止めた。

「凛華の攻撃が決まる直前に、『闇の結晶』は逃げちゃったわ…。」

 確かに、凛華の技で捕らえられたゆめかからは、邪気は感じられなかった。技を解除し、気絶したゆめかをベンチに寝かせる凛華。

「『闇』の力なんかに頼らなくても、あなたなら素敵なメイドでいられたはずなのに…。」

 弥桜が静かに呟く。その目にうっすらと涙を浮かべて…。

「『闇』はいつも、こんな風に心の隙間に付け入る瞬間を狙っているわ。彼女が『闇』に魅入られたのは、心の弱さがあったからよ。その代償として、彼女はこれから自分が傷つけた人達への贖罪と、自らの身体に受けた傷を背負って生きていかなければならない…。」
「こんな悲しい出来事をこれ以上起こさないためにも、私たちが早く、全ての『闇の結晶』を封印しないと、ね…。」

*

 数日後、ドリーム・メイドの前を通りかかる弥桜。女性客の話が聞こえる。

「えー。ゆめかさん、辞めちゃったの?」
「そうなのよ。もうショック!あんな素敵な接客が出来る人、そういないよ。」
「女の子に人気あったのになぁ。私、ゆめかさんに会いにココに通ってたのに…。」

 それを聞いた弥桜は、少し頷く。そして、吹っ切るようにその場を足早に立ち去る。仲間の待つ「Silent Moon」に向かって…。

Silent Moon~六つの月~ 第一夜「闇を駆るもの」・-完-


 ベタですいませんっっっ…!(汗)
 一応、メインの6人は全て出せるように工夫したつもりなんですが…、明らかに文の扱いが薄いな…。というか、当初は凪姫の話だったはずが、何だか弥桜の話になってしまってる。主人公なのに…(苦笑)。(まるで、シ○・ア○カの様だ…(爆)。)
 後編が前編より長い気がするのは、多分気のせいです。説明的なのも気のせいです。長セリフが多いのも気のせいです。面白くないのも気のせい……(汗)。
 この後の展開は、第6話まで1話完結で進行予定です。次回第2話は、錦子と相紅がメインのお話し。サブタイトルは、第1話と同じく、当初一部で発表したものとは変わる予定。内容が、初期のプロットとは随分変わっちゃったので…。
 さて、この場を借りて謝辞です。
 出たいと言ってくださる奇特な皆様、ありがとうございます。こんなド素人の作品とも呼べない形のものへ、様々なラブコールをいただき、感謝感激雨霰です。例えそれが洒落であっても、執筆の活力になります。
 そして、もうひとつ。「TЁЯRA」というアーティストと出会わせてくれたメイドさん、ありがとうございます。そのアルバムは、まさにSilent Moonの世界感にピッタリの音源です。BGMとして使いたいくらい。執筆中、ずっと聴いてたりします。ホント、ありがとです!
 次は、第2話の前に、デザイン的な部分と設定に関わる部分を公開する予定です。設定に関する説明をシナリオ部分に盛り込むと、無駄に長くなるので切り離すつもり。絵を見たいと言ってくださった方も、お楽しみに。
 あ。気が向いたら、感想や叱咤激励など、よろしくです。

※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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投稿者 戸神由留 : 02:40 | コメント (2)

■2006年02月25日

▼煮詰まった

ダメだ…
後半、納得行かなくて、全部書き直し。

2話以降の方が、すんなりまとまってる気がする…。
(第1話を考えるのが嫌いなヤツ…(苦笑)。)

*

絵の方は、ちょっとずつ描き溜め中~。
その内、出します。

投稿者 戸神由留 : 14:36 | コメント (0)

■2006年02月21日

▼Silent Moon-六つの月- 第1話(前編)

さて、ごくごく一部の方、お待たせです(笑)。
根性ナシなので、とりあえず前半のみ。

決定稿じゃないので、ある日突然書き変わってたらご愛敬って事で…(苦笑)。



ガシャーン…

「きゃぁぁぁ、ごめんなさいぃっー…。」
「なぁーぎぃぃーーーっ!!」

 いつもの様に、けたたましい声が響く。ここは架空の街「アキバ」の一角にあるメイド喫茶「Silent Moon」。メイドデビューから3ヶ月、凪姫(なぎ)はドジっ娘メイドという不名誉な称号を与えられていた。

「まぁ、凪姫だからねぇ…。」

 そんなどこにでもある、メイド喫茶の日常。しかし、彼女たちはもう一つの顔、非日常の顔を併せ持つ…。

*

悪しき三つの魂 解き放たれし時
月は六つに分かれ その闇を照らし
月の加護を受けし者
月齢の名の下に 白き翼 与えん

悪しき魂は 人の心を喰らい
心喰われし人 異形のものとなりて
黒き翼 生み出さん

其は 滅びへ向かう驚異なり
封じるは唯ひとつ 真(まこと)の月のみ

六つの月 集いし時 汝 その名を称えよ
さすれば其はひとつになりて その想い叶えん
見えざるものこそ 求むべき力なり
静かなる月は そこにある---


Silent Moon~六つの月~ 第一夜「闇を駆るもの」


 Silent Moonの店内。店の一番奥の席に座る二人組の女の子。一方は泣きじゃくり、一方は慰めている。凪姫は給仕する際、そっとハンカチを差し出す。それを見ていた凛華(りんか)が、戻ってきた凪姫に話しかける。

「凪姫。あのハンカチ、店のポイントカード特典のだろ?」
「あ…見てました…?ダメでしたか…?」
「ま、1枚くらい構わないけど。お前の給料から引く様に店長に言っといてやるよ。三万円な。」
「え…ひど…っ!」
「ふふ。それが、凪姫ちゃんのイイトコなのよね。何たって『癒しとドジっ娘が同居する天然系メイド』だもんね。」
「あぁぁ…粉雪(こゆき)さん。それ、言わないで…。」

 話題は、萌え情報を集めたフリーペーパー「萌え通信」へ。凪姫はその最新号に、そのアオリと共に店の代表として掲載されていた。

「何で私が…。凛華さんか粉雪さんが出てくれればよかったのに。」
「そうよねー。凪姫じゃ、萌えないもん。」
「弥桜(みお)…いくら友達でも、その言い方…ひど…い…。」
「私は『ドリーム・メイド』の『ゆめか』さんみたいな人の方が萌えるなー。」
「はいはい。私なんかじゃ、全然萌えませんよ…。」

 「ドリーム・メイド」は、最近噂のメイド喫茶。アキバ以外にあるメイド喫茶の中では、一番評判のお店である。弥桜は、そこで働くメイド「ゆめか」がお気に入りだった。話の流れで、勤務後に二人でお茶しに行くことになる。
 夕刻。凪姫と弥桜は「ドリーム・メイド」へ。お気に入りの「ゆめか」の出迎えを受け、舞い上がる弥桜。その舞い上がり様に、親友とは言え、半ばあきれ顔の凪姫。そんな二人に、一瞬、視線を投げかけるゆめか。いや、むしろ凪姫に…。

「あー。やっぱり、ゆめかさんには癒される♪」
「そっか。弥桜って、ああいう落ち着いた感じの人がお気に入りなんだ。人間、自分にないものを求めるって言うからなぁ…。」
「何それ?私が落ち着きがないとでも?」
「え?あるの?」

 互いに顔を見合わせて沈黙する二人。その時、一人の客が入店してくる。

「あ…!錦子(ぎんこ)さん!」
「ん?何だ、あなた達も…。」
「錦子さん、今日お休みですよね?一人でお茶ですか?」
「え…。(一瞬間が空いて)まぁ、そんなもんかな…。」

 そう言いながら、足早に二人と同席する錦子。少し苦笑いし、「まぁ、この二人に期待するのは無理か…。」と心の中で呟く。
 そして、錦子が萌え通信を手にしているのに気づく凪姫。

「錦子さんまで…。そんなにみんなで私を笑いものに…。」
「あぁ…凪姫も載ってたんだっけ?そんなつもりで持ってたんじゃないわよ。」
「あ、もしかしてゆめかさんですか?載ってますもんね。私も永久保存版です♪」
「弥桜。私は永久保存版じゃないの?」
「あ・り・え・な・い・!」

 その後、しばしの間、談笑する三人。そして店外へ出た直後、弥桜が切り出す。

「何か、ずーっとゆめかさん見てましたけど、錦子さんもゆめかさんのファン?」
「まさか…。ちょっと『月』が騒ぐから、ね。凪姫は何も感じなかったの?」

 錦子の思わぬ言葉に、一瞬立ち止まる凪姫と弥桜。

「え…。まさか、『闇の結晶』…?」
「今は何とも言えない。でもね、この萌え通信に載ってるメイドが、最近、次々に怪我したり事故にあったりしてるのよ。だから、載ってるメイドを順番に見て回ってる。」
「じゃ、ゆめかさんも危ないんじゃ…!」
「ちょっと弥桜。私の心配してよ!」
「凪姫は月の加護があるじゃない。いざとなったら、へんしーん…!」
「ホントに『闇の結晶』だったら、そんな冗談言ってられないわよ!」

 錦子が真剣味の足りない二人を諭す。その時、錦子の携帯が鳴る。ノンからだ。

「どう。分析は?」
「時間帯はバラバラ。でも、どちらかというと深夜の方が多いかな。それよりも、怪我の場所が…ビンゴです。」
「やっぱり。じゃ…」
「えぇ。ほとんどのメイドが、萌え通信のインタビューで、チャーム・ポイントとされてる所を怪我してます。事故自体も不自然なものが多い。
 そしてもう一つ。アキバでは事故が一切起こっていない…。」
「なるほど…。アキバのメイドは、アキバ以外の場所で事故に遭っている…と。」
「ですね。やはり、これは『闇』の…。」
「そのデータ、メールで送って。」

 そう言って電話を切る錦子。凪姫が口火を切る。

「やっぱり『闇の結晶』が関わってるんですか?」
「ノンの話だと、ほぼ間違いないでしょうね。怪我はメイドの自慢の場所、不自然な事故、アキバでは起こらない…。これは、偶然じゃないと思うわ。何者かの意志によるもの…。」
「あ…、アキバは月の女神の結界があるから…。」
「そう。『闇の結晶』は手が出せない…つじつまは合うわね。」
「何の目的で…。メイドを狙うなんて、許せない!」
「目的…というよりは、人間の心の闇…潜在意識、欲望、怨念…。『闇の結晶』はそう言ったものを好んで喰らう。明確な意志で、というよりは、本能的な部分を闇に喰われた事による暴走、でしょうね。
 目がチャームポイントで、事故で失明したメイドもいると聞くわ。このまま放っておく訳にはいかないわね。」
「メイドに対する恨み…。それとも、嫉妬…?」
「あ…じゃ、ゆめかさんは…!」

 慌てて萌え通信を見る弥桜。しかし、そこに書かれていたことは…『特にありません。』

「特に…か…。そう言えば、ゆめかさんのいい所って、あの落ち着いた接客…。」

 そして、ノンからのメールが届く。メールを見ながら、考え込む錦子。

「弥桜…。あの、ゆめかってメイドのシフトはわかる?」
「全部じゃないですけど…、お店で会えた日はメモってますよ。あと、偶然街で見かけた日と場所も。」
「見せてもらってもいいかな?」

 暫くそのメモを見た後、錦子は弥桜に告げる。

「あとは私と凪姫で調べるわ。弥桜は月の加護はないし、先に帰ってて。」
「わかりました。凪姫、ゆめかさん守ってよね!」
「了解…ていうか、私の心配もしろっ!」

 弥桜を見送った後、錦子が呟く。

「『月』に関わってるからって、全てを知る必要は…ない…。」
「え…?」
「何でもないわ。文(ふみ)が待ってるから、合流するわよ。」
「あ…はい!」

 少し悲しげな表情の錦子を、凪姫は見逃さなかった…。

*

※後編につづく



 とりあえず、第1話(前半)でした。後半は、ただ今執筆中です…(汗)。
 何故、後半まで一気にアップされないかというと、1エントリーが長文になると携帯等の簡易端末で表示しきれなくなるからなのです。決して、技の名前が決まってないとか、誰がどの月齢か決まってないとか、ましてや、サブキャラクターの名前がまだ決まってないから何てことはありま…せ……すいませんすいませんすいませんすいません…。

 さて、本企画はシナリオとラフ・デザインの公開を主とした企画です。一見、小説の様にも見えますが、決して完成された作品ではありません。
 何らかの完成作品を作る場合、まず全体のプランを網羅した草案をつくり、それを元にシノプシスを書き、そこからシナリオを起こします。(必ずしも、全ての作品製作工程がそうというわけではないですよ。)その後、完成作品の形態に合わせた形の台本なりコンテなりネームなりを起こしていくのですが、本企画ではそこまでは書き上げません。到底無理だと思うし…(苦笑)。ましてや、漫画やドラマ、アニメなどの形に仕上げようなどとは、これっぽっちも思ってません(笑)。どこかの奇特な方に仕上げていただけるなら、ぜひともお願いしたいですが…(他力本願)。ありえねー(笑)。
 そんなわけなので、曖昧な表現やバッサリ書かない部分なども出てきますが、そこは行間を想像していただけると幸いです。

 では、後半執筆してきます!あと、リクエストが多いので、デザインなども公開する事にしました。ただし、こちらも完成形態ではなく、鉛筆のラフ画ですが…。
 あ。コメント欄に意見や感想をいただけると泣いて喜びます。匿名でも結構ですよ?リアルで会った時に、あれ自分です、とか教えてくださいませ(笑)。


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投稿者 : 00:00 | コメント (0)

■2006年02月09日

▼エール

とある素敵な方から、
レシートに激励のメッセージをいただきました。

>更新、楽しみにお待ちしています。笑

プ…プレッシャー……(汗)
いや。既に冒頭を5回も書き直してたり…。
どうも、しっくり来ない。

ちょっと切り換えられる刺激がほしいなぁ。

投稿者 : 23:59 | コメント (0)

■2006年02月05日

▼Silent Moon 序章・その1

というわけで、ちょっとでも進めないと一向に進展しない気がしてきたので、
とりあえず、世界観などに軽く触れてみる序章の巻…(苦笑)。

*****

■まぁ、ざっとこんな話
そもそもは、とある企画のために考えたオリジナルストーリー。
しかし、その企画が現在停滞中なので、
せっかく考えたのだから…と、戸神が考えた部分だけを抜き出して
発表してみよう、というのが経緯だったり…。

舞台はメイド喫茶と、そこで働くメイドさん。
まぁ、いわゆるオマージュ的作品?(笑)
登場するメイドさんも、実在するメイドさんをモデルに、
特徴的な部分をピックアップして、似た傾向の方数人をブレンドして設定。
よくお世話になってる方や親しくしていただいてる方が主なので、
ご本人やその周辺にはバレバレかも?(笑)

単にメイド喫茶の日常を描いてもつまらない(ってゆーか、書けない)ので、
戸神の得意分野のSFものとしてまとめてみた。
とある人に最初に話した時、「○ー○ー○ー○」という指摘を受けたので、
なるべくそうならない様に演出したつもり。
(そもそも、戸神はその作品を見た事がないのだが、
このご時世、コンセプトや設定の似た作品はゴロゴロしてるわけで、
要はどう独自色を出した演出、展開ができるか?次第だと思うわけですよ。)
なので、絶対、西洋風にはしない!(笑)
(いや。衣装が既に西洋風ですが…。てか、「メイド」自体が…(汗)。)

古くから伝わる、ある「力」が込められた欠片と、
それにまつわる魔物との闘いを描くストーリー。
(これだけ書くと、まるで犬○叉(笑)。)
独自色が出せたらいいなぁ…。
ま、気が向いたら読んでやってくださいませ、て感じかな?


■登場人物・その1
まずは、第1話~第7話までのメインキャラクターについて。
先に書いたとおり、モデルになってるメイドさんが実在。
現役だったり、卒業してたり、色々。
誰が誰…という詮索はご自由に。正解は書かないけどね(笑)。

●凪姫(Nagi)
本編の主人公。
メイドとして一人前にはほど遠い、ドジっ娘メイド。
涙もろいが、芯は強い。
6人の中で、唯一護りの力を使う。

●錦子(Ginko)
メイド達のリーダー的存在。
瞬時に状況を判断する能力に長けている。
戦闘時は司令塔となる。6人のまとめ役。

●粉雪(Koyuki)
身長149cmの小さい体に似合わず、頼りがいのある先輩。
凪姫の目標でもあるベテランメイド。
戦闘の要、ツートップの前衛。

●凛華(Rinka)
身長170cmの長身メイド。
言葉遣いは悪いが、面倒見がいい先輩。
戦闘の要、ツートップの後衛。

●ノン(None)
コンピュータに強く、戦術家。
しかし、基本は凪姫と同じくドジっ娘メイド。
戦闘時は、多彩な技で皆をバックアップ。

●文(Fumi)
洋装より和装の似合う、お喋りメイド。
店内のムードメーカーでもある。
戦闘は苦手で、力は最後の切り札、が信条。

残りのキャラクターについては、その2で。
(え?まだ序章終わらないの?(苦笑))


■タイトルについて
タイトルの「Silent Moon」は、主人公が働くメイド喫茶の名前。
由来は、月の欠片にまつわる文書の記述から。
これ以上はネタバレになるので、後は本編内にて…(笑)。


げ…、こんだけ書くだけで数時間…。
先が思いやられる…(汗)。


※この物語はフィクションです。実際の社会・団体・人物等とは一切関係ありません。
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投稿者 : 03:44 | コメント (0)

■2006年02月04日

▼あぁぁ…1月スタートできなかった訳で…(苦笑)

いや。
デザインが…
デザインが…
デザインが…
デザインが…
デザインが……

文字企画にデザイン?とか言うつっこみはナシで…(汗)。

silentmoon01.jpg

そんなわけで、とりあえず検討中のものをアップ。
これをベースに、自分が描きやすいデザインに微調整する予定。
            ↑これ、重要(笑)。

で、一応現物も作ってみようかと目論見中。
何に使うかは……まぁ、お楽しみに。(戸神に近しい人なら、大体想像つくはず。)

さて、あと最低12着デザインしないといけないんですが…(汗)。
いや、何でそんなこと考えてしまったんだ?
キャラもまだ5人くらいできてないのに…。
おかしい。今作、割とデザインもの少なくなる様に構築してるはずなのに。
いやぁ。こうやってると、プロってすごいなーと思う。

こんな駄文書いてる間に、本編やれよ、というつっこみはナシで…(笑)。

投稿者 戸神由留 : 14:00 | コメント (0)

■2006年01月10日

▼静かなる月は、そこにある…

bn_silentmoon.jpg

というわけで、めどがついたので告知~(笑)。
(毎年、新企画を立ち上げては立ち消えになってるので…(苦笑)。
今度は大丈夫なはずだ。うん。)

新企画…っても、実は1年以上温めてる企画だったり…。
とりあえず、文字、音…くらいまでは、なんとかなりそう…?(弱気)
某所ではイメージイラストを8話目まで描いてたりするのだが(本日現在で)、
とりあえず、自分で絵にしたものを出すかどうかは未定。
(リクエストが多ければ、出します。リアルでのリクエストは不可ですよ?)

今月中に1話目が出せればいいかな?
(あ~あ、言っちゃったよ…(苦笑)。)

ま、なるようにしかならんけどねー。

*****

おまけ:
過去の企画、その後。

[Project ALICE]
色んな形でやりたい事はやりたいですが、
やはり立ち上げが写真企画だったので…。
オクラ…というよりは、発表形態を模索中デス。

[To the wings of courage, and far that direction.]
あぁぁ…ホント申し訳ない…(平謝)。
動画企画…なだけに、置き換えとかムリ…。
そもそもコンテが大がかりすぎた。
でも、何かの形で世には出したい…なぁ。

え?他…?
えーと、えーと、えーと…。何かあったっけ…?(汗)

投稿者 戸神由留 : 01:58 | コメント (2)

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